喜劇 “夫” 売ります !! | 映画、その支配の虚しい栄光

映画、その支配の虚しい栄光

または、われわれはなぜ映画館にいるのか。

または、雨降りだからミステリーでも読もうかな、と。

または、人にはそれぞれ言い分があるのです…。

これは素晴らしい。1ショットを充実させようと、すべてのスタッフの知恵と技術が集まる、それを最大限に引き出す、画面に定着させる。そんな当たり前が、ごくさりげなく、しかし確実に行われている様に感動する。

あるいは、ひとつのショットの持つ力を最大限に引き出すために、瀬川昌治は苦心をこらす。
地方ロケによる見晴らしのいい風景、旧家の佇まい、夜の坂道、それら風景を、切り取る、その場面に最適の照明を施す、役者が動く、カットを割り、カメラを動かしあるいは固定画面を選択することで、その美しさは、リアルな風景としてではなく、映画として際立っていく。

森光子がフランキー堺と別れる坂道のシーンの素晴らしさ。フランキーの背後には街灯が灯り、森光子の背景では窓格子から光がこぼれている。この上なく美しい切り返し。
そして佐久間良子はただただ美しく可愛くエロティックだ。旧家の長い廊下で振り返る、細い手を伸ばす、障子ごしの淡い光の中に佇む。

描かれるのは、理不尽なまでに強く健気で美しい女たちの姿だ。
物語の整合性を逸脱した、理不尽なまでの美しさ。それを許容する物語、それを前提とした物語が素晴らしい、あるいは、それを説得する1ショットの力。

「喜劇 “夫” 売ります !!」
1968年(S43)/東映東京/カラー/92分
■監督:瀬川昌治/脚本:池上金男、瀬川昌治/原作:岸宏子、花登筐/撮影:山沢義一/音楽:木下忠司
■出演:フランキー堺、佐久間良子、森光子、川崎敬三、橘ますみ、芦屋小雁、多々良純