『中央公論文芸欄の明治』(中公文庫)を読み始める。そうそうたる面子なのである。戦前の中央公論とは何とも凄いものだったのだなと改めて知ることができるものなのだ。この明治編には、夏目漱石、泉鏡花、幸田露伴、森鴎外、島崎藤村、国木田独歩、正宗白鳥、徳田秋声、永井荷風、谷崎潤一郎と、まあ、どこもかしこも大御所ばかりなのである。順不同に鏡花「女客」から読み始める。いいねぇ。「謹(きん)」と「お民」の指が火鉢のふちで触れあう場面は印象的だねぇ。淫靡な場面はないけど官能的なんだなあ。余韻を残しつつ、鴎外の「鼠坂」へ。これはちくま文庫の『文豪怪談傑作選 森鴎外集』にも収録されている。気のせいか中公文庫の方が「ふりがな」が少ないようである。しかも、ちくまの方は「注」も付いている。まあ、それはともかく、どちらで読もうと、作品の面白さにはもちろんかわりはないのだから、お好きな方でどうぞ。そして音羽の急勾配の鼠坂散策もお忘れなく。さて、次は何を読もうか。露伴にするか荷風にするか、締めは漱石か谷崎か、そんな順番を考えているだけでも、なんだか楽しい本なのである。


中央公論文芸欄の明治/中公文庫編集部
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