Chalon-sur-Saône ~バーバラビットのCHALON DANS LA RUE | ツアーレポート

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「CHALON DANS LA RUE」初日。
「バーバラビットのキャバレーショウ」の舞台となる中庭は、自転車のオブジェが飾られた可愛らしい空間。





サウンドチェックや打ち合わせも滞りなく済む。
シャロンでは各演技ポイントにテクニックの担当者、そしていくつかのポイントを束ねている舞台監督のようなスタッフさんが居て、色々と便宜をはかってくれるみたいだ。
中庭は入って手前にバーやテーブルのあるスペースがあり、演技ポイントは奥まって区切られている。
とても広いけれどもきちんと隔離されているこの場所は、お客さんの集中力を保つのにとても良い場所のように見える。



中庭の前ではミュージカルソーを演奏しているパフォーマーが。
作りこまれた見た目と哀しい音が、言葉はなくとも物語を想像させる。



もう一方の「かたわれ」のポイントでは、村田さんの次にショウをするカンパニーが音響と照明貸してくれることとなった。
リノリウムまで敷いてくれて申し分のない環境。
ここはカテドラルのある中心部からすぐ近くにも関わらず、驚くほど静かな場所だった。
真昼間でも空気がひやっとしていて、キンという静かな音が響くような空間。
このフェスは、ショウにあった雰囲気、キャパシティ、背景をしっかりと把握しているのだなと感じる。
さすが一流。



フェスが始まるとフェイスペインティング屋さんが街中いたるところに現れる。
さや香さんが早速挑戦。



マニッシュな格好良いお姉さんが、何も言わずに描きあげてくれた。
すっかりフェス仕様になってご満悦の様子。




「バーバラビットのキャバレーショウ」は19時、「かたわれ」は22時が本番だった。
楽屋としてポイント隣のアパルトマンの一室が与えられる。
喧騒を避けてゆっくり準備ができる快適空間。




(photo by 鈴木さや香)

初日のラビット。
はじめは空きも見えた客席だったが、始まる頃にはぎっしりと後ろまで埋まっていた様子だった。
私は舞台真横から音響を操作。
難しいことはないとは言え、自分の心臓の音が耳元で聞こえるような気がする。
村田さんの緊張もひしひしと伝わってくる。
次々と起こる展開に対し、満員のはずの客席は非常に静かだった。
私の位置からは客席を見渡すことが出来ないのがもどかしい。
たった30分がじりじりと引き延ばされて感じられる。
焦れた時間の一番最後、開いた傘から色とりどりの紙吹雪が舞い散った時、やっと大きな拍手と歓声が聞こえてきた。
ようやく安堵したものの、シャロンのお客さん、シャロンの初日を知らない私たちは、どうにも不安が拭えない。
客席から写真を撮っていたさや香さんは、「みんな息を飲んでたんだと思う」と言った。

二日目の昼。
フェスのOFF部門のプログラムは、「Le journal」という新聞に毎日掲載される。
新聞にはプログラムのみならずショウの批評も載せられていて、皆がそれを読んでこれから観に行くものの目星をつけるのだ。
批評好きのフランスらしく、新聞には絶賛から酷評まで、様々な評価が押し並ぶ。
「良い記事以外なら一切取り上げられない方がいい」とあるアーティストが言っていたが、まさにその通り。

新聞は買ったものの開いて見ずにのほほんと食堂に行くと、知り合いであるAlek et Les Japonaisesのマイさんとアレックに会い、開口一番「新聞!見た!?」と言われる。



慌てて開くと、OFFプログラムの真横に一番大きな記事が。



マイさんが訳してくれる。
丁寧にショウを説明した記事の最後は、「このショウで味わうべきはラビットと人形のあいだで繰り広げられるコメディではなく、このアーティスト自身の驚異的な才能である。このショウはゆっくりと時間をかけて私たちを魅了していく。そして最後には、観客は彼女の才能を認めないわけにはいかなくなるはずだ。 」という絶賛の言葉で締めくくられていた。

すごいねー、良かったねー!と言ってくれるマイさんとアレックを見ながら、じぃんとし過ぎて涙が滲みそうになる。
そもそもAlek et Les Japonaisesと出会ったのも、二年前に何も知らずふらふら訪れたシャロン。
シルヴプレの堀江さんが「すごく面白いひとたちがいる」と紹介してくれて、何だか一緒にビールを飲ませてもらったのだった。
その後、いまは無き「キャバレー青い部屋」に出演してもらい、昨年にはAurillacで再会し、そして今年はシャロンで再び。
そういった全てが走馬灯のように頭をよぎり、加えてまたじぃん。
しかし当の本人、村田さんはどういった訳かこの時あまり実感が湧かなかったらしく、この日の深夜みんな寝静まった後、ようやくホテルで一人じわじわ喜んでいたそう。


(photo by 鈴木さや香)

考えてみれば、初日に記事が載るというのはありがたいことだ。
二日目からは五百人の会場が常に満員の状態となった。















(photo by 鈴木さや香) 

「バーバラビットのキャバレーショウ」は、ヨーロッパ的文化がいわゆる日本に期待するものとは、一見離れているように感じられがちだ。
その差を認めた上で、時には埋めたり離したりという作業を、この三年間とても丁寧に村田さんはやってきた。
日本とヨーロッパに住んでいるのは同じ人間だけれども、やはり違う。
そして違うけれども、もちろん同じ。
シャロンで喝采を浴びているのはその信念のように思えて、私は心が震えた。
同時に、この作品がまた新しい旅の出発地点に立ったのを見たような気がした。