あまりにロシア的な。 (文春文庫) | 誇りを失った豚は、喰われるしかない。

誇りを失った豚は、喰われるしかない。

イエスはこれを聞いて言われた。
「医者を必要とするのは、丈夫な人ではなく病人である。わたしが来たのは、正しい人を招くためではなく、罪人を招くためである。」
(マルコによる福音書2章17節)

亀山郁夫教授が国家崩壊後から3年後の

 

ロシアに赴き、現地での文化や芸術に向き合う

 

濃密な日々を記した書籍です。

 

かなり難しい内容ですが、あの当時のロシアが

 

持つ『光と闇』の部分が浮き彫りになっております。

 

 

 

 

 

本書は亀山郁夫教授の「ロシアと私」とも言うべき

 

体験記です。

 

コラージュ的な書かれ方をしているので、読むのに

 

苦労しました。

 

旧ソ連崩壊から3年。1994年から1年間のロシア滞在で

 

目の当たりにした『国家の崩壊』が描かれており、これは

 

元外交官で現在は作家の佐藤優氏が

 

『甦るロシア帝国』で描いたロシアと一致する時期や

 

出来事があるので、個人的には本書と対になって

 

おります。

ここで明らかにされているのですが、亀山教授は

 

ある日、ヴォルガ沿岸の町で撮影してはいけない橋を

 

撮影してしまったということで、秘密警察からスパイの

 

嫌疑をかけられ、悪夢のような時間をすごしたことに

 

ついても触れられております。

亀山教授は一度、大学時代にドストエフスキーと

 

決別した後、何を専門分野にしていたのかというと、

 

スターリン時代の「ロシア・アヴァンギャルド」という

 

芸術のジャンルで、僕はこれを読むまでは一切知る

 

ことのなかったジャンルで、作中に出てくる

 

マヤコフスキーやブレーブニコフなどのロシアの

 

芸術家たちの軌跡を調べるために「科学アカデミー」に

 

出入りして調査、研究をするのです。

その過程の中で行われたオペラ、観劇、コンサート

 

会場へ亀山教授は日参していたり、現地の研究者

 

たちとのウオトカを交えながらの濃密なやりとりに、

 

『ロシア的なるもの』を見つけ出し、その真髄に触れる

 

というくだりは、この体験記が異質ながらも『時代の断片』

 

を見事なまでに切り取り、「全体主義国家」としての

 

ロシア/旧ソ連の光と闇の部分を浮き彫りにさせて

 

くれたと思いました。

あまり我々の日常には馴染みにくいのと、扱われて

 

いるジャンルのテーマのマイナーさと難解さで、

 

最後まで読み通すのは本当に骨の要ることで

 

ございました。

 

読み終えた後にドストエフスキーの翻訳で一躍脚光を

 

浴びた亀山教授の『原点』に触れることができた

 

ような気がしてなりませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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