cafe Bazzar
『チャッピーに恋したオーガニック坊や』
あぁ・・・あの大きくてまん丸のつぶらな瞳・・・
真っ白な肌にすらっと伸びたスレンダーな身体・・・
いつだって満面の明るい笑顔でボクの事を見てくれて・・・
それに比べてボクなんて・・・ずんぐりむっくりで、目も小さくて・・・
そっか・・・もう、6年も前になるのか・・・最後に彼女に会ったのは・・・
はぁ、よりによってこんな片田舎の、しかもこんな路地裏までやって来るなんて・・・
今、僕が立っているこの路地と言い・・・左右に軒を連ねている錆びれた建物と言い・・・
まるで古い写真のように、何十年もの間、その色褪せた姿を留めているみたいじゃないか
それに比べて、かつてあの店があった街ときたら・・・あの娘が出迎えてくれた通りときたら・・・
絶えず変化し続ける都会の只中、駅を出て、忙しない人々の流れに飲まれるように高架下の
横断歩道を渡って進んだ先に待っているのは、桜並木に囲まれた川に沿って伸びる路地
さっき降りた高架からは、電車が絶えず発着し常に大量の人々を駅から吐き出していた
だから尚更感じずにはいられないんだ 僕が目指している店は本当にこの通りにあるのかって
あのゴチャゴチャした雑踏とは似ても似つかぬ静寂に覆われたこの路地に、あの建物がって
なんて、訝しく感じつつも手にしたi-phoneのマップが指し示している地点が近づいてきた・・・
その建物の正面には、大小さまざまな木枠の窓ガラスがはめ込まれていた・・・聞けば、元々床屋だったそうだ
茶色と白の縞々のひさしが何ともノスタルジックな雰囲気を醸し出していた・・・隣りの店と色違いじゃないか
間口は決して広いとは言えないものの、どうやら奥行きはありそうだった ガラス張りになった正面といい、
それでいて店の中の雰囲気が掴めないところといい・・・確かに、“あの店”に通じる部分は見受けられた
でも・・・これが店の正面なら・・・やはり、入り口の隣りで僕たちを出迎えてくれたアイツと、もう一人・・・
cafe Bazzar
『バザール』・・・その言葉の響きには、エキゾチックとか・・・オリエンタルとか・・・
分かっているようで分かっていないけど、どこか心躍らせる雰囲気が漂っていて・・・
そう言えば、あの店に入るときも、そんなワクワクした気分になっていたっけ・・・そして・・・
・・・やっぱり!!
これが床屋の跡地だって? 石で組まれたアーチなんて、まるで中世の城塞みたいじゃないか!!
大きく開いた窓から燦々と降り注ぐ良く晴れた冬の日光は、外で感じていた肌寒さを忘れさせてくれる
それに、なによりこの解放感ときたら・・・ゆったりと寛げる事を念頭に配したソファーやテーブルが嬉しい
そう言えば、あの店もそうだった・・・ガラス張りなのに外からは想像もつかない空間が広がっていたっけ・・・
あっ、オマエは・・・!!!
やっぱりいたのか・・・この店でも相変わらず忙しそうにジョッキを運んでいるんだな・・・
JBL L100 Century
それに、店の中に染み渡るように広がっていた心地良い音楽ときたら・・・
よく、この曲いいなぁ~って帰りに渋谷のレコード屋に立ち寄っていたっけ・・・
ZEST?・・・HMV?・・・レコード屋なんて、ここ数年、めっきり行かなくなったなぁ・・・
タイル張りの床にゆったりと腰掛けられるラウンジチェアー そうそう、こんな空間だったよ
お昼時はいつだってお客さんたちで賑わっているのに、なぜかゆったりと寛げる魔法の空間
でも、本当にあの店の遺伝子を受け継いでいるならば、店内のチェアーは確か・・・
Hole Back Side Chair (1957)
Designer : E.Saarinen
そうそう・・・“ミッド・センチュリー”でないとね!!
入ってすぐの、真っ白なマシュマロ・ソファー・・・あれを初めて見たときの衝撃と言ったら・・・
だって、ふんわり“マシュマロ”の上に座れるなんて、夢にも思っていなかったからさ!!
ネルソンに・・・サーリネンに・・・でも、何と言っても僕の心を一番惹きつけたのは・・・
Plastic Side Chair Eiffel Base (1950)
Designer : Charles & Ray Eames
エッフェル・ベースのサイド・シェル・・・憧れだったんだ いかにもイームズって感じがしてさ・・・
わざわざこの椅子を見る為だけに、原宿のh.h.style.comまで彼女を引っ張っていったっけ・・・
でも、ここにあるのはヴィトラのじゃない!! 当たり前か・・・だって、あの店からやって来たのだから・・・
それに・・・あの店は毎晩、夜遅くまで開いていたから・・・
ランチ&ディナーはもちろんだけれど・・・ドリンクやお酒だって充実してて・・・
ホント、一日のどの時間に訪れてもゆったりと寛げる・・・まさにライフサイクルの一部だったんだ・・・
キャビンにズラリと並んだ琥珀色に煌めく洋酒の瓶を眺めているだけで、
日々のもやもやや鬱憤だってどこかに吹き飛んでしまうのだから・・・
でも、何時しかそんな毎日も過ぎ去ってしまって・・・だからこそあの頃が愛おしくって・・・
いやっしゃいませ・・・今日はどちらの席に座られますか?
あぁ、キミもここに引っ越してきたのか・・・そうだなぁ、僕が一番憧れていた椅子が・・・
はたして、その椅子はギャルソンが言った場所にあった。
あの店では入り口の一番目立つ“マシュマロ”の隣りに置かれていたのに対して、
奥行きのある細長い造りのこの店のほぼ真ん中の、あまり目立たない通路の脇に・・・
でも、カウンターとキッチンからは最も近い場所に、まるで人目を忍ぶように佇んでいたのだ。
Plastic Arm Chair H-base (1950)
Designer : Charles & Ray Eames
イームズのアームシェル・・・そうだな、もう彼是、十・・・数年も前の話になるのかな?
偶然にもその雑誌に手を伸ばした当時・・・そして、その雑誌の中の目くるめく世界に衝撃を受け、
完全に魅了されてしまった当時、僕はまだ高校生・・・それも、1年いや、2年生だったと記憶している
その頃の僕といえば、毎日の生活の殆どを地元の市内で送り、東京はおろか、住んでいた街の外に
出かける事すらなかったんだ・・・家と学校の往復、友人宅に市内(近郊)のショッピングセンターや
飲食店、古着屋&洋服屋、コンビニ、図書館、塾・・・そんな“目の前の現実”で精一杯だった僕に
“手の届く非現実”を教えてくれた一冊の雑誌・・・とっくの昔にどこかにいってしまったけれど・・・
当時僕がよく立ち読みしていたファッション誌の別冊として、本屋に並んでいたその雑誌の、
“部屋カフェ特集”と銘打たれた表紙をめくり、グラビアの数ページを見たときの衝撃は・・・
・・・それまでインテリアはもちろん、カフェなんて全く興味がなかったのに・・・
マンションかアパートの一室をそのまま店に仕立て上げた店内の壁には、古い洋画のポスターや
グラフィカルなポートレイト、さらにはヴィンテージワインのラベルなどが、無造作に張られていた
その店の中には、それまで知り得る飲食店の概念や効率からはかけ離れた配置のテーブル
チェアーは座面が捲り上がり、年代物のソファーには大きなシミとほつれが目立っていた
緩やかでまどろんでしまいそうな音楽が囁いているのが、誌面からも十分に伝わって来るようだった
シンプルながら何とも個性的なデザインの食器で提供されるドリンクやフードは意外にも本格的で、
ボリュームも満点 洗練されているのに、それでいて、どこか家庭的な手作り感にも溢れていた
オシャレでちょっぴり裕福な友人や先輩の部屋・・・そんな、全てがありそうでなかった空間
そして、その“部屋カフェ”の醸し出す空気から、さり気なく置かれた雑貨に至るまで・・・
そう、その全てに僕は一瞬で心を奪われてしまったんだ・・・“カフェ”の魅力に・・・
その雑誌で紹介されていたカフェは、どれも僕の心を惹き付けて止まなかったけれど・・・
駅から少し歩いた・・・川沿いの桜の並木道の側の・・・頭上には高架が走っていて・・・
煤けたモスグリーンのタイルが敷き詰められた建物のガラス張りの先で微笑む・・・
カンカンカン・・・これこれ、いつまで語ってるんだい!!
カンカンカン・・・ほれほれ、その“カフェめし”が出来たぞい!!
あれっ、僕はまだオーダーなんてしていなかった筈だけれど・・・でも、このプレートは・・・!!
皿いっぱいに、文字通り山のように盛られているのは・・・肉に・・・野菜に・・・白米に・・・
そう、これが僕が食すのを憧れ・・・夢中で頬張ったた・・・“オーガニックディッシュ”
立体感に溢れるインパクト大のビジュアルのメインは、何と言っても照り感が凄い手羽先!
まるで、中央のひき肉&野菜を「食べてからのお楽しみ」と言わんばかりに覆い隠して、
それがさらなる期待へと膨らんでくるんだ で、早速その手羽先にフォークを刺して、
ねっとりした皮と弾力いっぱいの柔かい身に喰らいついた瞬間の感激ときたら・・・
甘辛い味付けが絶妙に染み込んだ手羽先からジューシーでふっくらした食感が広がり、
のっけからメインのチキンだって言うのに、あっという間に骨だけになっていたんだ・・・
そして、手羽先の下から姿を現したのは・・・山盛りのタイ米と、たっぷりのひき肉&野菜の炒め!
さらに、パクチー&サニーレタスがこれでもかってくらい添えられていて、しかも、その中には、
仕上げにこんがり焼かれた目玉焼きがのっていた 全てが一枚の皿に凝縮されていて・・・
もちろん、ご飯とひき肉&野菜炒めにとろとろになった半熟の黄身を絡めて一気にかき込むと・・・
ひき肉とタレの濃厚な旨みがご飯と一体になって、さらに黄身のまろやかなとろみも加わり・・・
もう、一度手にしたスプーンが止まらない美味しさで・・・しかも、何て懐かしい味なんだ!!
あのディッシュにぴったりのデザート・・・当時のレシピそのままだろう?
ショコラのテリーヌ
小さな頃からチョコレートを使ったお菓子が僕は大好きだったんだ・・・
板チョコに・・・チョコパイに・・・ポッキーに・・・ココアに・・・ケーキだってそうさ
口の中でゆっくりやさしく溶けていって、同時に甘さとほろ苦さが広がっていって、
気づくともう無くなっているのに、ちょっと切ない心地良さだけがいつまでも残っている
思い出のチョコレートは、いっぱいあるよ 嬉しい思い出・・・悲しい思い出・・・
どの食べ物もそうだけれど、チョコレートには特にストーリーを感じてしまうのは、
やっぱり僕が特にチョコレートが大好きだったから・・・そして、店長自らのレシピに・・・
キラキラと艶やかなダークブラウンの表面は、見ているだけでとろけてしまいそうだ
暫らく見つめていたけれど、思い切ってひと口 ひんやりとして、ねっとりした舌触りは
口の中に纏わりつくようにゆっくりとろけていって、濃厚なチョコレートの薫り、コク、甘さ、
そして、少し大人になったようなほろ苦さが一つに絡み合って段々と広がっていくんだ
あの頃の様々な出来事がゆっくりと思い出されるように・・・本当に楽しかったなぁ・・・
感傷?・・・思い出?・・・懐かしさ?・・・何て言ったらいいのか分からないけれど、
ひと口ひと口・・・スプーンを口元に運ぶ度に思わず笑みがこぼれてしまう・・・
そっか・・・此処では無かったのか・・・
もう、あの大きくてまん丸のつぶらな瞳でいつも微笑んでいてくれた、
真っ白な肌にすらっと伸びたスレンダーな身体のキュートな“看板娘”は・・・
そして、その“看板娘”に密かに心寄せていたずんぐりむっくりの“アイツ”は・・・
いや、でもね・・・きっとまたどこかで・・・そうだなぁ、多分、桜並木の小川の側で・・・
今度はいつまでも二人仲良く満面の笑顔で寄り添っているんじゃないかな?
~ おしまい ~
cafe Bazzar
栃木県栃木市嘉右衛門町 4-6
0282-51-2810
平日・日曜日 12:00-14:00 ラストオーダー・15:00-21:00 ラストオーダー
土曜日 12:00-14:00 ラストオーダー・15:00-23:00 ラストオーダー
定休日 第2・4火曜日 水曜日
http://www.cafebazzar.com/top.html
2012年最初のカフェ紹介は、Cindy憧れのカフェの遺伝子を受け継ぐBazzarさんに決めていました。
今年も一年、のんびりカフェレポ日記を続けたいと思います。これからも宜しくお願いします m(_ _)m