高瀬川 (講談社文庫) | 誇りを失った豚は、喰われるしかない。

誇りを失った豚は、喰われるしかない。

イエスはこれを聞いて言われた。
「医者を必要とするのは、丈夫な人ではなく病人である。わたしが来たのは、正しい人を招くためではなく、罪人を招くためである。」
(マルコによる福音書2章17節)

芥川賞作家、平野啓一郎氏が描く『現代』。

 

実験的な作風を数多く取り入れたのが特徴

 

です。

 

ラヴホテルで一夜を共にする男女を描いた

 

表題作に、少年と女性の運命が交錯する

 

『氷塊』など4つの物語が収録されています。

 

 

 

 

芥川賞作家、平野啓一郎氏による短編集です。

 

『ロマンティック三部作』の完結編ともいえる

 

『葬送』を刊行した後にはガラリと作風を変えて、

 

現代が舞台となっている他、『追憶』では活字を

 

音符のように使ったり、『氷塊』では二つの物語が

 

同時に展開し、ある一転で交差するなどの実験的な

 

試みをいくつもされていることが特徴的な

 

一冊です。

それでも印象的なのは表題作である『高瀬川』と

 

最後の収録されている『氷塊』でございました。

 

『高瀬川』は大野という新進作家と、女性ファッション

 

誌の編集者である裕美子とのラヴホテルで過ごす

 

濃密な『一夜』が描きこまれております。

二人の『出会い』のきっかけから京都の夜で

 

過ごす瞬間。ジャズの流れる店で交わされる

 

会話やその後のラヴホテルの様子。

 

前作である『葬送』から一転した作風で、コレを

 

リアルタイムで読んだ方は本当にびっくりしたことで

 

あろうと察せられます。

 

二人が一夜を過ごし、お互いの下着をつめた

 

ペットボトルを川に投げ込む瞬間がとても印象に

 

残っております。

個人的に読んでいて一番面白かったのは最後に

 

収録されている『氷塊』でした。

 

これは前述したとおり、二つの物語が上下で同時に

 

進行する作品となっており、筆者の『意気込み』が

 

伝わってくるようでございました。

 

上の段で展開されるのは母親を失った少年の物語で、

 

彼は図書館に日参しながらある女性のことを

 

目で追い、母親の『影』を追うようになります。

 

その少年の繊細な内面描写は『母を失った』という

 

喪失感を抱えながら、父親の再婚相手にも

 

打ち解けることなく、『本当の母親』を求めるという

 

なんとも切ない展開でした。

対して下の段では東京で文学部の美学科を専攻し、

 

大学院の修士課程まで出た女性が主人公です。

 

彼女は親の反対を押し切って画廊に就職するの

 

ですが、仕事に行き詰まりを感じ…。

 

故郷の新美術館の学芸員に親の勧めでなることで

 

帰省するのですが思惑が外れてその計画が

 

凍結され、彼女が配属されたのが県庁の教育委員会

 

文化課美術館新設室という箇所でした。

彼女は倦んだ毎日を送り、不倫をするように

 

なります。その待ち合わせに使っていた場所が

 

上段の少年が通っている図書館でした。

 

『不倫』という形で逢瀬を重ねる彼女の中に去来

 

するものを本当に丁寧に描き込んでいて、とても

 

読んでいて複雑な女性の心理というものを楽しむ

 

ことが出来ました。

そんな二人の運命がところどころで『交錯』する

 

瞬間があり、二人の物語が同時進行で進んで

 

いるということと、最後のほうでそれが交わって

 

いくというラストに平野氏の持つ『技量』というものを

 

存分に感じさせるものでした。

 

本書に収録されている物語は結構前衛的な試みが

 

なされているものもあるのでそういった意味では

 

最初に違和感を感じるかも知れませんが、読み

 

進めていくとやはり面白かったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

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