祇園の暗殺者 | 映画、その支配の虚しい栄光

映画、その支配の虚しい栄光

または、われわれはなぜ映画館にいるのか。

または、雨降りだからミステリーでも読もうかな、と。

または、人にはそれぞれ言い分があるのです…。

出世作であり自信作なのだが、それを監督、内出好吉が平凡な出来にした、と笠原和夫は怒っているのだが、どうしてどうして、シナリオの味を職人がしっかりと映画にしてる。

近衛十四郎と菅貫太郎らによるテロの話を縦軸に、三人の女が絡んでくる。その絡み方、人物の出し入れが絶妙で、やがて一つの糸にがっちりと寄り合わさってくるのが、さすが笠原和夫、凄い凄い。

当初は加藤泰が演出する予定だったそうで、その決して観ることの叶わない加藤泰版を夢想すると、ちょっと悔しい気もするのだが、内出好吉はなかなか頑張っている。
仕出しさんがいかにも型にはまった芝居をしていて鬱陶しいとか、もちょっとしつこく女を描いてもいいのではとか、ああ職人さんねと思わせるところも多々あるのだが、この職人ぶりが逆にさらりとした印象を与えていて、意外に良いのだ。

特に、いかにもな芝居、いかにもな構図、この場面ではこう撮るしかないじゃん的なラストショットが素晴らしい。職人の意地というのではなく、多分、流して撮ったにちがいないショットで、これは逆の意味で加藤泰には撮れないだろう軽さと粋さがあった。
他にも、近衛十四郎と佐藤慶の2ショットの目線のずらし方がいいとか、菅貫太郎、佐藤慶というキャスティングがいいとか、内出好吉、グッジョブ。

祇園の暗殺者
1962年(S37)/東映京都/白黒/84分
■監督:内出好吉/脚本:笠原和夫/撮影:杉田正二/美術:塚本隆治/音楽:木下忠司
■出演:近衛十四郎、北沢典子、木村俊恵、菅貫太郎、佐藤慶、原田甲子郎、片岡栄二郎、伏見扇太郎