「すべての悲運の中においても、最も大なる不幸は、昔幸福なりしことなり。」
この言葉は、古代ローマの詩人ホラティウスの言葉である。
いきなり話は脱線するが、ホラティウスの名前を聞いて私が真っ先に思い出すのがシャーロック・ホームズの話の中に登場するソーニークロフト・ハックスタブル博士のことである。
ハックスタブル博士は英国におけるホラティウス研究の第一人者であり、「ハックスタブルのホラティウス解明」という論文は知る人ぞ知る名著である。
しかし「プライアリイ・スクール」の話の中に出てくる博士の姿と言えば、まったく嘲笑の的になるような振る舞いばかりで、気の毒なぐらいである。
60作あるシャーロック・ホームズの話の中で、ベイカー街の探偵事務所に入るなりいきなり卒倒した人物は彼しかいないのである。
そしてその貫禄ある体躯ゆえに、ホームズの伝記作者であるワトソンの描写と言ったら、詩的表現の中にデブを嘲るようなニュアンスが含まれており、この時ばかりはデブ党の私も内心憤慨したものである。
「私達はさっと立ち上がった。そしてしばらくの間、人生の大海のはるか彼方で突然壊滅的な嵐が吹き荒れた事を物語るこの大きな難破船を驚きのあまり黙って見つめていたのである。」
すなわちこんな感じでハックスタブル博士を詩的に愚弄するわけだ。
私も今後は憤慨しないように減量に努めてまいる所存であるが、ダイエットをしていると必ず思い浮かべるのが、美味しい食べ物を食べながら「まいうー」などと言っている過去の自分の姿である。
あの頃は好きなだけ食べられて本当に幸せだったなあと、思わずヨダレが出てしまうのだが、ここが踏ん張りどころであることは言うまでもない。
過去の自分の姿を思い浮かべたら、すかさず、
「すべての悲運の中においても、最も大なる不幸は、昔幸福なりしことなり。」
というホラティウスの言葉を思い出して、頑張ることにしようと思う。
最後にホラティウスの名言をもうひとつ
「正しく生活すべき時期を先延ばしする人は、川の流れが止まるのを待つようなものだ。川は永遠に淡々と流れていく。」