金麦はかなしからずや青の缶、白の缶にも麦の絵揺れて   田口綾子

 

 

火を掴むされども夢のわたくしは火を知らざれば燃える手を見る   富田睦子

 

 

花のない初夏の花園二周してベンチですこし君と眠りぬ   立花開

 

 

折れるほど固いものや強いものが私になくて侮られている   宮田知子

 

 

母は朝三度言いたりわたしたちパンを食べるのもうやめようね   山川藍

 

 

日傘の柄の木のひび割れをなぞる親指 目を合わすたび   荒川梢

 

 

神様はいるらしいかづち炎昼を裂きスーパーの駐車場も空く   伊藤いずみ

 

 

実家へと妻と子どもの行きたれば父のト書きを見ずに箸もつ   大谷宥秀

 

 

「すぐ!すぐ!」と救急からの電話受けモルヒネ1A(いちあん)掴みて駆け出す   小原和

 

 

赤飯を毎日たいてもいいですかと母は言いおり危うかるべし   加藤陽平

 

 

生きてゆくことしかできず夏の血をしずかに吸わせている広島忌   北山あさひ

 

 

「ばくだんがあたらなかった」クスノキを調べて夏の宿題終える   木部海帆

 

 

蚊を叩くことができずに蚊が去りし後の痒みにムヒをぬるなり   倉田政美

 

 

知事選の政見放送つるつると朝餉の納豆絡ませている   小島一記

 

 

遠ざかる白杖の音ホームにはなまぬるき風せり上がるのみ   後藤由紀恵

 

 

半日を保育所にいる幼児を引きわたしつつ出す請求書   佐藤華保理

 

 

ドトールでアイスコーヒー飲むうしろ父のごときの怒りてゐたる   染野太朗