予約の名は… | さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

酒場であったあんなこと、こんなこと。そんなことを書いてます。ほとんど、妄想、作話ですが。

8時に私の名前で予約してあると彼女はメールに記してきた。
俺は店に着いてから、思いだした。
そう言えば、俺は彼女の本名を知らなかった。
そこは人気の店らしく、店頭には空席待ちの客が列を成して並んでいた。
その行列の脇に立ちながら、俺は彼女にメールをした。
「予約名、なんですか?」
すぐに返ってきたメールには「メリー(仮)」とだけ記されていた。
メリー?
それは苗字と言うよりは名前のように俺には思えたし、おまけにカタカナ表示だった。カタカナの苗字の日本人を俺は今の所知らない。
しかし、半信半疑ながら俺は店員に訊ねざるを得なかった。
この行列の最後尾について店に入れるのを待っていたらいつになるかわからない。
折角予約を入れて貰ったんだし、それを棒に振ることは、当選したと知っている宝くじのチケットで鼻をかんで丸めて捨てる以上に、俺には出来ない相談だった。
俺は覚悟を決めて、行列の脇を通りすぎ、中にはいると、店員を呼びとめ言った。
「あのさあ、8時にメリーで予約してあると思うんだけど・・・」

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振り返った店員は、イ・ビョンホンたら、こんなとこでバイトしてたのか?とビックリするくらい彼にそっくりなイケメンで、これにはジャパニーズ・ペと呼ばれる俺も、驚きだった。
彼は俺を見ると、すかさず
「ア、メリーサン?メリーサン、ニカイネ!」
と、天井を指差した。
その仕種があまりにも日常茶飯事、まるで、「おーい海苔玉振り掛けどこー?」と妻に訊ねたら、「戸棚の三段目の奧ー」、と返事が返ってきたような、そんな感じで、俺はつい、礼儀を忘れ、「アリガトヨっ!」と、フレンドリーに言っていた。しかし、今更敬語に訂正するのもなんだかぎこちない。俺は言い直す事も無くそのまま、彼にドウモッと手を挙げたまま、二階への階段を上り始めた。
そんな俺に、入店待ちの行列の先頭にいた、井上真央似の若い女性が、叫んできた。
「サランヘヨ!サランヘヨ!」
たしかそんな言葉を彼女は俺に連発していた。韓国語を知らない俺だが、恐らくそれは、ちょっと
待ちなさいよ!ずる抜かししないで!私たちの方が先よ!というような文句だったのだと思う。それにしてはどこか切なそうな顔つきだったが、韓国の人の多くは繊細なのだ。彼等の多くは怒れば怒る程、悲しそうな顔をする。俺は最近韓国映画を見るようになってそれを知った。この野郎!と殴り掛かりながら、殴る方が先に殴られる相手の痛みを思い、涙を流してしまうような、そんな方々なのだ。
俺は引きつった笑いを浮かべ、違う、違う!予約、予約、それは誤解だ!ズルはしてない!と、手を振りながら、逃げるように二階に上がった。
「サランヘヨーーーー」
そんな声が俺の背中に響いた。
たのむ、イ・ビョンホン、うまいこと説明しておいてくれ。
俺は振り返らずに二階へと駆け上がった。

二階にあがったものの、俺は彼女と会うのははじめてで、おまけに彼女の顔も、声すら知らなかった。
「メリーさーーん!」
と大声を挙げてみるのも一つの手に思えたが、彼女が既に到着しているとも限らなかった。呼び掛けるだけ呼び掛けておいて、誰からも返事がないのは痛い。
俺は、また二階の店員を捕まえ、「メリーで予約してるんだけど。」と言った。
店員は、俺を振り返ると、また、階下のイケメン店員と同じように、
「ア、メリサン?メリサン、アスコッソヨ。」
と言うようなことを口に出し、手で奧の席を指し示した。
彼のその指先には・・・・

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以下、各自、妄想の事。

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どうやら彼女はここの顔らしかった。
みんながみんな、彼女を見るとメリーさん!と挨拶した。
しかしだ、しかし、やはり予約とかって、なんだかんだいって皆苗字でしないか?
いや、予約に限らずさ、自己紹介とか、サインとか、・・・
宅急便の兄さんに、「ここ、サインお願いします!」っていわれて、苗字書かずに名前書くなんて、聞いた事無い。
「しかしさあ、普通、店の予約とかって苗字でしない?」
そう言う俺に彼女は言った。
「人によるわね。」
ため息まじりにそう言うと、顔を上げてにこっと笑って彼女は言った。
私の本名知りたい?
うん。
俺がそう言うや否や彼女は語り出した。

「私の本名は・・・

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寿限無、寿限無
五劫の擦り切れ
海砂利水魚の
水行末 雲来末 風来末
食う寝る処に住む処
やぶら小路の藪柑子
パイポパイポ パイポのシューリンガン
シューリンガンのグーリンダイ
グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの
長久命の長助メリーよ。」

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メリーでいいかな?
俺は言った。