体外受精のあとにも性交を! | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

体外受精胚移植後は性行為をしないカップルが多いかもしれませんが、むしろ普段通りにしていたほうがよいと思います。本論文は、胚移植前後に性交を行うと妊娠継続率がよいことを示しています。

Hum Reprod 2000; 15: 2653
要約:胚移植前後の性交が妊娠率に影響するかについて、前方視的多施設共同研究を行いました。478周期の胚移植をランダムに性交群と非性交群に分けました。妊娠率は性交群(23.6%)と非性交群(21.2%)で有意差を認めませんでしたが、妊娠6~8週までの妊娠継続率は性交群(11.0%)が非性交群(7.7%)より有意に高くなっていました。

解説:若者の性行動の低下は「草食系男子」の増加によるなどとも言われていますが、「不妊症」と告げられるとさらに性行動が低下することが知られています。さらに、体外受精胚移植後は性行為をしたら胚がだめになってしまうのではないかと考えて、いつもより大事をとってしまいがちだと思います。医療者側も感染や子宮収縮のリスクが増加する可能性を考慮して、性行為を勧めないことも背景にあります。一方動物では、精液への暴露によって胚発生率や妊娠率、着床率が増加することが知られており、2012.9.23の「排卵後の性交は意味がない?」で調節性T細胞 (Treg = CD4+CD25+Foxp3 T細胞)についてご紹介しました。本論文では、胚移植前後の性交は妊娠率には変化がなく、妊娠継続率がよい(=流産率が少ない)ことを示しており、性交による胚発生率の改善の可能性を指摘しています。しかし、本研究は多施設といっても2施設であり、また妊娠率が若干低いため、さらなる大規模な調査が必要だと考えます。