祖母。 | 漫画家の犬たち

祖母。


昨日のお昼過ぎに、祖母が亡くなったという知らせが母から届きました。
102歳、大往生でした。


ファミ通の原稿は、昨日の夜に上がっていました。

台風がこなければ、朝一番の飛行機で告別式に間に合いました。
現時点で、13時までの長崎の便はすべて欠航です。
告別式どころか、火葬場にも間に合いません。
新幹線を使っても、乗り換えがあるので間に合いません。
間に合うすべはありません。

故郷は遠いと、あらためて実感しました。


祖母は祖父が66歳で亡くなってから、親戚一同をまとめていたゴッドマザーのような人でした。

祖父は海釣りに行った時に、ボートが漁船に衝突されて海に沈みました。
漁船の前方確認不足でした。
でも相手の生活が苦しいと知った祖母は、何も要求しませんでした。
そういう人でした。


母方の孫たちの中で、女性はワタシだけだったので、とても可愛がられました。

幼い頃に体が弱かったワタシを、母と一緒に夜通し看病してくださいました。


東京に出るまで、週末はしょっちゅう祖母の家に泊まりに行きました。

中学から気管支炎がひどくて、夜中に咳き込むワタシの胸を、少しでも楽になるよう温めてくださいました。


漫画家になってから、なかなか時間がとれず、年に一度も帰れないこともよくありました。

電話で話す祖母の口癖は、『亜美ちゃん、いつ帰ってくると?』でした。
その度にワタシは、『時間がとれたら、まとまった休みを取って帰ってくるけん、待っとってね。』と、はぐらかしてばかりいました。

たまに帰っても仕事の都合でとんぼ返りで、『もう東京に帰るとね。』と、さびしそうに祖母に言われました。

『今度また帰ってくるけん、長生きしてね。』そういうワタシの言葉どおり、あなたは本当に長生きしてくれました。
ワタシを待っていてくれました。

だけど、あなたが一生懸命長く生きてくださっている間に、ワタシはそれに見合うだけあなたとの時間を過ごしていません。


少し前から祖母の容態がおもわしくなかったことを、母はだまっていました。
ワタシの漫画は、ギャグが多いです。
ストーリー作りに支障が出ないよう、母はだまっていました。

身内にこれほど気を遣わせて、自分は何様だと思いました。


祖母は誕生日や敬老の日にワタシがプレゼントした物を、『ワタシがやった物は忘れているくせに、あなたからのプレゼントは、「これは、亜美ちゃんからもらったの。」とニコニコしながら話すのよ。』と、母から聞きました。

だけど、ワタシが祖母にすべきだった本当の御礼は、そんな物なんかではなかったでしょう。


『おばあちゃんのお葬式には、何があっても必ず帰ってくるとよ。』あなたは冗談めいて、そう言っては笑っていました。

あなたとの最後の約束すら、ワタシは果たせません。


ひょっとしたら台風状況が変わるかもしれないと思って、アシスタントさん達は少しでも早くワタシが旅立つ準備ができるよう、クオリティは下げずに原稿をいつもよりも早く仕上げてくれました。

アシスタントさん達が帰った後、リビングでテレビから流れる台風情報に変化はありませんでした。

リビングに飾ってある祖母の写真を、ワタシは見ることができませんでした。
あなたの写真に背を向けて、『ごめんなさい、ごめんなさい。』と、謝り続けました。


今朝も状況は変わりません。
あなたの死に顔すら、ワタシは見れません。


犬たちがいるから日帰りでしか帰れないため、明日の飛行機を予約しました。

すみません、明日帰ります。


あなたから受ける愛情を、ワタシはあたり前のように受け止めていました。

たくさんたくさんかけていただいた愛情に、ワタシはまだまだ到底返し足りておりません。


2年前のお正月、蛍と一緒に長崎に帰りました。
『あら、ちっちゃか、かわいかね。』と、あなたは蛍を見つめてくださいました。
あなたの顔を見たのは、それが最後です。


謝らせてください。
明日、あなたに謝らせてください。

こんなにも長く立派に生きてくださったのに、ワタシは何も孝行できなかった孫です。


すみません、最後まで約束が守れなくて、本当にすみません。