平成31年に入ってから、釣りを始めた。
アジ、ヒラメ、イナダ、スズキ、タチウオ、ヒラマサ、マゴチ…
様々な魚と戦ってきた。
今日は、釣りの魅力について語ってみようと思う。
そもそも、友達に誘われて、始めた釣りだが、なかなかしんどいことが多い。
まず朝が異常に早い。
3時に起きて、4時前に家を出ることなんか当たり前だ。
前の日、仕事だと帰ってくるのは22時〜24時くらいなので、速攻寝ないとキツい。
船の船長が怖い。
基本的に船釣りに行くことが多いのだが、船の船長は怖い。みんなが一様に怖いわけではないが、毎日海と命のやり取りをしているからだろうか。僕のような丘で生命を脅かされることなく、のうのうと生きている男を見ると虫酸がはしるのだろう。下手をすると怒鳴り散らされる!しかし、僕のようなものが海と向き合うには、船長のご指導が絶対に必要だ。いうことは聞いた方がいいだろう。
命のやり取りをしなければならない。
言うまでもなく、釣り上げたお魚さんは生きている。
釣り上げたからには、食べるのだが、食べる前には殺さなければいけない。
お魚さんの口から針を外す時、多少なりともやはり、
「こいつらも生きてんだなぁ。何考えてんだろうな今」
なんて思ってしまう。
それで、エラ切ってトドメを刺す。血が出る。
また、生き餌の場合、こいつも生き物なので、向き合わなければいけない。
イソメが代表的な生き餌だと思うのだが、これがなかなか、ぬるぬるウネウネ動いて気持ち悪いし、長いやつは適当な長さに指で切って、体に綺麗に針を通して行かなきゃいけない。
聞いているだけで嫌になって来た人もいるだろう。
僕も上記のことはどちらかと言えば苦痛に感じてしまう人間だ。しかし、これを差し引いてもあまりある魅力が釣りにはあるということなのだ。
まず、海と向き合っている時というのは、普段と時間の流れ方が違う。
日々仕事をしたり、それが終わって帰るとなったら、ラジオ聴きながら車運転したり、飯食いながらアニメ見たり、酒飲みながら映画見ようとして途中で寝たり、風呂入りながらラジオ聴いたり、歯を磨きながらラジオ聴いたり、寝ながらゲームしたりと、とにかくなにかと単位あたりの時間に、複数の行為をぶち込みたがる性格の僕だけど、令和の昨今は、僕みたいな人増えてるんじゃないんですか?
あなたもそうですよね?
しかし、海と命のやり取りしてる時はどうだろうか。
とにかく周りは一面海だし、船釣りの場合は船長さんの指示もあるので、イヤホンをしてラジオを聞くわけにもいかないし、そもそも外海だったら、電波も入らないかもしれない。
そこにあるのは、アタリがあるのか、アタリがないのか、その2つだけ。
それ以外の情報はない。そんな、ゆったりした時間が永遠に流れているのだ。
俗世の煩わしさから離れて、ただ海と向き合うことの素晴らしさたるや!
こうして僕は釣りを続けている。
すると自分の中のあるリビドーに気がついた。
これまでは、釣りの師である友達と一緒に行ってたのだが、友達と釣りに行くということは、常にその彼との関係性を保った上で、海とも向かい合うということ。
完全に1人ではない。
より、海とのタイマンを求めるのであれば、一人で釣りに行かなければいけないのかもしれない。
そう思って、平日に休みを取り、タチウオ船を予約して、朝4時に家を飛び出した。
自分の行動力にびっくりしたが、それも海の魅力が僕を吸い寄せただけのことだろう。
僕は千葉県に住んでいるので、千葉の船宿を予約した。今回はタチウオを釣るので、東京湾。つまり内房の船宿だ。
船宿によってシステムはちょっとづつ違う。
初めて行く船宿だったので、いまいちどう振る舞っていいかわからなかったが、周りの人や受付の人が優しく教えてくれた。
船着場に移動すると、もうすでに準備万端の人たちが、それぞれの釣りものに分かれて船の前で待っている。
中にはしゃべっている人もいる。
船長らしい人に、「一人でくるのは初めてで」というと、「じゃあ俺の近くの席がいいね」と、オススメの位置を指示してくれた。
釣りに来る人の中にはいろんな人がいる。
大抵はおじさんだ。多分一人で来ている。何度もくるうちに、一人で来ているおじさん同士が顔見知りになって、少し喋るようになる。
そんな感じの関係性なのかなというおじさんたちの中に、一人おばさんが混じっていた。紅一点という自覚があるのか、とにかくよくしゃべっていて、おじさん達を盛り立てようとしている。
そこに、若いイケてる感じの夫婦がやってきた。
おばちゃんが、その夫婦にも「久しぶりー」と声をかけた。どうやら知り合いのようだ。彼らもおばちゃんの方に近づいていく。どうもーみたいな感じで。
次の瞬間、おばちゃんはこんなことを言い始めた。
「いやーマリちゃん(仮)初めて会った時から比べると、だいぶ劣化したねぇー!」
どう見ても美しい方である。奥さんも、いきなりのストレートパンチに「え、そ、そうですかねぇ」とフラフラ答える。
「そうだよー。初めて会った時はもっと可愛かったよ。ホント、年って怖いよねー。」
楽しそうにおっしゃるおばちゃん。
こういう人ってどこにもいるんだなぁ…。他人の美をなにかと理由をつけておとしめて、マウントを取った気になる、まだ女でいたいおばちゃん。僕は、人間の最も汚い部分の1つだと思う。
一人で来ているからか、他の人の会話が必要以上に聞こえてしまう。
ああ、釣り始める前からなんだか嫌な気持ちになってしまった。俺はこういう、俗世の嫌なところから離れて、海と向かい合うために、一人で釣りに来たのに。
気持ちを切り替えよう。釣りだ。
乗船して釣りの準備を終えた頃、船が出港した。海との時間だ!
ポイントに到着すると、船長がタナを教えてくれる。魚がいる深さだ。そこに向かって、仕掛けを投入する。
hit!
太刀魚特有の「ガツッ!ガツッ!」と来てから、「グイーン」と引きずりこまれるような感覚!
上げると、キラキラ光る太刀魚をゲットした。
太刀魚はその名の通り、刀みたいに細長く、刀みたいに光ってる、なんだか気持ち悪い魚だ。塩焼きとか、煮付けが美味しい。シャブシャブとか刺身でもいける。天ぷらもいい。
太刀魚は、海の中では縦向きで泳いでいるらしい。顔を上に向けて縦向き。僕はいつも、太刀魚が群れで縦になってフワフワしているところを想像して、こいつら、何考えて生きてるんだろうな…?と思う。全く、不思議な生き物だ。
実は前にも友達と太刀魚を釣りに行ったことがあるのだが、その時は2匹しか釣れなかった。でも今日は速攻で当たり。
船長は、無線でずっと同僚とくっちゃべっている。
「俺の近くがいいね」
と言っておきながら、特に何か言うつもりは無いようだ。まぁ釣れたしいいんだけど。
その後も、いっぱい釣れる。
釣れては針を外し、細長い太刀魚を折り曲げてクーラーボックスに押し込む。
釣れない時は、ずっと海を見ながらただ竿をしゃくる。(太刀魚釣りは、餌に動きを付けて、太刀魚を誘うのだ。)
そんなことを、6時間強、続けるわけである。
最終的には28匹釣れた。大漁だ。(あとで船宿のHPで釣果を見たら、釣果の平均が1人当たりちょうど28匹だった。みんないっぱい釣れたのね。)
(ひしめく太刀魚。写真で見ると綺麗なもんだが、生で見るとなかなか不気味だ。)
帰港する前に、船長がみんなの釣果を聞く。左隣のおじさんも、右隣のお兄さんも、俺よりいっぱい釣れてた。
船が港に向かって動き始めた時、右のお兄さんがこっちに寄ってきて、
「何匹釣れました?」
と聞いてきた。
「28匹です。」
と答えると、お兄さんは「なるほど」
とか言いながら満足げな顔をして、また元の位置に戻っていった。なんだそれ。ムカつくな!
船から降りて、すぐに家に帰った。
友達もいないので、特に寄り道するところも無い。
家に帰って、自分の体と道具を洗った。そしてお次は太刀魚の処理。
釣った魚は、すぐに捌かなければいけない。すぐに内臓を取ってあげないと、臭みが残ってしまうらしいのだ。
まだ慣れていないもので、異様に時間がかかる。この時、もちろん太刀魚は死んでいるわけだが、連続で腹をかっ捌いたり、骨から身を剥いだり、身から皮を取ったりしていると、なんだか変な気分になってくる。
一匹、変な形に体が曲がってしまっていて、それを伸ばしながら捌こうとするたびに、尻尾がクルンとクネって、俺の腕に巻きついてくる奴がいた。
クルン、ペチン。クルン、ペチン。クルン、ペチン。クルン、ペチン…
太刀魚が捌かれながら俺を見ている。気が狂いそうだ。
全ての太刀魚を処理し終わった時、捌き始めてから5時間が経っていた。
心優しい妻が、捌いた後の料理をやってくれて、一緒にそれを食べた。
釣りが6時間、捌くのが5時間。生命と向き合いすぎて、放心状態のまま食べる太刀魚。
なんか…うまい…
無表情で、モグモグと口を動かしていると、妻が言った。
「そんなになっちゃうなら、釣り…やめたら?」
特に言い返すことも無く、ゆっくり塩焼きを食べた。
今度は友達と行こ。