石川先生と私 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

石川智基先生と私は、診療科、出身地、出身大学などは異なりますが、2人とも一生懸命働く(work hard)ことを信条とし、常に前を向いて、世界の最先端を目指すなど、多くの共通点があります。「患者さんの妊娠に向けてどうしたら良いか」ということが基本であり、「スピード感」を重視し、常に全力投球で努力を惜しまない、そんな2人です。

「リプロダクションクリニック大阪」は「夫婦で一緒に通院•治療」をコンセプトにオープンしました。妊娠治療は「ふたり」の問題として、「ふたり」が協力して治療にあたることが大切だからです。当院は、最先端の男性妊娠治療と女性妊娠治療を同時に診療できる、日本で初めてのクリニックであると自負しており、これまではこのメリットを主に患者さんの視点から捉えていました。

石川先生と私で「リプロダクションクリニック大阪」の診療にあたり7ヶ月が経過した現在、「夫婦で一緒に通院•治療」による別のメリットがあることがわかってきました。医師の立場としてのメリットです。当院の構造上、診療スペースは裏動線が全てつながっており、常にディスカッションをしていますし、採卵や移植を石川先生が見る、あるいはmicro-TESEを私が見る機会が頻繁にあります。すると、知らず知らずのうちに、相手の分野の知識が身に付いてきます。石川先生から「いいブラストようけできとるやん」「これは、単為発生やね」という発言が聞かれ、私は「germ cellが結構ありますね」「ヘテロで精子がありそうですね」と言ってみたり、これが日常的な会話になっています。つまり、石川先生は多分、日本で最も「卵子(胚)に詳しい」泌尿器科医であり、私はおそらく、日本で最も「精子(精巣)に詳しい」産婦人科医ではないかと思うわけです(証拠はありません)。

妊娠治療においてお互いの分野に詳しくなるメリットは、実は計り知れないのではないかと考えています。妊娠治療には時間の制約(卵子の老化、精子の老化)がありますから、「スピード感」が大切です。お互いの診療を理解し合うと、男性カルテと女性カルテを見比べながら、最適(最短)な治療方針を立てることができますので、自分の分野の診療にこだわった自己満足的な診療がなくなり、「患者さん本意の診療」が自然とできるようになります。

「患者さん本意の診療」は医師として当たり前のことのように思えるかもしれませんが、実際は様々な条件によって左右されますので、同じ知識や技術があったとしても同じ診療にならないことが多々あります。たとえば、院内にAという医療機器がなければAを使った治療を勧めないとか、Bという手術手技を習得していなければBの手術を勧めない、あるいは医師としてはCを行いたいのだけれども院長の方針でCは行わない、といったことがあります。このようなことは本来あってはならない(あって欲しくない)ことなのですが、現実的にはよく見受けられることです。当院では、妊娠治療においては、できないことはないようにしたいと考えていますので、開院当初には準備できなかった医療機器の導入を順次進めています。また、医師としての知識レベルが異なれば、必然的に治療方針も変わります。昔の常識は今では非常識となっていることも少なくありませんので、医療を行うにあたっては知識の更新が必須であり、医師は一生勉強しなければなりません(と考えています)。私のブログも医師を含めた医療関係者の読者が多く、そのお役に立てれば良いと思っています。

石川先生も私も、「リプロダクションクリニック大阪」の診療で鍛えたノウハウを多くの方に還元できないかと考えています。当院は全てオープンですので、開院当初から医療関係者やメディアの方が非常に多くお見えになっています。私たちにできることは限られておりますが、日本全国の妊娠治療のレベルアップに微力ながら貢献できれば幸いと考えております。