「名言の正体」  山口智司 学研新書


dolphinのBookLOG 目からウロコが落ちました。


「名言の正体」というタイトルや、帯に書かれた「知らずに使うと、恥をかく!?」、「エジソンは「努力」なんてまったく肯定していなかった。」といった派手なキャッチコピーは、残念ながら、本書の価値を、雑学本のレベルに下げてしまっていると感じます。


著者は、古今東西の偉人達が残した(とされる)名言のバックグラウンドを膨大な文献にあたって丹念に調査し、名言の「由来」を明らかにしたもので、教養書として扱われるべき内容です。


わたしのブログにも使っている「目から鱗が落ちる」は、新約聖書の「使徒伝」から生まれた言葉らしく、「信仰へと目覚める」というのが元の意味だそうです。


また、恋愛やビジネスでよく用いられる「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」という言葉は、杜甫の詩からの出典で、もとの意味は、敵だからといって、人を殺し始めたら、際限がない。侵略を防ぐためなら、人を射るのではなく、馬を射ればよいではないか、といった反戦詩の一部から転じたもので、馬を射ること自体がタブーであった武士のマナーからみても、現代の用法は、本意から外れているそうです。


福沢諭吉氏の名言「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」は、その後に、だが実際には、賢者も悪者も、貧しい人も富める人もいる、その差は、学問をしっかりやったかどうかの違いだ、ゆえに学問をやりなさい、と続きます。著者は、冒頭の一文だけとりあげて、福沢氏は「人間は皆平等」といった人権派めいたメッセージを伝えたかったわけではないという考察を述べています。もちろん、人権派だからこのメッセージを書いたわけではありませんが、江戸時代の常識だった身分社会というヘッドギアを完全に破壊しようとした、入魂の一文ではないかと思います。


ちなみに、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という名言を残した山本五十六氏は、他に次のような言葉も残しているそうです。


「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」

「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」


また、「私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利には賛成だ」という言葉を残したヴォルテールは、「結婚とは、臆病者の前に用意されたたった一つの冒険である」という言葉を残しているそうです。