ある日、自宅の電話が鳴った。
「元気? manami 。私の事、覚えてる?〇〇だよ!今、何しているの?」
それは、中学校時代の同級生からだった。十数年もたっているのになぜ今ごろ電話なんだろう?特別仲が良かったわけでもなく、卒業してからただの一度も会った事はない。
「卒業アルバム見てたら懐かしくなって電話しちゃった」
そういわれると悪い気はしないけど、
「風の噂で聞いたんだけど、もう地元には住んでいないんでしょ? manami の実家に電話したらね。電話番号教えてくれたよ。」
「わざわざ実家に電話をしたんだ…へぇ。」と、ちょっとひいた。でも、
「そういえばさぁ、剣道部の顧問の先生がさ、こーでさぁ、あーでさぁ。」
と、ノリノリで話してこられると、なぜかこちらもノってくる。中学校三年間を共に過ごした仲間だから、さほど親しくはなかったとしても会話は弾む。
「あのね…実は manami に相談があってね。会いに行っていい? 」
と、妙な展開になってきたにもかかわらず、
『いいよ~ わたしも会いたいから」
なんてノリで答えてしまっていた。何の警戒心も生まれてはいなかった。ノリノリで部屋を掃除して、ワクワクしながらお茶菓子を用意し、彼女の到着を待った。
「懐かしいなぁ~。どんなふうになってるかな〇〇さん」
まもなく車のエンジン音がして、部屋の近くで停止した。チャイムが鳴った。ずいぶんと早い到着。今思うとちょっと不自然。
「はぁ~ぃ」
と、ルンルンしながら玄関の戸を開けた。すると…一人ではなかった。謎の綺麗なお姉さまが一緒だった。
「お世話になっている先輩なんだ。一緒におじゃましていい?」
まさかダメなんて事は言える訳がない『どうぞ』と、作り笑顔で招き入れた。そして、しばらく中学時代の思い出話しをしたりしながら楽しく過ごした後
「あのね…話があるんだけど」
と、同級生が例の「相談」とやらを切り出してきた。
「あっ、相談があったんだよね。いったいどうしたの?」
「運って信じる?それって使うと無くなるんだよ。避けて通れないものがあってね。それが運命とか宿命っていうんだよ」
そこまで聞いたら何の話かだいたいわかった。宗教の勧誘だ。それは相談とは言わない。怒りが湧いできた。
『急に相談なんていうからなんだろうって心配になっちゃったんだぞ!』
なんていうこちらの気持ちはよそに、
延々とマシンガントークが続いた。謎のお姉さまも加わった事で『謎』も溶けた。お姉さまは宗教団体の幹部。二人は断るに断れない巧みなトーク術を身につけていた。それでも私は頑張った。
「あのね。すぐにやるのは無理。少し考えさせて・・」
と一度は断る。
でも、その時すごく頭が痛くなってきてて、
「何を考えるの?断る理由を考えるんでしょ?半年間試してみようよ。必ず初心の功徳があるから。断るなら試してみてらかでも遅くないでしょ?」
と、変な理屈で切り返された時には、反論するのも辛い状態になっていた。
宿命とか運命とか、戦争とか災害の事を言われて将来に対してだんだんと不安な気持ちになっていた事もあり
「なんでもいいから早く終わろう。そしてご帰宅下さい。頭が割れそうに痛いの」
そんな心境だった。同級生はまるめた本尊を取り出し、画鋲でもって私の部屋の壁にかけた。そして
「それでは、入信勤行を始めます。南無…」
と、始まり
『本日は入信おめでとうごさまいます』
と、あっけなく終了。
その日は、法戦と称するものの最終日だったらしい。私の入信で謎のお姉さまの組織は無事に誓願を達成した。
こんなもの『折伏して入信を決定させた』とは言わないと思う。
仏様と縁をさせて頂くって、本来こんな軽いものではないはない。