間違ってAMHが高く出る場合があります | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

検査結果で一喜一憂してしまうのが人間の性(さが)ですが、結果が理論的に一致しない場合、検査が「間違っている」かもしれないことを念頭に置く必要があります。本論文は、AMHが74.5 ng/mLと極めて高い結果が出ましたが、よく調べてみるとAMH検査に反応する物質が含まれており、実際は0.63 ng/mLと低い数値であったという症例報告です。このような現象は、AMH検査では初めての報告になります。

Fertil Steril 2013; 99: 1729(フランス)
要約:慢性関節リウマチ(RA)が持病にある37歳の女性の血液検査を行ったところ、AMHが74.5 ng/mLと異常に高い数値でした。AFC(胞状卵胞数:2~9mmの小卵胞数)は左右とも7つずつであり、AMH値がAFCとも年齢とも一致しません。その他の検査結果では、生理周期3日目のLH 3.2 IU/L、FSH 4.5 IU/L、E2 27 pg/mL、プロラクチン10 ng/mL、HBs抗原(+)、HBs抗体59 IU/L、梅毒ワ氏(±)、TPHA(—)、抗リン脂質抗体(—)でした。陽性検査は、もう一度採血して再検査を行いましたが結果は同じでした。HBs抗原と抗体が同時に陽性に出ることはないこと、梅毒反応生物学的疑陽性(BFP)があること、RAが持病にあることから、AMH検査キットの中で免疫学的に何らかの反応が出てしまってAMH値が高値を示しているのではないかと考えました。そこで、HBT(Heterophilic Blocking Tube)という特殊な試験管を用いてAMHを検査したところ0.63 ng/mLという結果が得られました。

解説:RAの方は様々なIgGに結合するIgM抗体(RF:リウマチ因子)を持っています。この方は、抗ヒトIgG抗体IgMと抗動物IgG抗体IgMが陽性ですが、HBTを用いてもこれらの抗体は変化しませんでした。つまり、この方はRFではなく他の物質(抗体)がAMH検査を妨害していることになります。このような現象は、ホルモン検査(LH、FSH、hCG、TSH、サイログロブリン)、感染症検査(HBs抗原)、腫瘍マーカー検査(CA125)、心筋梗塞マーカー(トロポニン)などの測定の際にしばしば起こる(0.03~3.7%)ことが知られています。専門的には、競合阻害法では起こりにくく、それ以外の方法(特にサンドイッチ法)で起こりやすいものです。本論文のAMH検査もサンドイッチ法で行われていました。この現象は、検査結果の数値が高く出ることも低く出ることもあり得ます

あたりまえのことですが、検査結果を判断するときには、全体をよく見て慎重にならなければいけませんというひとつの例です。自らが試験管を降り、検査機器を動かすというような研究を行った経験のある医師であれば、どんな場合には誤差が出やすいとか、どんなことが起こりえるかとかが理論的あるいは経験的にわかります。しかし、それを差し引いて考えても、AMHが74.5 ng/mLまで異常に高い数値が出るとはなかなか思いません。私たち医療者は、このようなことにも気をつける必要があります。