早発閉経の遺伝子 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

最近、遺伝子検査による新たな診断や治療の可能性が報告されています。2014.5.3「無精子症の原因遺伝子」では、精子形成に可憐する遺伝子をご紹介しました。男性の無精子症と類似の病態として、女性では早発閉経(早発卵巣不全、POI)があります。本論文は、早発閉経の遺伝子について調査したものです。

Fertil Steril 2014; 101: 852(韓国)
要約:早発閉経137名と対照群227名PAI-1遺伝子多型を分析しました。両群全ての方は染色体正常で、平均年齢はそれぞれ31.67歳と32.21歳でした。早発閉経の定義は、40際未満で6ヶ月以上(本来の定義は4ヶ月以上)生理がなく、1ヶ月以上の間隔をあけて測定した2回のFSH値ともに40 IU/L以上としました。PAI-1遺伝子多型のうち、9785GA+AA、-844A/9785A、4G/9785A、9785A/11053Gが、早発閉経に関連していました。また、-844GA+AA、11053TG+GGは対照群のE2低下に関連していました。

解説:早発閉経は1.1%の頻度で認められ、アジア人で低いことが知られています(中国人0.5%、日本人0.1%)。発症要因は不明ですが、FSHやFSH受容体の遺伝子変異や機能異常の可能性が示唆されています。遺伝子多型に関しては50編以上の論文が発表されており、早発閉経の方では血栓症のリスクが高いことが報告されています。血栓形成には、VEGF、一酸化窒素合成酵素、VEGFR-2、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素、アンギオテンシン受容体1、PAI-1などが関連しています。PAI-1は、プラスミノーゲンをプラスミンに変換するPA(tPA、uPA)を阻害する因子です。現在10種類のPAI-1遺伝子多型が報告されており、本論文は早発閉経の方でPAI-1遺伝子多型を調査した初めての報告です。

PAI-1は、卵胞発育、排卵、着床に関連する可能性が示唆されており、PAI-1遺伝子多型のうち4G4Gは、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、子宮内膜症、習慣流産、体外受精反復不成功との関連が報告されています。PAI-1遺伝子多型がこれらの病態をもたらす詳細なメカニズムは不明ですが、tPAやuPAによって細胞外マトリクスが分解される過程が重要なのではないかと考えられています。tPA/uPA欠損マウスでは、排卵が26%にまで抑制されることが報告されています。また、PAI-1遺伝子多型によるPAI-1蛋白の過剰発現は、血栓形成を促進し、組織や細胞に虚血性のダメージを与えるるため、原始卵胞が消失するのではないかというストーリーが考えられます。

早発閉経の方の中でおよそ90%は、診断がついた時点でお子さんが居ません。本論文のような研究が進み、遺伝子検索により早発閉経になりそうな方を早期に見つけることができれば、早めの対策を施すことができます。そのような時代は近い将来、必ず訪れると思います。