松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。


テーマ:
亜鉛と不育とプロテインSについて質問がありましたので、論文を調べてみました。

BMC Research Notes 2013; 6: 421(パキスタン)
要約:Wilson病の女性を亜鉛で治療し、3名から合計4回の妊娠が成功しました。
症例① 30歳、初期流産2回と妊娠30週死産1回の既往歴あり、兄弟姉妹もWilson病
    亜鉛150mg/日→銅76.5 μg/dL、セルロプラスミン0.03 g/L→3.0kg男児出産
症例② 33歳、流産1回の既往歴あり、妊娠高血圧症候群となり緊急帝王切開にて出産
    亜鉛90mg/日→銅70.8 μg/dL、セルロプラスミン0.07 g/L→3.3kg男児出産
症例③ 21歳
    亜鉛180mg/日→セルロプラスミン0.1 g/L→3.4kg男児出産、妊娠高血圧
    亜鉛180mg/日→セルロプラスミン0.73 g/L→3.5kg男児出産、妊娠高血圧
なお、基準値は、銅 118~302 μg/dL、セルロプラスミン 0.25~0.63 g/Lです。

解説:Wilson病は非常に稀な常染色体劣勢遺伝性疾患で、5~10万人に1人の頻度でみられます。13番染色体の長腕にあるATP 7B遺伝子変異によるもので、胆汁の排出とセルロプラスミン(銅と結合するタンパク質)の吸収が阻害されるため、銅が肝臓、脳、眼、腎臓に蓄積します。その結果、肝障害、肝硬変、神経系の異常による運動機能障害(奇異性壁運動、振せん)、眼障害(角膜輪部のkayser-fleishcer ring)腎障害(腎尿細管障害)を引き起こします。

また、Wilson病の女性は妊娠しにくく、妊娠しても流産しやすいことが知られています。これは、肝障害による生理不順や、子宮内膜に銅が沈着することによると考えられています。子宮内避妊具(IUD)の多くはプラスチック製の器具ですが、銅を添加した器具の避妊効果が高いことが知られています。過剰な銅が子宮内膜に蓄積すると、この銅を添加した避妊具と同じような効果が出現するのではないかと考えられます。

Wilson病の方は治療しないと死亡率が高く、早期の治療が望まれます。亜鉛の他にも、ペニシラミン、トリエンチン(銅排泄促進薬)、テトラチオモリブデートなどが用いられ、妊娠成功例が報告されています。亜鉛は消化管からの銅の吸収を阻害することで、銅の濃度を低下することができます。ペニシラミンでは胎児の結合組織異常が1例報告されている他、創傷治癒が遅れますので帝王切開では使用しにくいものです。トリエンチンは母体および胎児に悪影響は生じていません。

妊娠中の銅とセルロプラスミン濃度は変化します。妊娠24週までは増加し、その後減少します。減少するのは、24週以降に胎児が銅を必要とするためと考えられます。生まれた赤ちゃんには12mgの銅が存在し、母体の血液から毎日0.044mgの供給を受けている計算となります。

本論文を何気なく読んでいると、「亜鉛はWilson病の不育治療に有効なんですね、でも私には関係ないや」で終わります。しかし、この事実を良く考えてみると、いくつかの大切なヒントを提示していると思います。原因不明不妊症や原因不明不育症の方では、銅濃度が高くセルロプラスミン濃度が低いかもしれません。あるいは、亜鉛の濃度が低いため銅濃度が高いかもしれません。特殊な病気の症例検討から思わぬ発見があり、医学が進歩するのはよくある話です。Wilson病とは関係なく、銅と亜鉛濃度について検討してみる価値がありそうです。
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