経営戦略全史/三谷宏治 13275 | 年間365冊×今年20年目 合氣道場主 兼 投資会社・コンサル会社 オーナー社長 兼 グロービス経営大学院准教授による読書日記

経営戦略全史/三谷宏治 13275

経営戦略全史/三谷宏治
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★★★★★

グロービス経営大学院の
「イノベイティブ・ストラテジー」
でお世話になった三谷宏治先生の力作。

グロービス経営大学院やその前後で学んだ、
経営戦略という膨大な世界を俯瞰できる、
便利で楽しい本。

「はじめに」でこの複雑怪奇で広大な世界を
見事簡潔に語りきっているので、抜粋。

 経営戦略の歴史は八岐大蛇です。
 色んな起源をもったいろんな学派が
 ぐねぐね常に動き回っています。
 複雑で難解で強力で、立ち向かう相手としては、
 結構最凶の部類です。

 でもその本質はひとつです。
 かつ体内に、草薙劒を潜ませています。
 手に入れれば、きっとあなたの力になる武器です。
 この本は、あなたがそれを探しだす、助けになるでしょう。
 
 この数十年間の経営戦略史をもっとも簡潔に語れば、
 「60年代に始まったポジショニング派が80年代までは圧倒的で、
 それ以降はケイパビリティ(組織・ヒト・プロセスなど)派が優勢」となります。
 極めて単純です。

 前者の旗手は言わずと知れたマイケル・ポーター、
 後者は百家争鳴ではありますが、ジェイ・バーニーとしましょう。

 ポジショニング派は
 「外部環境がダイジ。儲かる市場で儲かる立場を占めれば勝てる」と断じ、
 ケイパビリティ派は「内部環境がダイジ。
 自社の強みがあるところで戦えば勝てる」と論じました。
 そして互いに「相手の戦略論では企業はダメになる」
 という研究成果を出しています。
 
 その戦いはまるで、14~15世紀にわたる英仏百年戦争のようでした。
 その結着は、未だについてはいません。
 
 陰にあるのは大テイラー主義(定量的分析)と
 大メイヨー主義(人間的議論)の戦い


 この2者の戦いは、別の側面を持っていました。
 それが大テイラー主義ともいわれる「定量的分析」と、
 大メイヨー主義と仮に名付ける「人間的議論」の戦いでもあったのです。
 
 ポジショニング派のほとんどは
 「定量的分析や定型的計画プロセスで経営戦略は理解でき解決する」
 と信ずる大テイラー主義者でした。
 「アンゾフ・マトリクス」「SWOT分析」「経験曲線」
 「成長・シェアマトリクス(PPM)」「ビジネス・システム」「5フォース分析」
 といったお馴染みの分析ツールを生み出しました。
 それで戦略をつくり、商品や生産・流通を変え、組織を変えていきました。

 ところがこういったフレデリック・テイラーらを祖とする、
 定量的分析や定型的計画プロセスを信奉していた大企業群が、
 1973年のオイルショック前後の大不況に沈みます。
 GEを筆頭とした、大テイラー主義だったの企業群は、
 その見直しを進めました。
 分権化し、本社での分析屋や戦略担当はいなくなりました。

 一方、ケイパビリティ派(の半分ほど)は
 「企業活動は人間的側面が重く定性的議論しか馴染まない」と考えます。
 人間関係論の始祖、ジョージ・メイヨー(1880~1949)
 からの流れでもあります。

 「優れたリーダーシップに点数はつけられない」
 「組織の柔軟性を数字にはできない」
 「学習する組織をどうグラフにするのか」
 その通りです。
 スティーブ・ジョブズを定量分析なんて、誰にもできません。

 でもポーターはつぶやきます。
 「戦略の開発には、何らかの分析技法が望ましい」と。
 分析できないものを、大企業内でどう納得を得よというのでしょうか。
 逆説的ですが、人間関係論による経営戦略は、
 独裁者によってのみ可能なのかもしれません。

 ようやく出てきた大テイラー主義を超える答え。
 アダプティブ主義(試行錯誤アプローチ)


 スーパージェネラリスト(超 何でも屋さん)で
 経営戦略論のあちこちに顔を出す
 ヘンリー・ミンツバーグ(1939~)は唱えます。
 「すべては、状況次第。外部環境がダイジなときはポジショニング派的に、
 内部環境がダイジなときはケイパビリティ派的にやればよい」
 これはこれで正解です。
 どちらに凝り固まる意味などないのですから。
 でもこれは、彼のような秀才にしかこなせないやり方かもしれません。
 何でもありの異種格闘技戦(バーリ・トゥード)なので。

 かつ21世紀に入って、経済・経営環境の変化、
 技術進化のスピードは劇的に上がり、
 今までのポジショニングもケイパビリティも、
 あっという間に陳腐化する時代になってしまいました。
 これでは大テイラー主義も大メイヨー主義もやってられません。

 そこで出てきたのがアダプティブ(adaptive)主義です。
 「やってみなくちゃわからない。
 どんなポジショニングでどのケイパビリティで戦うべきなのか、
 ちゃちゃっと試行錯誤して決めよう」というやり方です。
 戦略の立て方も、計画プロセスもまったく変わります。
 これを本氣でやるなら、企業組織の在り方すら変わる
 (オープン化)のでしょう。
 米軍がイラク戦争で味わった大失敗の果ての(かろうじての)成功。
 そこにもこのアダプティブ主義がありました。
 
 ここまでが、超簡略版 経営戦略史です。いかがだったでしょうか。


グロービス経営大学院で学んだのは、ケースごと、状況ごとに、
分析や戦略立案で使えそうなフレームワークはどれなのか?をかぎ分け
とりあえずいくつかあてはめてみて考え始める、というもの。
これが「アダプティブ主義」だったとは、まったく知らずにやっていた(笑)。

ここで、沁みるのが、この一言。

 逆説的ですが、人間関係論による経営戦略は、
 独裁者によってのみ可能なのかもしれません。

うーん、確かに!!!

これで氣が付いたのは私の社内のポジショニング。
どこへ行ってもMBAくささを出すとほぼ確実に嫌われるので(苦笑)、
短期的には専門用語は極力出さずに
ポジショニング派の皮をかぶりつつ社内を説得・根回しをし、
中長期的には密かに力強くケイパビリティの分野に働きかけ続ける、
というものか。

自分が社内で無意識的に採用している
「経営戦略」にまで氣づきを得られた、
貴重な一冊であった。