花の色 | Passage ☆ My Railway Note

Passage ☆ My Railway Note

鉄道に関するあれこれ+ものすごくたまにお話も書いてます。                           




 夏風邪で外にも出られず過ごしていた。

 ようやく熱が下がった日の午後、梅雨があけたとニュースで言っていた。


 窓の外、空の色は夏の蒼だ。隣の家の生垣の隙間に見える緋色は、背の高さから推してカンナだろうか。


 不意によみがえる、遠い日の会話。あの日も、こんな風に太陽が輝いていた。





 一緒に出かけたオープンキャンパスの帰り道。私たちは駅に向かって並んで歩いていた。


「来年、この色の電車でここに通ってるといいけど…」

 彼の視線の先には、照りつける日差しの中で力強く咲く、濃いオレンジ色のカンナ。横を通る、同じ色の電車。中央線201系。


「私はこっちの方が好き。しゃきっとして暑苦しい感じがしないもの」

 私はレモン色のカンナを指して言った。

「総武線各駅か。103系だな。そういえば、さだまさしの歌で電車が出てくるの、あったよね。“檸檬”だったかな」

「ああ、“快速電車の赤い色がそれとすれ違う・・・”って、あれね」



それから1年後、そのキャンパスに私だけがいた。

あの歌に出てくる言葉のように、“食べかけの夢”を放り出した彼。

各駅停車ならぬ現実にかみくだかれた、その未来。


 回り道なら、まだいい。道が途切れるのではないのだから。



 行き交う電車が見える病室にいた彼は“金糸雀色の風”になって飛び立っていった。




 今はみんな同じような銀色にそれぞれの色の線を入れた電車が走っている。かの歌い手は、今なら同じ風景を何と詠うのだろうか。



 花の色の電車は、姿を消しつつある。




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