木野塚探偵事務所だ (創元推理文庫(国内M))


警視庁に入庁以来、経理畑で仕事を全うし終えた木野塚さん。

定年後、彼が踏み出した第2の人生は探偵事務所を開くことだった。

ハードボイルドに憧れ、フィリップ・マーロウやマイク・ハマーを目指しているのだけれど、ハードボイルドとはほど遠い位置に存在しているのがまたおもしろい。

事務所を開くに当たって、おそるおそる奥様に話を切り出す第1話。そこからして木野塚さんのダメっぷりが伺えるというもの。奥様の許可を得たもののいつ気が変わるかもしれぬからとっとと事務所開きをしてしまおうという小心者っぷりもまた笑えてしまって。

そんな木野塚さんが探偵なんてできるの?という読者の不安を見事に的中させつつ、最初の事件は金魚誘拐事件から始まるのだからまたトホホなストーリー展開であります。

だけれど、ダメダメな人間には補佐がいるのが当然。

木野塚いわく、女性ホルモンが欠如した胸の薄い梅谷桃世なる女性が、彼の職場で働くことになったのです。

この彼女が冴えていて、木野塚さんの見当違いな推理をよそに見事に事件の真相を見抜いてしまうのですから驚きです。彼がこの作品で唯一得た利益といえば、桃世を雇ったことでしょう。


そして木野塚さんには、なぜか毎回依頼者に心ときめいてしまう悪いクセもあります。

元々奥様との結婚には不満を感じているので、彼の想像が膨らむ膨らむ。

だけれどお約束のように、その淡い思いは実らずあくまでも依頼者と探偵という立場で終わってしまうんですよね。

結末はちょっと寂しい、って思うんですがご安心あれ。

すでに続編が出ております。

人の死なない、軽い探偵小説を読みたい人にオススメです。

スリルなし、ハードボイルドなし、恋話なし、おまけに緊張感もなし、な1冊でした。


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