神の力(奥様は女神?シリーズ) | 大池田劇場(小説のブログです)

神の力(奥様は女神?シリーズ)

                  神の力
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「あたし、実は女神様の免許をもっているのよ。」
部屋でプラモデルを作っていたら妻が急に変なことを言い始

めた。
「あんた、結婚する前はハンバーガー売ってたじゃないの。」
 なぜ女神様と繋がるのかさっぱり判らない。
 「確かに結婚前はハンバーガー屋でバイトしてたけど、それ

は世を忍ぶ仮の姿なの・・。」
 そうなのですか?
 何か悪いものでも食ったのではないだろうか。
「女神学校で私の成績はあまり良くなかったのよ。それで先

生に呼び出されて・・。」
注意を受けたそうである。
 ゼミの先生みたいだな。
「このままじゃとても単位をあげられないから・・。」
随分、説得されたそうだ。
「女神アフロディテ様が哀れな男に愛を与えるようにと・・。」
 天界から下されたらしい。
それが私だったのか?ひどく失礼な話しだな。
どう考えても信用できない。いや信用せよと言う方に無理が

あるだろう。
「いいわ、証拠を見せてあげる。」
妻はマッチ箱を取り出してテーブルの上に並べた。
「このマッチを手を使わずに動かしてみせます。」
 そう言って妻はおかしな呪文を唱え始めた。
 何かの精神疾患でも発病したのだろうか。
 もちろんマッチは一センチも動くはずはなかった。
 あまりに馬鹿馬鹿しいので、放っておいて制作中のプラモ

デルを作り始める。
 それから約2時間後・・・。
「ほら、あなた!マッチの棒が動いたでしょう。」
 急に妻が大声を上げたので、びっくりしてテーブルの方へ

行ってみる。
 数センチ動いたと言うが、元の位置を覚えていないので判

らなかった。
 「お前の息で動いたのじゃないのか。」
私が信用しないので妻は少しむくれていた。
 「もし女神様だとして、なぜこの家に来たんだ?」
なにも人間と結婚する必然性はあるまい。
 「それは・・・、魔法の修行にもなるからって・・。」
 それって単に学校を追い出されただけじゃないのか?
それでずっと普通の人間生活を送ってきたのか。
「でも、このままじゃいけないと思って・・、だって私のやって

いることって、あなたの食事と洗濯、後はたまに夜のお相手

をするだけでしょう?」
 急に自己啓発の精神が芽生えたのだな。
 「女神は女神として生きるべきなのよ。普通の人間のよう

に過ごしてはいけない。これからは私は人間界に降臨した

女神として活動していくから覚えておいて・・。」
 具体的に何をするのか判らないが、あまり逆らうと食事を

作ってくれそうにないから、「ハイハイ。」と答えておいてプラ

モデル作りを再開した。
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それからしばらくは何もなく過ごした。
 妻は暇があるとマッチの棒を並べて遊んでいる。
 ちょっとおかしなところはあるが、日常生活にそう支障はな

いようである。
 このまま女神ごっこは終わるのかと思ったのだが・・・。
ある日家に帰ると妻は台所でゴキブリとにらめっこしてい

た。
 真剣な眼差しでゴキブリを睨み付け、何かの呪文を唱え

ている。
 「おまえ、何して居るんだ。」
話しかけてもこちらを見ようともしない。
 「ちょと待ってて、今このゴキブリをネズミに変えるところ

なんだから。」
 そんなことしたら余計厄介になるだろうが・・・。
 私はハエ叩きでゴキブリを潰した。
 「何てことするの。昼からずっとやっていたのに。」
 もう5時じゃないか。ずっと遊んでいたのか。
それから何日もずっと妻は何かを変身させる魔法を練習

しているようだったが、もちろん成功するはずもない。
 あまり度が過ぎてきたら病院へ連れて行こうと思っていた

のだが、人様に迷惑をかける風でもないのでそのまま放置

していた。
 そして遂に事件は起こった。
 その日私達は近くのスーパーまで買い物に行っていた。
 実は私は買い物は好きではないのだが、荷物持ちとして

家にいると必ず動員されることになる。
 嫌々2時間も付き合わされた帰り道、公園の近くの道路

で三歳くらいの子がヨチヨチと横断しようとしているのを見

た。
 「危ないな、親は居ないのかな?」
そう思っていると向こうからトラックが来ているのが見えた。
 結構なスピードが出ている。
 幼児に気付かないのかと運転席を見たら、ドライバーは

携帯電話をかけているようで、前を向いていない様子であ

る。
 完全な脇見運転である。止まる気配などない。
 「危ない!このままでは轢かれる。」
 そうは思ったが咄嗟のことで足がすくんで動けるものでは

なかった。
「えいっ、神の疾走!」
 急に妻がおかしな呪文を唱えた。
すごいスピードで道路を横断し、小さな子供を拾い上げる。
 「どう?私の魔法もなかなかのものでしょう。」
間一髪で幼児を拾い上げ、道路向こうの歩道へと滑り込

んだ。
 「なんて無茶なことをするんだ!」
 私は駆け寄って彼女を抱き上げた。
 「約束してくれ、もう二度とこんな真似をしないと。」
妻はキョトンとした顔をしていた。
 「大丈夫、私は女神だから・・。たとえ死んでもちゃんと転

生するのよ。」
まだそんなことを言っているのか。
 「どっちにしても私とはお別れじゃないか。私を一人にしな

いでくれ・・・。」
彼女の肩を抱いて強く揺さぶった。
 私の剣幕に驚いたのか彼女は小さな声でつぶやいた。
 「解ったわ、もう二度と女神の力は使わない。うふっ、あな

たやっぱり私のことを愛していたのね。」
なんか嬉しそうである。
 「当たり前だろう、何を馬鹿なことを言っている。」
 幼児のお母さんが泣き声を聞いて公園から駆けてくるの

が見えた。
 ベンチで眠ってしまったのだろう。
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 公園の事件から数ヶ月がたった。
 近頃は妻も魔法を使わなくなったようだ。
 最近私はお腹が出てきたため、ジョギングを始めることと

した。
 妻は痩身体で必要はないのだが、私のダイエットに付き

合って一緒に走ってくれることになった。
 二人でやった方が長続きしそうだからである。
 一緒に走り始めて驚いた。
 「すごく早い、追いつけない。」
 思った以上に彼女はスイスイと軽快に走っていく。
 「これはもしかして・・。」
 私は妻を呼び止めた。
 「いいか、あの向こうの電柱まで競争だ。全力疾走だぞ。」
妻の走りは人間離れした速さだった。
 私を置いてすごい勢いで駆け抜けていく・・・。
 「おまえ、100メートルを何秒で走れる?」
 「8.2秒くらいかな(*注1)。学生の時はわざと手を抜い

ていたいのよ。あまり目立ってはいけないと愛の女神に言

われていたから・・。」
 オリンピック選手か?おまえは・・。
 魔法の正体がやっとわかった。単なる運動神経だったの

だ。
妻が本当に女神なのか未だに判らない。
 しかしなぜか、不思議に年を取らない人ではある・・・。

(*注1・男子の世界記録を1秒以上、上回ります。)


良いこのみなさまへ.
奥さんは本当に女神なのでしょうか?

次回に続きますね(。・ω・)ノ゙。


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(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法

をとっておらず、いくつかのシリーズを並行して書い

ていますので、目次をご覧になった方がわかりやす

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増刊号の「山池田」です。

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(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている

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