BUCK-TICK『或いはアナーキー』前編 | 秋田和徳ブログ『バラ・グラフィック』

BUCK-TICK『或いはアナーキー』前編

D.A.F.で「Der Mussolini」。






2014年5月14日発売、
BUCK-TICK「形而上 流星」と、
6月4日発売のアルバム『或いはアナーキー』。



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手元の手帖によると、今年の1月30日に
「シングルとアルバムのジャケット・デザイン依頼」
とあります。
それからほどなくして届けられた音源は計12曲。
何曲かはまだ歌詞のない仮歌の状態で、
1曲はシングルのみに収録の「VICTIMS OF LOVE」。
ラフ制作はこの音源を聴きながらの作業となりました。

レコード会社より伝えられたテーマは
「シュルレアリスム」。

ボクは「次のアルバムはパンクで」とリクエストされた
パンク・ロック・バンドのような気分でした。

とはいえ、なるほどそういうことかと思うような、
「ダダ」に関連する具体的なワードが
仮タイトルや歌詞の中にいくつもあったことを受けて、
今回は改めて「シュルレアリスム」「ダダ」を
強く意識して取り組んでみました。

ラフ出しは2月19日。
当初の目的は(発売が先の)シングルのジャケットを決めること。
しかしながら、ラフ制作の時点では
まだ最終決定がなされていなかったシングル候補曲も、
アルバムの中の1曲として聴いていたこともあって、
ボクはどうしてもアルバム全体のイメージと
シングル単体のイメージを切り離すことができませんでした。
そこで、アルバムとシングルのジャケット・ラフを同時に、
言い換えるならばアルバムとシングルの区別をせずに、
全12曲のジャケット案として提出することにしました。

*
「シュルレアリスム」は視覚的には
キリコの形而上絵画作品の影響下にあります。

既視感、
郷愁、
静寂と不安に満ちた空間、
デペイズマン…。

キリコこそがシュルレアリスム絵画の礎であること、
そしてなにより自分自身がキリコの絵に
ずっと魅かれていたことが、今回のジャケットに
色濃い影響をもたらしました。

殊に子供の頃から好きだったのが
遊ぶ少女のシルエットが印象的な、
かといって楽しげなムードは皆無、
不安な気持ちさえ呼び起こす1枚の絵。
「輪回し」という名称は、今回、
人に伝えるにあたってはじめて知ることとなりました。
それまではずっと
「キリコの絵のあれ。輪っかを転がすやつ」(笑)。

名称こそ知りませんでしたが、ボクは
「(道端に落ちていた土星の)環を転がして遊ぶ少年」
をモデルにしたジャケットがいつか作れたらいいな、と
かれこれ20年くらい、ずっとずっと思い続けていました。
そしてついにそのアイデアを実現できるかもしれない
チャンスが訪れたのです。

といっても用意できたラフはたったの2案。
そのアイデアをなんとしても実現させたい一心…
というわけではなく、ほんとうに
それだけしか思い浮かばなかったのです。

幸運にも1案はシングル、
そしてもう1案はアルバムに採用となりました。

どちら(の案)がシングルで、どちら(の案)がアルバムに
ふさわしいかの判断は、当然ながらメンバーに委ねました。

写真はその時提出したラフより。



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ネオン管もずっとやりたかったことのひとつ。
ネオン管に魅かれるのは、きっと
このジャケットのせい。



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ジャケットには、あえてなにか混乱を招くような、
アルバム名でも曲名でもバンド名でもない言葉の
ネオン管を入れようと思っていました。
ところがボクは、ラフ出しの際に
そのことを説明するのをすっかり忘れていたのです。
ということはつまり、
メンバーの了解をとっていないということ。

よもや日本語をネオン管にすることなど、
当初はまったく想定していませんでしたが、
作業を進めていくうちに考えも変わり、
堅実にアルバム・タイトルを掲げることにしました。
が、果たしてこの仕上がり(=日本語)で
ほんとうに大丈夫なのだろうかと
(日本人ならではの)不安を覚え、保険として、
ボクがさしあたって歌詞の中から抜き出した、
仮のアルファベット文字も一応用意。



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結果は言わずもがな。

こういった経緯もあって、
アルバム・ジャケットの画像データのファイル名には
最初からずっと
「ICARUS(イカロス)」と名付けていました。



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ことBUCK-TICKに関しては、
ヴィジュアルにまつわるミーティングは
ジャケットの話からすべてがはじまります。
そのため、衣装やアーティスト写真のイメージも、
ジャケットと関連づけて意見を求められます。

手元の資料にはフーゴ・バルのアヴァンギャルドすぎる
妙ちくりんな舞台衣装の写真がありますが、
男前すぎるロック・バンドにはあまりにも不釣り合い。
かといって、ダダイストに特徴的な服装など知る由もなし。
そこでボクは「ダダ」と密接な関連のある
ロシア文化の要素を取り入れてみてはどうかと提案しました。

その発想のきっかけとなったのは、
ジャケットの主役である少年に
“ピオネール”のイメージを投影したこと。
あのチェブラーシカも入りたいと思った
ボーイスカウトのことです。
そして、ピオネール(開拓者の意)のシンボルは
赤いネッカチーフ。



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かくして諸々の(ヴィジュアルの)方向性が決まったところで、
その場でシングル曲の最終決定がなされ、
今井氏よりアルバム・タイトルが発表されました。
その瞬間の空気は今でも忘れられません。


キョトン・・・・・・・。


あくまでも個人的な印象ですが、
ボクにとっては苦悩のロゴ制作の
はじまりの合図でもありました。



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*
My all-time favorites
#168

曲は、Ultravoxで「Young Savage」。




想像力喫茶室『バラ・グラフィック』にようこそ。


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今回のアルバムは、
カセットテープもありだと思います。



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