全身麻酔 (ぶんか社文庫 き 2-1)


大腸癌で手術を受けた弁護士の露村。しかし手術の結果、彼は結核であったと分かる。

同日、1月11日。露村とは逆に結核だとして手術を受けた男性が大腸癌であると分かる。彼は術中になくなってしまう。

露村冬樹と鶴村富悠希。

字としてみると全然他人の2人が、声に出して読むと非常に似通っていると分かる。

つゆむらふゆき・つるむらふゆき。

同日に手術したこの2人は、実は取り違えられていた。それが分かった過程もまた恐ろしいもの。麻酔医が全身麻酔をかけた際、調合を間違え患者の意識が残ったまま手術が行われた為なのです。

痛みは感じないが、音は聞こえる。これはかなり精神的苦痛をもたらすもの。

自分の体が切り裂かれ、体にメスが入り、もしもそこで医師の絶望的な言葉を聴いたとしたら?

「これは厳しいな」とか「再発の可能性があるな」とか。


取り違えによって運命が分かれてしまった2人の患者。夫の死に納得のいかない鶴村夫人が依頼した弁護人がおりしも露村であったのです。

露村はそこではじめて自分と鶴村が間違われたのでは、という事実に気づきます。

この物語、主役に思われた露村が途中退場し、脇を固めていた登場人物たちが次々に表舞台へ挙がってゆくのです。

単純に見えた事件のなんとも複雑なこと。そこには「愛ゆえに」という大義名分があったのでしょうか。

思った以上におもしろい作品でした。

医療もので文体が淡白なせいか、まるで医学レポートを読んでいるような気分にさせられました。


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