完璧な記憶(トータル・リコール)などといったものは存在し無い、完璧な絶望が存在しないようにね | 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ

気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ

四ツ谷にありますバレリーナ専門の気功整体「まといのば」のブログです。
気功師から見たバレエとヒーリングのコツを公開します。
「まといのば」では、バレエ・ヒーリング・美容の各種セミナーを行っております。

映画トータル・リコールを見ながら、カーネマンの「記憶の自己と経験の自己」に関するTEDレクチャーを思い出していました。

面白い映画でした。

映画TIME同様にいろいろと突っ込みどころが多かったのですが、近未来というよりは古いイデオロギーを想起(リコール)させました。

TIMEはマルクスを描き、トータル・リコールはハーバート・ジョージ・ウェルズを思い起こさせました(タイムマシン)。ウェルズの作品ほどの深みはありませんでしたが。
いやトータル・リコールだけではなく、映画TIMEもむしろ人類が二極化しているという物語でした。

ちょっと詳述するには、時間もスペースも無いので、アイデアだけを書き散らします。

まずトータル・リコールです。
シュワちゃんの前作と比較して、洗練はされていますが、シュワちゃんのパワフルさ荒唐無稽さも捨てがたいかと思いました。画面の雰囲気はブレード・ランナーを少し思い出しました。




シュワちゃんのトータル・リコールのトレーラーはこちら。こちらのほうが圧倒的に僕には「新しく」見えます。


Timeはこちら。まさにTime is Moneyを描いています。これもまたマルクス的な世界観の設定。
これが受けるのかもしれませんが。
ただイデオロギーと関係なく、登場人物たちがひたすらに走り続ける姿は壮観。こちらも走りたくなります。


その意味では、どちらかと言うと、こちらの書籍と一緒に見たい映画。BORN TO RUN 走るために生まれた~ウルトラランナーVS人類最強の”走る民族”/日本放送出版協会

¥2,100
Amazon.co.jp

映画(Time)も書籍(Born to Run)もどちらも走りたくなります。TimeもBorn to Runもひたすら走る、走る、走る物語だからです。

ちなみに余談ですが、この本のアイデアの一部を今回のポアント講習会では使います。バレエも舞踊の中では異常に「動く(move)」する舞踊形態です。ルグリさんのメソッドの1つが「移動」でした。大きく移動すること、です。遠くへ行こうとすれば、つま先は伸びます。最近知り合ったマイアミバレエの元ソリストもクラスで同じ事を言っていました。彼は「Take a risk!」と表現しました。リスクを取って、大きく動けと。転んでもいいじゃないか、と。

端的に言えば、TimeもTotal Recallも表向きは労働者を解放せよというプロパガンダに見えます(いやざっくりとしたテーマがということです。プロパガンダ映画では無いですし、面白い映画です)。
しかし、我々の認識では労働者は解放されていると思います。むしろ世界の状況は「雇用を確保してくれ」と労働者が嘆願している状態だと思います。
表現は不適切であることは重々承知で、奴隷が解放されたあとに奴隷に戻してくれと言うのに似ているように感じます。もう雇用など確保されるはずもない社会が眼前にあるのにです。

単純労働に労働者が不要な時代はどんどん進んでいます。
機械化は進むばかりで、戻ることはありません。現代においてラッダイト運動(機械の打ち壊し)は虚しく空転します。
駅で、切符を売ったり、切符を切ったりするのに駅員が動員されていたと知る子供は歴史をよく知る子供だけです。
コンビニもセルフレジがおそるおそる導入されています。飲食店やコンビニが外国の方に占領されつつありますが、機械しかいなくなるのは時間の問題です。
amazonもキバシステムズを買収しました(リンク先はComputerWorld)。今年の3月20日のことです。ご承知のとおり、amazonの物流は人間が支えていました。書籍の形がバラバラなので、人間の手のほうがオートメーションより合理的という判断でした。しかし、キバシステムズがamazonの物流の雇用を駆逐する日も近いのです。

Kiva Systemsの動画はこちら。便利そうです。

全体像を俯瞰するとあたかも生命のようです。

amazonはオートメーションがいくら進んでいても最後は手作業でした。


日本のテレビ番組でのamazon倉庫の紹介はこちら

その意味で、TimeもTotal Recallも近未来というより近過去です。労働者がボロボロになるまで労働するという社会はずいぶんと昔のことです。

車についてもシュワちゃんのトータル・リコールのほうが正しいように思います。

何度か紹介している動画です。盲目の方でも乗れるGoogleCarです。事故も激減するでしょう。飲酒運転は罰せられません。車は酒を飲みませんし、居眠りしていても目的地には着くでしょう。「なぜ21世紀初頭まで自動車は「自動化」されていなかったの?」と孫たちに我々は聞かれるでしょう。いまだ「手動車」です。


少し本題に入ります。
カーネマンは記憶の自己と経験の自己をわけてきわめて面白いことを語っています。



この動画も繰り返し取り上げ、カーネマンについても繰り返し取り上げていますので、結論を急ぎます。
物語は単純です。Timeでもトータル・リコールでも本質は同じです。そしてカーネマンでも。
我々は「記憶の自己」を重視するが、幸福はそこにあるだろうか?という問いです。

結論は「そこには無い」というものです。

記憶の自己を振り捨てて、経験の自己(いまこの瞬間の私)に集中できると、結果的に「幸福」になります。

そのアイデアはブレード・ランナーのラストシーンを想起(リコール)させます。

4年しか生きられない寿命のあるアンドロイド(レプリカント)の最期のシーンです。
ネタバレ含みなので、今後ブレード・ランナーを観る予定がある人は飛ばしてください。

(動画のリンク切れのために切り替えました2023/01/08)

(追記:こちらはすぐに消されそうですが、字幕版です。2023/01/08)

ちなみにブレード・ランナーのトレーラーはこちら。見てもあまりよく分かりません。

(動画のリンク切れのために切り替えました2023/01/08)

以下の台詞起こしと翻訳は「Know thyself」さんから引用しました。レプリカントの最期の言葉です。
http://s-inagaki.blogspot.jp/2007/05/blog-post_435.html

 "I've seen things you people wouldn't believe. Attack ships on fire off the shoulder of Orion. I watched C-beams glitter in the dark near the Tannhauser gate. All those moments will be lost in time, like tears in rain.
Time to die."
 「俺はお前たち人間が信じられないようなモノを見てきた。オリオンの肩の傍で炎に包まれる攻撃型宇宙船、タンホイザーゲートの近くの暗闇の中で光輝くCビーム。それらずべての瞬間はときが来れば失われる、雨の中の涙のように。死ぬ時だ。」


僕の好きなシーンです。このシーンのためだけにこの映画はあると言っても良いと思います。

どうあがいても寿命が明示的に決まっているとき(死を忘れないとき Memento Mori)人は記憶の自己で生きようと記憶を創ることをやめて、はじめて経験の自己で生き始めると思います。そう考えると、卒業旅行などを「思い出作り」と言うのは、これは秀逸な言葉です。経験をしに行くのではなく、記憶を獲得しに行くのです。まさにリコール社の仕事です。
結果がどうなるか分からず、一寸先は闇の世界を爆走するほうが幸福なのです。死ぬほど苦しみながら、死ぬほど楽しいことをするだけです。

すべて忘れてしまうとしても、その経験をしたいかとカーネマンは聞きますが、それにYesと答える人生を送りたいものです。どうせ死ねば脳が失われ、記憶は消えます。いま消えても、30年後に消えても同じ事です。ならば終わった瞬間にすべて忘れてしまっても、面白い経験をしたいものです。ブレード・ランナーのレプリカントのように。
他人に記憶されることが重要であり、自分の記憶などどうでも良いのです。


蛇足ですが、そう言えば、この人も「経験の自己」を生きる人でした。
自身の映画を見たときも、周囲の予想に反してご機嫌だったそうです(「Think Simple」より。下にamazonリンク有り)。かなり自分の像が悪く描かれているのに。悪名は無名に勝るのです。



蛇足に蛇足を重ねますが、寿命1000年と思っている(かどうかは不明ですが、少なくとも研究している)彼もまた寸暇を惜しんでいます。寿命が4年か、余生があと何年かなど関係ないのです。
$気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ
TEDレクチャーはこちらから。YouTubeが無く、TEDが直接貼れないので。


*タイトルはいつもながら村上春樹さんのパロディ。
原文は「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」(「風の歌を聴け」の冒頭です)


【書籍案内】
本文中に扱った書籍を紹介します。

ダニエル・カーネマン心理と経済を語る/楽工社

¥1,995
Amazon.co.jp

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))/早川書房

¥777
Amazon.co.jp

追憶売ります (ハヤカワ文庫SF)/早川書房

¥546
Amazon.co.jp

タイムマシン (角川文庫)/角川書店

¥500
Amazon.co.jp

風の歌を聴け (講談社文庫)/講談社

¥370
Amazon.co.jp
Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学/NHK出版

¥1,680
Amazon.co.jp
寿命一〇〇〇年: 長命科学の最先端/早川書房

¥2,415
Amazon.co.jp