ELINOR GLYN: MAN AND MAID

エリノア・グリン 作 「男とメイド」 第21章 (5)


「愛というのは、創造的な本能から発する見せかけに過ぎないもんだよな。実のところはありゃしない。だが賢い女は、刺激になるんだ。抽象的なレベルで狩りの本能を満足させてくれる。それほど寛大ではないが、肉体的な満足も与えてくれる。残念なことに、俺はそういう女にめぐり合うという幸運には恵まれなかった。だから一人の女に忠実ではいられなかったんだ。ボビーの娘が賢い女なら、お前は果報者だぜ。いい女に違いないと思う。両親の熱烈な愛の結晶なわけだし、それに母親の自己犠牲と献身を受けているからな」

「実際そうなんですよ、ジョージ」

「うらやましいぜ、ニコラス。お前は賢い奴だ。障害者なのに、納得のいく伴侶を得られたんだからな」

「ヴィオレッタとは終わったんですか?」

「それなんだけどな」 と咥えていた葉巻を口から離した。「俺は彼女に見切りをつけて、ごたごたなしに手を切ろうと思ってたんだが -- カーメンシータが誘うもんでな -- ヴィオレッタは冷静なんだ。俺の熱が冷めたことは分ってるし、自分は去る者は追わない。どうぞお好きに、と言うんだ。あいつは情が深いし、見た目もきれいだ。思い切って別れ話を切り出そうとするんだが、どうしてもそれが出来ないんだ! 仕事に手を取られて時間が作れないという嘘を考えていたんだが、おれが事務所から離れられないことは分ってるし、もう俺を引き留めたりはしないって言って、機先を制せられちまった。俺はヴィオレッタが何倍も魅力的な女であるかのように、急に思えてきた。カーメンシータとはまだ抜き差しならぬってところまでは行ってなくて良かったと思ったりしてな。今はまたヴィオレッタを求めてる。心からな。ニコラス、俺がこんなことを考えるなんて、俺は本当に惚れちまったんだろうか!」

「結婚したらどうなんです、ジョージ」

彼は、まるで恥ずかしがってるみたいに見えた。

「ヴィオレッタは未亡人だからな -- 出来なくはない」

その時、おれたちの目と目がかち合った。いっしょに笑った。

「彼女とうまくやれそうじゃないですか、ジョージ。彼女はあんたを扱う術を、もう知ってるんだ。おれも、あの女とうまく行きそうな気がする。おれは彼女の人間性を尊敬してるし、彼女のすべてを崇めてる。驚きだな、おれたち2人とも、求めていたものを見つけたんだ!」

それから、話は政治と戦争のことに移り、オールド・ジョージが辞去したのは真夜中だった。彼が出て行く時、おれは窓を大きく開いて、夜空を眺めた。半月がほぼ没し、空気は動かず、11月初旬にしてはとても暖かな夜だった。外国の軍の活動が収まっている時、神秘的で電気を帯びたような、そんな夜がある。おれの内なるロマンスの精神のようなものが、おれの魂を引き上げ、気がつけばおれが己の信念に忠実であらんことを祈っていた。そして、アラセアが自らの意思でおれの腕の中に飛び込んでくるまでは、忍耐強く待つだけの力があるようにと。

そして思う、アラセアは何を想っているだろうかと。あそこ、オートイユで。

明日からは彼女の部屋になる部屋へと行ってみた。すべて整っていた。花はまだだが、朝新鮮なものが届くことになっている。それから足を引きずって自分の部屋に入ってベルを鳴らしてバートンを呼んだ。忠実なるバートンは、どんなに遅くなってもおれを待っている。

おれが無事にベッドに入ると、おれの上に顔をのぞかせた。気持ちのこもった老人の表情だ。

「本当に、お幸せを願ってます、バートンさま。明日は、私の人生でも最良の日になるでしょう」

彼は静かに手を振って出て行った。おれはまだこの日記を書いている。

おれは興奮を覚えない。むしろ、人生のひとつのドラマが終わったかのような気がする。それだけだ。そして明日、新しいドラマが始まるだろう。そのドラマの終わりは、果たして悲劇なのか、それとも満足すべきものになるのか。




(第21章のおわり)

(第22章につづく)