階段をふたりでくだりながら
あの日のことが
走馬灯よりも早く、甦る。

あの日もこうして1歩1歩階段を降りたのだ。

“タイムスリップしたみたいだぁ”

ふんふん言いながら、振り返る。
彼とて気づいている。

“懐かしいね! なんだか戻ってきた感じがするね”

店に入ると、おいしいものが焼ける匂い。
腹ぺこにはたまらず、おなかはますますグーと鳴る。

24時間営業の鉄板は、熱い。

あの時はテーブルだったけど
今日は4人だし、グダグダな気分だし、
時間も時間だし、座敷に。
斜め後ろの席で、仕事帰りのギャルさんが
騒いでいる。
若いなぁ。元気だなぁ。
お尻、半分出てるよ。

あの日はどこに座ったんだっけ?
あの席じゃなかった?
いやぁ、あっちのような気がするなー。
いや、あっちじゃなかったっけ?
とりあえずあのへんなのは間違いないよね(笑)。
それで隣の席でキャバクラのねぇちゃんとおっさんが
ごはん食べててさ。
あのとき、すっごい悩んでたんだよね。
そうそう、悩み相談だった(笑)。
ずっと心配してたんだ。
そうかぁ。ありがとう。
懐かしいね。
懐かしいね。
モグモグ。

思い出すだけで
空白が埋まる。
埋まるというか、
その瞬間と今この瞬間が
おもむろに繋がるのだ。

時間を飛び越えることはできなくても
時間のきれっぱしを
かろうじて針で引っ掛けて
縫い合わせることはできる。
そうして大切なものは
巨大な洋服になり
私たちはそれを身に纏って
歩くのだ。

どうせなら、お気に入りの洋服がいいよね。

ある青春の1ページだ。

飾りのように身につけていたあの日の記憶も
今この瞬間から、洋服の一部となった。