日本への警告 ~ドイツの場合~ | 私にとって人間的なもので無縁なものはない

日本への警告 ~ドイツの場合~



武力行使 政府の裁量
 首相「総合的に判断」強調

(東京新聞)2015年5月27日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015052702000113.html
武力行使 政府の裁量

 他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法案は、二十六日の衆院本会議で審議入りした。安倍晋三首相は集団的自衛権の行使が可能となる「存立危機事態」の認定について「政府が総合的に判断する」と、厳格な判断基準を示さなかった。集団的自衛権行使は政府の裁量に任されることが鮮明になった。首相は、焦点の一つとなる他国の領域で武力行使する海外派兵は憲法上許されないとして、法案に禁止を「重ねて規定する必要はない」と表明。一方、戦時の機雷掃海は例外とし、他国領域での武力行使に余地を残した。
 首相は、どういう状況が存立危機事態に該当するかについて「個別具体的な状況に即し、政府がすべての情報を総合して客観的、合理的に判断する。一概に述べることは困難」と説明。その上で、国際紛争でエネルギー輸入が途絶えた場合などに「国民の生死に関わるような深刻、重大な影響が生じるか否かを総合的に評価する」と述べた。首相の答弁は、過去の記者会見や国会での抽象的な説明を繰り返すにとどまった
 首相は、武力行使を目的に自衛隊を他国領域に派遣する海外派兵について「一般に自衛のための必要最小限度を超える」との憲法解釈を説明。「集団的自衛権を行使する場合も変わらない」と述べた。戦時の機雷掃海は「民間船舶の安全な航行を確保することが目的で、あくまでも受動的、限定的な行使だ。外国領域でも新三要件を満たすことはあり得る」と述べた。
 海洋進出を強める中国を名指しし、日本の安全保障環境が厳しさを増しているとも強調。法案が成立すれば日米同盟の強化で抑止力が高まり、日本が攻撃を受ける可能性が低下すると主張した。「政治家は平和を願うだけではなく、果敢に行動していかなければならない」とも強調。法案の今国会成立を目指す考えを重ねて表明した。
 本会議では自民、公明、民主、維新、共産の五党が質問に立った。法案は二十七日の衆院平和安全法制特別委員会で実質審議に入る。
 <武力行使の新3要件> 安倍政権が昨年7月、集団的自衛権行使を認めるために閣議決定した要件。(1)日本に対する武力攻撃、または日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命や自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある(存立危機事態)(2)日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない(3)必要最小限度の実力行使にとどまる-場合に武力行使できるとした。

武力行使 政府の裁量_図版


これでわかる戦争法案
日本の若者の血を流す
いつでもどこでも米のどんな戦争にも参加

(しんぶん赤旗)2015年5月20日
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-20/2015052002_01_0.html
 安倍内閣は5月15日、「戦争法案」を国会に提出しました。安倍晋三首相は「平和安全法制」といいますが、名実ともに「戦争法案」そのものです。その全容をみます。

これでわかる戦争法案_1

海外で戦争する国」へ

 「平和安全法制」? 何だか、よく分からない法案名ですね。

 安倍晋三首相は「国民の命と平和な暮らしを守る」ためのものだと言いますが、とんでもないことです。

 法案はすべて、自衛隊の役割を拡大して、海外派兵や米軍の支援に当てるためのものです。地理的な制限もありません。地球上どこでも派兵して、米軍のあらゆる戦争に参加します。戦地で活動して自衛隊が攻撃される危険があります。武器を使用して殺傷行為を行う危険も高く、日本が「殺し、殺される」道に入る危険が飛躍的に高まります。

 いわば、この法案は日本の若い自衛隊員の血を、アメリカにささげるためのものです


 「二度と海外で戦争しない」と誓った憲法の平和原則を根本から破壊し、日本を米国とともに「海外で戦争する国」につくり変えるものです。「平和安全法制」どころか「戦争法案」そのものです。こんなものが、憲法9条の下で許されていいはずがありません。

実質11法案を一国会で

 政府が国会に提出した法案は、形の上では2本です。(表)

 一つは、「国際平和支援法」です。これも何か、よく分からない名前ですが、本質は「海外派兵恒久法」です。これまで海外派兵のたびに特別措置法をつくっていたのをやめて、政府の判断で、いつでもどこでも、米軍や米軍主導の多国籍軍を支援するため、自衛隊を海外派兵するための法案です。

 もう一つが、過去の海外派兵法や米軍支援法10本を全部「一括」で書き換える「一括法」(平和安全法制整備法)です。

 改定されるそれぞれの法律は、過去長い時間をかけて国会で議論してきたものです。例えば、PKO(国連平和維持活動)法だけでも、4国会、衆院で約160時間も審議しました。それなのに、安倍政権は11もの法制を、1国会・わずか80時間程度で通してしまい、8月上旬までに成立させようと狙っています

 なぜ、こんなに急ぐのでしょうか。それは、安倍首相が4月29日に米議会で演説して、「夏までに実現する」と公約したからです。国のあり方を根本から変える「戦争法案」を、対米公約のために拙速に強行することは絶対に許されません

これでわかる戦争法案_1図版

新ガイドラインと一体

 この「戦争法案」の準備は、日米両政府が4月27日に決めた新たな日米軍事協力の指針(ガイドライン)と一体で進められてきました。

 「ガイドライン」とは、物事を行う基準や指針といった意味です。医療や放送、個人情報保護など、さまざまな分野で「ガイドライン」が存在します。ここで言うガイドラインは、日本と米国の、いわば共同の戦争マニュアルです。

 新ガイドラインには、日米が共同して軍事作戦を行ったり、自衛隊が米軍を支援するさまざまな事態があげられています。集団的自衛権の行使を前提にしているなど、従来の法律や憲法解釈では対応できません。そのため、どうしても「戦争法案」が必要なのです

 そして、このガイドラインには、一つ重大な内容が含まれています。それは、「同盟調整メカニズム」という仕組みで、自衛隊が事実上、米軍の指揮下に入る、ということです。そして、何か戦争が起こる前から、「共同計画」、つまり戦争計画を立案しておく、ということです。これらにより、日本は、米軍が戦争を始めて軍事的な支援を要求されても、断ることができなくなってしまいます

9条改憲の突破口

 「戦争法案」は、憲法9条の中身を全面的に壊すものです。

 9条は、1項で戦争を放棄したのに加え、2項で戦力不保持と交戦権の否認を定めています。世界でもまれな徹底した「不戦の誓い」を示したのです。

 そのため、自衛隊の保有と侵略への武力反撃(個別的自衛権)を認めた歴代自民党政府も、集団的自衛権の行使は認めないなど、海外での武力行使を禁止し、世界の軍隊にはない特別のルール(憲法解釈)を維持してきたのです


 「戦争法案」は、憲法9条の条項はそのままにして、そのルールを全面的に破棄します。

 安倍首相は、明文改憲に対する国民の反対が大きいため、まず憲法解釈を変更して法律で憲法を破壊し、その後に明文改憲に踏み込む戦略に出ているのです。今国会で戦争法案を強行し、来年の参院選後に改憲発議に進むシナリオ―。「戦争法案」は、9条改憲の突破口です。( ̄^ ̄)凸

 こんなやり方は、憲法改定手続きと国民主権を無視するもので、憲法と立憲主義を文字どおり踏みにじるやり方です。

「霞が関文学だ」

 「戦争法案」は、「平和」「安全」「国際協力」などと言った言葉がちりばめられています。それは、法案提出者に、自衛隊を戦地に送り込むことへの後ろめたさがあり、本質を覆い隠したいからです。ある与党関係者は、このような法案の名づけ方を「霞が関文学だ」と自嘲気味に語っていました。「霞が関」とは、中央官庁が立地している地名です。

 そういえば、未来の独裁国家を描いたジョージ・オーウェルの小説『1984年』では、戦争遂行の国家機関を「平和省」と呼んでいました。憲法9条が改悪されたら、自衛隊は「平和隊」になるかもしれません。

これでわかる戦争法案_2

三つの重大問題

(1)イラクでも「戦闘地域」に派兵

「必ず戦死者が出る」

 イラクであれアフガニスタンであれ、米軍が世界中で引き起こした戦争に自衛隊がどこでも出かけ、これまでは行けなかった「戦闘地域」まで行って「後方支援」をできるようにしています

 政府の定義によれば、「戦闘地域」とは、“現段階では弾は飛び交っていないけれど、いつ戦闘になるかわからない地域”ということです。

 従来の「非戦闘地域」だからと言って、安全というわけではありません。イラク南部サマワの陸上自衛隊宿営地は23発の攻撃を受け、米兵空輸を行っていた空自のC130輸送機の上空を、4発の迫撃砲が飛び越えていきました。当時の陸自幹部は、イラク派兵部隊が棺(ひつぎ)を10個近く準備していたことを明らかにしています

 それが、「非戦闘地域」の枠を外し、さらに危険な場所に足を踏み入れたら、どうなるか。首相官邸でイラク派兵を仕切っていた柳沢協二・元内閣官房副長官補は「必ず戦死者が出る」と警告しています。(「朝日」3月21日付)

 安倍政権は、そこが、実際に銃弾が飛び交うような「戦闘現場」になれば、自衛隊の指揮官の判断で休止・避難することができるとしています。しかし、たとえば米軍のために武器や弾薬を運んでいる最中、「戦闘が始まったのでこれでやめます」などということが本当にできるのでしょうか

 首相は「イラクやアフガニスタンのような戦争に、武力行使をもって戦闘に参加しない」と繰り返しています。しかし、首相自身、国会答弁で、自衛隊が攻撃対象になり、結果として武器を使用することで「そこが戦闘行為の現場になる」と述べ、戦闘参加の可能性を認めました。(昨年7月14日、衆院予算委員会)

「後方支援」と言うが国際法上も攻撃対象

 「後方支援」というと、戦場の後ろの方で物資の補給や輸送を行うため、少しは安全、というイメージがあるかもしれません。しかし、「後方支援」は日本独特の造語で、国際的には「兵たん」(ロジスティクス)と呼ばれ、武力行使の一部とされています。ジュネーブ条約の第1議定書第52条では、「兵たん」も軍事攻撃の目標になることを定めています

これでわかる戦争法案_2図版

(2)危険な「治安維持」に道

民間人殺傷する恐れ

 PKO(国連平和維持活動)法改定で、形式的には「停戦合意」がなされていても、戦乱が続く地域に自衛隊を派遣して、武器を使った治安維持活動を可能にしようとしています。これによって、アフガニスタンで3500人もの死者を出したISAF(国際治安支援部隊)のような活動に道を開くことになります。

 PKO法改定では、大きく分けて三つのポイントがあります。

 (1)任務遂行のための武器使用 これまでの自衛隊の海外派兵法では、武器の使用はすべて、「自己防護」=つまり自分と自分の周辺にいる隊員などを守ることに限っていました。法案はこれに、任務遂行=敵対勢力の「妨害排除」などのための武器使用を追加しました。

 (2)治安維持任務(安全確保支援活動)の追加 従来、自衛隊のPKOは道路や建物をつくるなど、建設会社のようなことに力を入れていました。法案はこれに、巡回や警備といった活動を追加しました。銃を使って妨害勢力を威嚇することもあり、場合によっては攻撃を受けて応戦する可能性があります。

 (3)「非国連統括」型活動(国際連携平和安全活動)への参加 これも、わけの分からない名前の活動ですが、これは、国連安保理決議に基づいているものの、国連が主導していない活動です。その一つがISAFです。

 ISAFは2001年12月、国連安保理決議1386により設立されましたが、NATO(北大西洋条約機構)軍が指揮を執っていました。米軍主導の「対テロ」戦争と混じり合い、3500人もの死者を出し、多数の民間人を殺傷しました。

 日本と同様、「後方支援」の名目でISAFに参加したドイツ軍は、自殺者も含めて55人が死亡しています。日本が「治安維持活動」や「任務遂行」のための武器使用を認めれば、自衛隊が同じ運命をたどることも否定できません。

これでわかる戦争法案_3

(3)集団的自衛権で武力行使

先制攻撃の戦争にも

 日本がどの国からも攻撃を受けていないのに、集団的自衛権を行使して自衛隊が世界中で、米軍の戦争に参加する危険があります。

 集団的自衛権とは、自国が攻撃されたわけでもないのに、他国が起こす戦争に武力行使をもって参加することです。「自衛」という言葉がありますが、実際に集団的自衛権が行使された事例のほとんどは、米国によるベトナム侵略戦争など、大国が中小国家への侵略・干渉戦争を行う際の口実として使われてきました

 これまでの政府は、集団的自衛権の行使は「憲法上、許されない」と言ってきました。ところが、昨年7月の「閣議決定」で、武力行使の「新3要件」(別項)を定め、他国に対する武力攻撃でも、「日本の存立が脅かされた」と政府が判断すれば集団的自衛権を発動できるようにしました

 安倍政権や自民・公明両党は、集団的自衛権の行使を「限定的に容認した」といいます。しかし、どんな事態が「存立」の危機に該当するのかを決めるのは、時の政府の判断です。安倍首相は国会での答弁で、米軍が一方的に他国を攻撃する先制攻撃戦争も“存立が脅かされた事態だ”として、武力行使が「ありうる」と答えています。

 米国は政権が代わっても、一貫して先制攻撃の選択肢を維持しています。米国が無法な侵略戦争を引き起こし、これを「存立危機」だと認定して日本が引きずり込まれる危険があります

武力行使新3要件

 (1)我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合

 (2)これを排除するために、他に適当な手段がないとき

 (3)必要最小限度の実力行使をする

自衛隊が外国軍のボディーガードに

武器防護規定を拡大転用


 「戦争法案」には、これ以外にも重大な問題がたくさんあります。

 例えば、自衛隊が自分たちの武器、弾薬などを防護するために武器を使用できるとの規定(自衛隊法95条)を拡大して、米軍やその他軍隊を「防護」するために自衛隊が武器を使用できるとしている点です。自衛隊が、平時から米軍やオーストラリア軍など、外国軍隊のボディーガード役を担うことになります。その実質は、集団的自衛権の行使と同じです。

 防護の対象には、「日本の防衛に資する活動に従事する」外国軍という「制限」がありますが、「(日本防衛のための)情報収集活動又は警戒監視活動」や「共同訓練」まで含みます。非常に広い範囲での「防護」活動となります。

 「武器の使用」は「武力の行使」と区別され、閣議決定や国会の承認などの、政治的意思決定なしに現場指揮官の命令でおこなわれます。政府も知らないうちに、“現場判断”でいつのまにか戦争が始まる重大な危険をはらんでいます



トンキン湾事件 - Wikipedia

米国武力行使に対する国連非難決議
グレナダ侵攻 - Wikipedia

リビア爆撃 (1986年) - Wikipedia

パナマ侵攻 - Wikipedia


民主党小沢さん、これがアフガニスタンでのISAFの現実ですよ。

https://youtu.be/diJvgOzNBnc



戦争法案 安倍政権でたらめ議論
(しんぶん赤旗)2015年5月25日
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-25/2015052502_01_1.html
 米国のあらゆる戦争に自衛隊を参戦させる「戦争法案」は26日、衆院で審議入りします。その危険な本質を覆い隠そうと、安倍政権からは、でたらめな議論が目立っています。
戦争法案 安倍政権でたらめ議論_1
戦争法案 安倍政権でたらめ議論_2




2015 とくほう・特報
戦争法 ドイツの場合
アフガンで“平和的任務” 死者55人 PTSD今も…

(しんぶん赤旗)2015年5月24日
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-24/2015052403_01_0.html
 ドイツは1990年代、侵略戦争を禁止する基本法(憲法)の解釈を変更して、海外派兵を開始し、2001年に米国が始めたアフガニスタン戦争にも地上軍の兵士を派遣しました。しかしその中から、多くの死傷者、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者を出し、社会全体に大きな傷を残しています。安倍政権が憲法9条の解釈変更をし、アメリカの戦争にいつでもどこでも参加できる戦争法案を成立させることを狙っている日本への警告ともいうべき実態を現地に見ました。
(ベルリン=片岡正明 写真も)

戦争法 ドイツの場合

憲法の解釈変更 海外派兵

 ブーンブーンと、大型バイクの音がベルリン市内に響きました。アフガニスタン戦争に参加した兵士・退役軍人がバイクでデモ行進する「メモリアルラン」が16日に行われました。アフガン戦争の経験者が社会で直面する問題への理解を訴え、兵士・退役軍人の待遇改善を求めて11年に始まったものです。

 デモ参加者は最初に、戦後ドイツ軍が発足して以来の戦没者の碑に献花。代表者は「亡くなった兵士は親でもあり、兄弟でもあり、そしてわれわれの兵士仲間でもあった。そしてPTSDで苦しんでいる仲間もいる」と語りました。

 ドイツでは、第2次世界大戦後に制定した基本法で、軍の出動は「防衛」などに限られると規定。独軍の活動は北大西洋条約機構(NATO)同盟国の防衛に限られ、NATO域外では活動できないと解釈されてきました

 ところが、1991年の湾岸戦争にドイツが派兵しないことに、米国から強い批判が噴出。当時のコール政権は、域外派兵のための「必要な国内的前提条件をつくる」ことを国際公約にし、基本法の解釈を変更。独軍はNATO域外でも活動可能としたのです。

 以後、毎年のように海外派兵を増やし、現在は十数カ国に派兵。特にアフガニスタンでは、2002年から14年末まで国際治安支援部隊(ISAF)に毎年4000~5000人を派兵しました。世論調査で3分の2の人が反対するにもかかわらず、政府は強行し続けました。現在も850人がアフガン兵士の訓練を任務として残留しています。

 しかしアフガン派兵で独軍兵士55人が死亡し、わかっているだけでPTSDの患者が431人となるなどの深刻な結果をもたらしています


■軍は変わった

 連邦議会(下院)国防委員会に所属する左翼党のクリスティネ・ブッフホルツ議員は、「NATOが初めて集団的自衛権を発動したアフガン戦争への派兵は、独軍を本格的に殺し殺される軍に変えました」といいます。

 09年9月にはアフガン北部クンドゥズ州で、独軍大佐が指示した空爆により、民間人91人が巻き添えになり死亡する事件も起きました。ブッフホルツ氏は、これがドイツにとって「1945年後初めての戦争犯罪になる」と指摘します。

 「政府はISAFが治安維持や後方支援などの“平和的任務”だといっていましたが、実はISAFは米英の不朽の自由作戦と密接に関係していた。占領軍とみなされて攻撃され、軍事紛争の深みにはまっていったのです

■“戻れば治る”

 PTSDの影響は深刻です。不発弾や地雷処理の専門家としてアフガニスタンに3回派遣された経験を持つロベルト・ゼトラチェクミュラーさん(37)は語ります。

 「最初の2002年のときに、不発弾処理で事故に遭いました。友人も含め5人が亡くなり、多くの兵士が負傷。それ以来、花火の破裂音を聞いても当時の爆発をありありと思い出してしまう」

 不眠やフラッシュバックの症状からPTSDと診断されたゼトラチェクミュラーさんですが、03年と05年にもアフガン行きを命じられます。

 当時はそれが普通で、「現地部隊に戻れば治る」といわれたといいます。しかし病状は悪化し、帰国後、家族とのトラブルや自殺願望、身体の異常が拡大。「医師にこのままでは死んでしまうといわれた」ことと「娘を傷つけてはいけない」という思いから、09年に「初めて本格的な援助を軍に求めた」と語りました。

■相談に来ない

 ベルリンの軍病院で医師として働くゲルト・ウィルムント大佐はいいます。

 「PTSDは不眠や集中力の低下が続き、自分の感情がコントロールできなくなって暴力をふるったり、うつ病を併発すれば自殺にもつながる病気ですが、当時は治療のやり方がわからなかったのです。03年に多くの死傷者を出した自爆テロ事件を受けて、PTSDの治療の研究が始まりました」

 PTSDにかかり、独軍病院などで治療を受けている患者は14年末で431人。しかしドレスデン工科大学の調査では、派遣後12カ月たった兵士の2・9%がPTSDにかかっているとの数字もあり、軍が把握できていない患者は多いといわれます。

 ウィルムント氏は「キャリアに傷がつくと思って、相談にこない兵士が多いのは事実です。PTSDにかかっても、軍に何らかの助けを求めるのは50%。さらに精神科医に助けを求めるのはそのうちの10~20%にすぎません」と認めます。

 独政府が退役兵士の実態をつかんでいないのは、独軍が11年7月まで徴兵制だったという事情があるといいます。青年の半分が徴兵を経験しており、誰が兵士だったかという膨大な記録が十分に把握されていないといいます。

 「メモリアルラン」を企画する退役軍人の会などは、助けを求める人を掘り起こし、医療・生活の援助につなぐ活動をしています。

 前述のゼトラチェクミュラーさんもその1人。「PTSDの退役軍人の中には病気のため離婚したり、暴力事件を起こして刑務所に入ったり、ホームレスになったりする人もいる」と深刻さを語りました。

 同氏は現在、軍でアフガンから帰った兵士の相談員の仕事をしながら、中高校の要請にも応じて自分の体験を話しています。

 「兵士を派遣したのは政治です。国民が票を入れてつくった政府と議会がわれわれをアフガンに送り、私はPTSDになった。将来の有権者である生徒たちにこのことを知ってもらうことは大事です


自衛隊が海外で治安維持活動:ドイツの例「トラウマと誤爆」

https://youtu.be/QMEksRSDf_8
元ドイツ軍兵士 ヨハネス・クレア氏
「住民の誰が味方で誰が敵かわからなかった。それが問題だった。
その現実は派遣される前はわからなかった」

パトロール中、突然の攻撃

一般的にドイツ軍が派遣されるのは、アメリカ・イギリス軍と比べ治安の安定している地域

ドイツ軍・アフガニスタンへの派遣で35人死亡

(ドイツ国際政治安全保障研究会)マルクス・カイム博士「ここはより安全な地域、ここはより安全でない地域、そういうものはない。兵士を完全に安全な地域に派遣できると思うのは幻想だ