「スカーフェイス」(Scarface) アル・パチーノを伝説にしたカルト・ムービー | シネマの万華鏡

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あけましておめでとうございます。

ふつつかなブログですが、本年もZELDAの映画ブログを宜しくお願いします。

成り行き上正月早々から濃い映画が来てしまいましたが、年末の記事の続きになります。

◆伝説のカルト・ムービー◆

1983年のアル・パチーノ主演映画。

監督は同じくパチーノの「カリートの道」も手掛けたブライアン・デ・パルマ。

「暗黒街の顔役(Scarface ※1)」のリメイク作品ですが、テイストはベツモノと言っていいほど違います。(ただ、本作は「暗黒街の顔役」の監督ハワード・ホークスと脚本家ベン・ヘクトに捧げられています。)

 

1980年、カストロ政権下のキューバからアメリカに逃れてきた難民12万5千人の中には、反カストロ主義者として追放された2万人以上の犯罪者も含まれていた――その一人(恐らく犯罪者のほう)が、この作品の主人公トニー・モンタナ(アル・パチーノ)。

当初は「フリーダムタウン」(キューバ難民の収容施設)に収容されたものの、亡命コミュニスト暗殺と引き換えにまんまとグリーンカード(米国永住権)を得たトニーは、マイアミ暗黒街のギャングに仕えて頭角を現し、やがて自身麻薬王へとのし上がります。

金で手に入るものは全て手に入れ、王者のように暮らすトニー。

しかし、妻(ミシェル・ファイファー)の愛も温かい家庭も手に入れられず、仲間を信じることもできない。

そして、どうしても譲れない信条を曲げなかったことで取引相手のソーサと決裂し、命を狙われる羽目になり――

 

闇社会でアメリカン・ドリームを追い続けた男の半生を描いたカルト・ムービー。

これはもう「どっぷり男映画」と言っていいんじゃないでしょうか。

主に男性陣が、

「かっけ~!!びっくりびっくりびっくり

「すげ~!!びっくりびっくりびっくり

「ハンパね~!!びっくりびっくりびっくり

と文字数ミニマムな感嘆詞を連発しながら観るイメージ。時々失笑も混ざりつつ・・・みたいな?

長ったらしい言葉は不要、ただただトニー・モンタナの過激で下品で貪欲な生き方の不思議な魅力に吸い寄せられ、彼のビッグマウスぶりに失笑し、そんな彼が秘めたどこまでもピュアな一面に心を撃抜かれる

そしてまた、ただただブライアン・デ・パルマのコアな美意識が詰まった映像と音楽に心酔させられる・・・ってやつですね、これは。

逆に女性は、たとえパチーノ・ファンであっても「スカーフェイス」よりは断然「ゴッドファーザー」派という人が多いんじゃないかと。

 

公開当初は批評家にさんざんこき下ろされたらしいこの作品ですが、その後、身一つの移民からの下剋上というトニーの生き方が黒人のラッパー等に共感を呼び、じわじわと人気に火が点いたというこの作品、今では伝説のカルト・ムービーという確固たる地位を確立した感があります。

 

◆「カリートの道」との類似性◆

 

前回も書いたとおり、最初に観た時には呆気にとられたというのが正直な感想。

ところが、同じデ・パルマが監督した「カリートの道」(1993年)を観た後に観てみて、全く評価が変わりました。

 

「カリートの道」の(DVD特典)メイキング映像の中でデ・パルマ監督が話している通り、「カリートの道」と「スカーフェイス」はとても共通項の多い作品です。

マイノリティーの主人公が、身一つから闇社会でのし上がるものの、自分の中にどうしても譲れない「男として理想の生き方」を持っている彼らは、そのこだわりゆえに身を滅ぼす・・・というストーリー自体、全く相似形と言ってもいいほど。

 

このストーリ、一見したところアクション映画の王道・勧善懲悪ものではないように見えますが、「ダークな世界に生きる主人公が、彼の中の純白な心ゆえに自滅する」という展開は、或る意味勧善懲悪そのもの

主人公の中の二面性の葛藤が心理劇としての面白さを加えて、単純な勧善懲悪ものよりもはるかに主人公を陰影深く、魅力的に見せるプロットです。

 

そんな中で、「カリートの道」は「スカーフェイス」とは対照的に、主人公のモノローグで彼の心情に寄り添いやすく作られているし、主人公の衣裳も、コッテコテのヤクザ風なトニー・モンタナに較べると、断然スタイリッシュで一般ウケするものになっています。

パチーノ好みの女優ペネロープ・アン・ミラーとのラブロマンスもあり、男女問わず楽しめる内容ですね。

 

ただ、「カリートの道」と同じ男の美学を描いている・・・と気づかされた途端に、それをああいう形で表現した「スカーフェイス」の凄さを改めて再認識。

バランスが良い分印象の薄い「カリートの道」に比べて、一般ウケ度外視の濃厚な美意識の世界・・・今回観直して、一度目観た時にはなかった電気が走るような衝撃を受けました。

 

(チンピラ時代のトニーのファッション)

 

◆死にざまのダンディズム◆

 

トニーが大好きな言葉は”The world is yours.”

彼の、どこまでもでかい夢を追うアメリカン・ドリーマーな側面がマイノリティーの若者たちにウケたところ。

記憶に残りやすい強烈な名言集も人気の秘密でしょう。

 

しかし、前半の快進撃だけがこの物語の面白さじゃない。これはハッキリ言えます。

むしろ後半の彼の人生の暗転からクライマックスへの流れ・ラストシーンの連発打ち上げ花火のような華々しさで描き出される死にざまのダンディズムこそが、他の追随を許さない突き抜けたこの作品の美学の核心なのかなと。

 

全てを得たものの、一番大切な人々は全て失うトニー。

時を同じくして、刺客の群れが城のごとき彼の邸宅に忍び寄ってきます。

二階へと続く重厚な階段を備えた玄関広間は、トニーが人生のフィナーレを演じる大舞台

二階の踊り場正面にあるドアが、トニー登場の花道です。

ドアを蹴破った刺客たちの前に現れたのは、巨大なマシンガン(グレネードランチャー?)をぶっぱなしながら、

「Fuck you!  俺はトニー・モンタナだ! 俺を殺りたきゃ軍隊でも連れて来い!」

と大音声でわめき散らすトニー。

たった1人で何十人もの刺客を相手に、一歩も引かず戦い続ける彼の姿には、勇敢を通り越してアホ、アホを通り越してもはや神聖ささえ漂っています。

 

(死の舞台に上って来たトニー・モンタナ)

 

この場面のトニー、本当に一度も後ろを見せないし、後ずさりすることもないんです。

最期も、前からではなく後ろから撃たれて階段下の水槽に落ちるんですよね。

もう非常にシンボリックに、男の死にざまの美学を描き出している・・・それも、最後の瞬間まで「fuck!」まみれの悪態をつきながらの、実にトニー・モンタナらしい死を。

この、リアリティーをかなぐり捨てて演劇的なインパクトを追求したクライマックスは素晴らしい。

 

そして、ラストシーンの後、エンドロールとともにトニーのテーマが流れ始めた時、作中何度か流されるこの曲が実はトニーの聖らかなまでに壮絶な死を暗示していたことに気づかされます。

さながらトニーのレクイエムのようなこの曲を聴いていると、誰にも媚びず、頂点を極め、その虚しさを思い知るも最後までひるむことなく戦い通したトニーの生きざま・死にざまの清々しさが、大きなカタルシスになって押し寄せてくる・・・圧巻のエンディングです。

 

「スカーフェイス」トニーのテーマ(音楽はジョルジオ・モロダーが担当)

 

 

デ・パルマ独特の濃いめの演出には好き嫌いが分かれそうですが、本作の場合主人公のキャラ始め全てが濃厚なせいか、それもまた完璧な統一感の中ですんなり受け容れられる気がします。

とにかくコンセプトが素晴らしい!

まさに神ってる映画です。

 

この作品のアル・パチーノがビートたけしに見える瞬間があるのは、日本人だけのお楽しみ観賞ポイント。

 

(ちょっとたけし入ってる?・・・や、たけしがパチーノを意識してたのかも)

 

 


※1 wikipedia 「アル・カポネ」より。顔に傷があったことからつけられたニックネーム。本作のトニーにも顔に傷があります。

 

(画像はIMDbに掲載されていたものです。)