八月の蝉  | 思い草へ              

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昨日とは違う 蝉の声の激しさ 
君たちには 八月が解るのか 

幼虫になって 初めての脱皮後 
目もないままに 人知れず地下に潜り 
国土から記憶のコトバを吸って 数年を生きてきた命よ 

或る晴れた 夏の日の夕 
黒い目を得た君は地上に出て 夜へとゆっくり樹木を登り 
背を割って 薄緑の透明な翅をもった 白いカラダを生む 

そして朝  褐色に光る最後のカラダを得た君は呼ぶ 
土になった者たちの八月の記憶を 空へと激しく 
そして昨日とは違う 蝉の声の激しさ 

君たちには 八月が解るのか 
ことさらに激しく呼べよ  70年後を生きている命たちへ 
今が 戦前と呼ばれぬために 

                               再掲 (2015.8.1)


PHOTO 山本てつや


   
2016年8月6日、広島忌。
蝉たちが高らかに命を歌う日本の夏。
この朝、8時15分。 平和への祈りの時をむかえようとしています。 
当たり前の日常の尊さを、心身に深く刻まれてきた民の希求です。

昨年8月1日ブログ掲載の詩、『 八月の蝉 』を再掲いたしました。
数名の方々から、この詩を8月6日に再掲して欲しいとのメッセ―ジを賜りました。過去記事にこのようなリクエストをいただく恵みに感謝しつつ。

                                        スノウ