- 絲山 秋子
- 海の仙人
超長編がブームな昨今、短編とも長編とも言いがたい“中編”のこの小説は、なんだか読んでいてほっとする。きっと、必要以上に恐怖や罪の意識や倫理を押し付けてくることがないからだ。じっくりと読み進め、場面や意図を丹念に味わい、無理に引き延ばしたり後味の悪さを残すことなく、終わる。小説としてもっとも理想的で、しかし難儀でもあるのは中編なのかもしれない。
文中、片桐という河野の元同僚の女性が、こんなことを言う。
「孤独ってえのがそもそも、心の輪郭なんじゃないか? 外との関係じゃなくて自分のあり方だよ。背負っていかなくちゃいけない最低限の荷物だよ。例えばあたしだ。あたしは一人だ、それに気がついてるだけマシだ」
ものすごく、同感だ。