光たちが再びセフィーロに来ることができるようになってから,まだ間もない時期のことである。光たち魔法騎士の3人は,セフィーロの仲間達とお茶会をしていたときのこと。普段3人が来た時には,全員がそろってお茶会をすることが習慣になっており,この日もいつも通りお茶会をしていたときのことである。ただこの日はランティスだけが不参加であった。

 

『・・・あれ・・・??今日はランティスいないのか??』

 

ふと周りを見渡しても,ランティスの姿が見当たらない。その光の様子に気がついたクレフが光に話しかけた。

 

「ヒカル,どうかしたか??」

 

その言葉に振りむく光。

 

「・・・あ・・・うん。ちょっとランティスがいないな・・・と思っただけだ。いつもはいるのに,どうしたのかな・・・って。」

 

「ああ,そのことか。少し事情があってな・・・ランティスは自分の部屋にいる。そういえば,ヒカルと二人きりで話がしたいと言っていた。もしヒカルが良ければ,行ってやってくれんか??」

 

光にはランティスが何を話したいのかなど見当もつかない。頭の上にハテナマークを数個浮かびあがらせるような表情をしながら,

 

「・・・うん,行ってみるよ。」

 

そう言って,お茶会がまだ途中であるにもかかわらず,ランティスの元へと光は向かっていた。その道中,自分を呼び出した理由を考えようとしても,どうしても思い当たるふしがなく,考えている最中に,いつの間にかランティスの部屋の前に来てしまっていた。

 

『・・・まぁ・・・考えても仕方ないか・・・。』

 

そう思い切った光は,ランティスの部屋の扉を叩こうとしたが,光が扉に触れようとした瞬間,扉の方が自然と開いた。当然自然に開いたわけではなく,部屋の中にいたランティスが光の気配を察知し,開けたというだけなのだが,一瞬何が起こったのか分からない光は驚きの表情をする。そして,いきなり目の前に現れたランティス。どうしていいか分からない光はとりあえず,

 

「・・・こ・・・こんにちは。」

 

と少しバツが悪そうに挨拶をした。

 

「来て・・・くれたんだな。」

 

「うん,いつもはお茶会に参加しているだろ??今日に限っていないから,少し心配したんだ。そしたら,クレフがここにいて,私と話がしたいって聞いたんだ。」

 

クレフは自分がなぜ光をここに呼び寄せたかは十分に分かっているはずであるが,それは光には伏せたらしい。もし少しでもそれを話していれば,光がここに自然体でいることは考えにくい。色恋沙汰についての免疫がほとんどない光にとっては・・・。

 

もちろん,光ほどではないにしろ,ランティスもそんなに恋愛経験が豊富なわけではないのだが,ランティスはあまり感情を表に出さないタイプである。自分から告白をするタイプではあまりないが,それでも光よりは,そういう甘い言葉を言うのに抵抗はない。

 

「ヒカル・・・以前,『おまえの国では愛を告白するとき,なんという??』と聞いたときのことを覚えているか??」

 

そのとき光は『結婚してください・・・かなぁ』と返答していた。結婚という制度のないセフィーロでは,当然ランティスはその言葉を理解することはできず,光が『好きな人とずっといっしょにいるって約束することだよ。』と説明していた。もちろんそのことは光も覚えている。

 

「覚えてるよ。」

 

しかし,そのときはランティスが光に伝えたい真意は全くと言っていいほど伝わっていなかった。婉曲的な表現をしたランティスが悪いと言えば,それまでの話ではあるが,さすがに光がそこまで純粋な環境で育ったということも原因の一つではある。それでも少しくらいは理解してくれるだろうと考えていたランティスにはショックであったことは間違いない。そのときは,『ヒカルのその心がセフィーロを美しい国へと変えたのだ』すなわち,光にはセフィーロの柱になるための資格があったのだ,と納得するしかなかった。

 

だから,光に想いを伝えるには,やはり直接的な表現でなくてはならない。このままでは,いつまで経っても光との仲が進展することがないように思えた。それゆえに,ランティスは・・・

 

「ヒカル・・・あのとき俺が伝えたかったのは,光に『恋人』になってほしいという気持ちを伝えたかったんだが・・・」

 

光はそれを聞いて,一瞬思考回路が停止する。ランティスの言葉が自分の頭の中に入ってきて,それを理解したとき,

 

「・・・え・・・え・・・??」

 

全身の毛が逆立つような衝撃が光を包んだ。

 

「・・・そ・・・そうだったのか??」

 

光は顔を真っ赤にして,改めて『恋人』という言葉を頭の中で反芻する。今までそんなことを言われた経験がない光にとっては自分の頭を冷静にすることは難しかった。

 

「・・・で・・・でも・・・私,女の子っぽくないよ??言葉遣いだって,男の子っぽい言葉遣いするし・・・,料理も全然できないし・・・おしゃれや化粧なんかもしたことないし・・・。」

 

なんで,自分のことをそんな風に見てくれるのか,それを理解することができない光。中学高校と女子校に通っていたせいもあるが,同性からはとても人気があり,年齢問わず仲良くなることができる光ではあるが,異性から『恋人』の対称とみなされることはないと思っていた。ただそれは本人がそう思っているだけで,陰ながら光に恋心を抱いている人物が少なからずいることを光本人が知らないだけであったのだが。

 

顔を赤くして必死になっている光,そんな光を優しく見つめるランティス。

 

「俺がそんなことを気にするように見えるか??」

 

ランティスにとっては今光が言ったことは些細なことなのだ。ランティスは光の人間性,つまり,自分の信念を曲げない心の強さであったり,何事にも誠実に取り組んだり,人を疑うことなくまっすぐに信じたり,そういうところを好きになったのだから。

 

光は少しだけ考えて,黙って,それも控えめに首を横に振った。

 

それに光も以前から,ランティスのことが気になっていたのは事実である。ただ,その自分の中にある感情が何を表すものかは,光の心の中では答えを出すことができなかった。しかし,ランティスから『恋人になってほしい』と言われ,それが何であった,光も少しだけ理解できた気がしていた。

 

それでも光はもう一度確認せずにはいられなかった。

 

「・・・ランティス・・・本当に私でいいのか??ランティスならもっと素敵な人がいるはずだ。本当に・・・いいのか??」

 

ランティスは迷うことなく,首を縦に振った。そして・・・

 

「・・・ヒカル・・・『恋人』になってほしい。」

 

ストレートに自分の想いを光に届ける。光はそれを聞いて,少し恥ずかしそうに・・・

 

「・・・はい・・・。」

 

と一言だけそう呟いた。

 

 

 

 

「そういえば,私お茶会を抜け出してきたんだけど,ランティスも一緒に戻るか??」

 

「今日はやめておいた方がいいな。」

 

おそらくはクレフたちセフィーロの人たちだけではなく,海や風でさえ,自分たちが今どういう状況なのかは理解していると光に伝える。さすがの光もそれを聞いて,今自分たちがお茶会にもどると,どういう状態になるかは理解できた。

 

「それに,今日はヒカルと2人きりにいたい。」

 

光はそれを聞いて,恥ずかしそうに,しかし嬉しそうに頷いた。

 

「そういえば,ヒカルの世界では『恋人』どうしになったら,何をする??」

 

そう聞かれて,光の頭の中に真っ先に浮かんできたのは『キス』であった。それを考えてしまった光の頬は瞬く間に赤くなる。いつかは・・・とは思ってはいるけれど,今この場でする,またはしてもらうことは光にとってはものすごく勇気がいることで,当然光には心の準備ができていなかった。それゆえに光の出した結論は・・・

 

「・・・手・・・つなご・・・。」

 

光はランティスの手を取り,ある形を作る。

 

「これね・・・『恋人つなぎ』っていうんだ。私とランティスがそうなった記念に・・・。」

 

少しはにかんだような光。まだまだ親密な関係になるには時間がかかることは間違いないが,その一歩を踏み出した2人のお話し・・・。