朝刊をつらつらと眺めていたら、アイリーン・チャンについて書かれた記事が目に入った。
アイリーン・チャンについて、私は良くは知らない。簡単な略歴は Wikipedia などで (*)。

 * 張愛玲 - Wikipedia

何でも祖父は 「清朝末期の名臣張佩綸」 であり、祖母は李鴻章の娘であるという。
だが、清朝が滅亡してからは、家は没落。香港大学で学び、日本軍占領下の上海に戻り、
22歳で小説などを発表。夫の胡蘭成は、汪兆銘政府法制局長官だったこともある人。

勿論、汪兆銘政府にかかわった者は、中国に対する裏切り者 (漢奸)。
彼女は、香港へ逃れる。香港で職を得たのが、米広報文化交流庁。
そこで反共的な作品を書いた時代があり、やがて米国に渡る。

アン・リー (李安) 監督の映画 「ラスト・コーション」 の原作は、
彼女の小説 「色・戒」 が原作であり、2007年のベネチア国際映画祭において
金獅子賞を受賞。

この 「色・戒」 という作品には、モデルがいる。
映画の中でも同名だろうが、易先生という男 (映画ではトニー・レオンが演じる)、
これは 丁默邨 (ティ・モートン) がモデル。女は 鄭蘋如 (テイ・ピンルー)。

この両者については、ネット上でも、下に示したようなサイトがあるので、
そちらの見事な文章に譲って、ここでは詳述しない。

 * 丁默邨小伝(1)No.1には向かない男 (nancix diary)
   http://nancix.seesaa.net/article/24353282.html
 * 女スパイ 鄭蘋如 はアン・リー次回作のモデル (春巻雑記帳)
   http://springroll.exblog.jp/5414937/
 * Caution! 「ラスト、コーション」、そして上海 (kiki的徒然草)
   http://diary.jp.aol.com/ugtj2ehb/310.html
 * 続 日中戦のはざまで 鄭蘋如(テンピンルー)の悲劇 (上戸彩「李香蘭」)
   http://uetoayarikoran.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/post_8b67.html

鄭蘋如の父親は中国人、母親は日本人で、日華混血の実在した美女。
丁默邨は、かつては重慶 (国民党) の工作員であったが、日本側に寝返った男。
日本側の特務工作機関である土肥原機関に現れた時の印象を、
同特務機関に奉職していた晴気慶胤氏は、後に 『上海テロ工作76号』 において、

 「目は蛇のように冷たく光り、見るからに陰惨な、かみそりのような感じ」

であったと回想している。

この丁默邨にしてからが、鄭蘋如の色香には容易に迷わされてしまい、
後に暗殺寸前で命からがら逃れている。しかも、その責任を問われ、
「76号」 からも追放されるという屈辱を味わうことになる。

この女には、日本軍の軍人も何人か餌食になって、極秘情報を漏らし、
あるいは近衛文麿の息子のように、満州に追いやられ、後には
シベリア抑留の憂き目にあったあげくに病死した者までいる。

男の、いかに容易に女に迷わされるかという、その一例ではなかろうか。


本来の意図は、次のニュースを紹介するにあった。

 「わたし独身40代」さばさば69歳女 逮捕 (MSN産経ニュース)
 → http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080603/crm0806031602032-n1.htm

 40代の独身と偽り、結婚を餌に男性から100万円をだまし取った

という事件。この の年齢は 69歳 である (勿論、69歳だから悪いというのではない)。

騙された男の年齢は 49歳。一体、そんなことが有り得るだろうか。

如何に女にモテない、女に縁がない ・・・ 男だとしても、それでもなお首を傾げる。
20才も年上の女を年下の女と見間違うものだろうか。そして100万円をポンと与えるか?

この女の顔を拝んでみたいものだが、究極の化粧法でも身に付けているのか。
いかなるテクニックでこの男を騙したのか。

男というのは、ある意味、アホな存在だなぁと思わぬでもない。

眠いので、本日はこれくらいで終りにしよう。


◎ 追記

  小文の趣旨とは異なるが、鄭蘋如の最期について、ちょっと奇麗事では?
  と思える描写がされている場合がある。ほんの僅かな違いかもしれないが。

  買物に連れていってやると言われ、最大のおしゃれをして嬉々として、
  車に乗せられ、騙されて 「刑場」 に連れて行かれたのだが、墓穴の前で、
  「顔だけは撃たないで」 と哀願したので、後頭部から撃ち込んだというもの。
  晴気慶胤氏の著書を見ると、暴れて手が付けられないので、大の男が二人掛りで
  何とか車から引きずり降ろして、その場で射殺したという。

  晴気氏はこの鄭蘋如の 「処刑」 の現場にいたわけではないが、関係者とは
  直接面識のある人であったから、最も信用性の高い証言ではないかと思う。
  なお、その 「処刑場」 には、晴気氏も一度連れて行かれたことがあるそうだ。
  維新政府 (後ろ盾は日本軍) 部内の裏切り者5人を処刑する現場に立ち会っている。

  鄭蘋如を買物と偽って車に乗せたのは、当時の上海は租界というものがあり、
  アメリカの租界を通過する際に車内の不審を見られぬためであった。

  歴史の教科書には載せられることもない者ではあるが、いささかの哀れを催す。


◎ 追記 (6/13)
  鄭蘋如に関して、bikoran様から貴重なコメントを頂戴したので、
  コメント欄も是非ご参照下さい。