週末は母の命日。何度目をむかえるのかも今では数えるのをやめてしまった。久しぶりに姉の家族も合流し、車で十五分ほどの寺に向かう。彼岸前なので寺内は墓石の黒っぽい色合いにつつまれ、閑散としている。母の墓の前まで来て雑巾を持ってくるのを忘れたことに気づく。すると親父はおもむろに、桶の水を汲み出すと、しわだらけの太い手で、ごしごし墓石を洗い出した。ゆっくり丁寧に。まるで二人だけの時間を楽しむように。その姿をみて、何だか羨ましい気分にもなった。墓前に花と水を手向け、線香をたくと、淡い煙がみるみる風にのって舞いあがる。香の匂いに満たされた中で手を合わせると、見知らぬ鳥の甲高いさえずりが響いてくる。親父の彼岸にまた来るよ、という声で墓を後にする。次くるときには寺内は春の花片で明るく染まっていることだろう。