良き理解者や相談者を考えた時に、通常キーパーソンは配偶者か両親となるわけですが、子どものできにくいご夫婦にとって、配偶者も両親もキーパーソンになることができません。配偶者は当事者であり、両親には子供がいるからです。お子さんを苦労なく授かった方には、お子さんがなかなかできない方の本当の気持ちはわからないと思います。ですから、両親が良き理解者や相談者になれないことは、容易に想像がつきます。「他人の立場に立って物事を考えましょう」と言っても、当事者になって初めてその人の気持ちが理解できるのが人間の性(さが)だと思います。したがって、妊娠治療に通われているご夫婦は、どうしても孤立しがちになります。
そんな時には、看護師や臨床心理士がよき相談者となります。多くのクリニックでは、このような支援体制を持っています。結果が出ない時、怒りの矛先のやり場がない時、温かく見守ってくれる相談者が必要です。他の病気と同様に、「妊娠しにくいこと」は誰が悪いとかいうことではありません。「なぜ、こんな病気になってしまったのでしょうか」という問いに答えがないのと同様に、「なぜ、なかなか妊娠しないのでしょうか」という問いにも答えはありません。
「先生は冷たいです」と思われることも多々あるでしょう。現実を冷静に伝える役割を担っているのが医師です。いつもハッピーとは限りませんし、言いたくないことも言わなければなりません。医師の能力は、冷静沈着、判断力、行動力、機転、実技(手技)にあると思います。これらは、知識の裏付けがあって初めて現実的なものとなります。日々勉強を重ね、少しでも皆さんの妊娠に貢献できたらと思っています。
看護師、臨床心理士、胚培養士、検査技師、アシスタント、事務など医師以外の職種が重要であるのは、このような観点からであり、クリニック全体が良いチームとして機能している施設が良い施設なのだと思います。そのようなクリニックを目指して、チームを育てていけたらと考えています。