小出裕章先生:あまりに遅いとは言え、やっぱりやるべきだと思います | 私にとって人間的なもので無縁なものはない

小出裕章先生:あまりに遅いとは言え、やっぱりやるべきだと思います



安倍政権・橋下維新による“カジノ計画”に迫る
(ラジオフォーラム#90)

http://youtu.be/Jjz0Q_BEvkI?t=16m9s
16分9秒~第90回小出裕章ジャーナル
3つの東電発表から垣間見える事故の実相について「漏れたストロンチウム90が本当に1兆4600億ベクレルだとすればそれは4100万人分の年摂取限度に相当します」

http://www.rafjp.org/koidejournal/no90/
西谷文和:
東電の公表によりますと、8月29日に3号機の使用済燃料プールでがれき除去作業中に機器が落下したと。重さ400キロの「操作卓」と呼ばれる機器だけではなくて、操作卓を据え付ける170キロの架台も絡まって落下したと。接触した可能性のある燃料集合体は2体ではなくて10体もあるという、こういう大変恐ろしい発表があったのですが、小出さん、これ燃料集合体にこういう物が当たるということは、これかなり危険なんじゃないですか?

福島第一3号機使用済燃料プール内瓦礫撤去作業中
福島第一3号機使用済燃料プール内瓦礫撤去作業中における燃料交換機操作卓の落下について【9/1動画追加】(東京電力)
http://photo.tepco.co.jp/date/2014/201408-j/140829-01j.html

小出さん:
燃料集合体は一応、ラックという集合体1体1体を収納できるような格子状の金属製の置き場という物の中に収まっているのです。頭も、その金属製のさやの中に格子の中に収まっている状態で、基本的には保護されているはずだと思いますが、
燃料集合体が収まっている状態の使用済燃料貯ラック
ただし今、西谷さんがおっしゃってくださったように、400キロの操作卓と170キロの架台も一緒に落ちてしまっているわけで、水中ですので何がしか衝撃のクッションはありますけども、それでもラック自体が破損をした可能性は私は十分あると思いますし、そうなると、燃料集合体がまた損傷をしているということはあるだろうと思います
使用済燃料プール概要図
そうなると、もちろん放射性物質がまた使用済燃料プールの水の中に漏れてくる、あるいは、気体状のものは外部に出てしまうということが起きたんだろうと思います

西谷:
ブクブクと泡になって出た可能性もあるということですか。それと、同じく東電が2号機の圧力抑制室の下部外面調査を発表したと。ロボットが繰り返し落下したため調査範囲が限られたと。これ、ロボットの画像で放射線量が高いと思われる画像の乱れが確認されたということを発表してるんですが。まず、ロボットが繰り返し落下したって、これ遠隔操作ですから落下しますよね?

2号機 (圧力抑制室)下部外面 調査の結果について

小出さん:
そうです。先程の3号機の使用済燃料プールで、瓦礫を落としたという作業も全ては遠隔操作なのです。でも、現場に行くことができませんので、遠い所から無線操縦しながら作業をしているわけです。

大変難しい作業を燃料プールでもやってるし、この圧力抑制室なんていう所は、全く人が行くこともできないほどの猛烈な被ばく環境ですので、遠隔操作をするしかないし、ロボットという物も基本的には放射線に弱い機械ですので、なかなか上手くいかないし、これからも難航するだろうと思います。


西谷:
同じく東電が9月8日に発表したのですが、今年5月までの10か月間にストロンチウム90、それからセシウム137が2兆ベクレルも港湾に漏れていたということなんですが、これは東電自身の放出管理目標の10倍を超えているという数字なんですけども、先生これ大変な数字じゃないですか?

平成26年9月8日付 時事通信配信記事「海流出、さらに2兆ベクレル=ストロンチウム
(東京電力)
http://www.tepco.co.jp/news/2014/1241559_5918.html

高濃度の放射性物質を含むたまり水

小出さん:
はい。皆さん、2兆ベクレルという数字を聞いても、多分ピンとこられないだろうと思います。いずれにしても、放射性物質ですので危険なものです。例えば、比較の例を聞いて頂こうと思うのですが、ストロンチウム90という放射性物質、それを例えば食べてしまう、あるいは飲んでしまうということをすれば、もちろん、その人が被ばくをするわけですね。

西谷:
内部被ばくですね?

小出さん:
そうですね。普通の一般の方々は、1年間に1ミリシーベルトという被ばくを超えてはいけないという法律になっているわけですが、そのために、一体どれだけストロンチウム90を食べたり飲んだりしたら、そうなってしまうかということは計算で出てくるわけです。その計算に従って言うと、仮に1兆ベクレルというストロンチウム90があれば2800万人分になります

西谷:
1兆ベクレルのストロンチウム90は2800万人分の限界値、1日に?

小出さん:
1年間にそれ以上摂ってはいけないという量になります。

西谷:
2800万人といえば、これは日本の人口の4分の1?

小出さん:
そうですね。それから、セシウム137の方はストロンチウム90よりは少し内部被ばくの危険度が低いのです。そのため、もしセシウム137が1兆ベクレルあるとすれば1300万人分になります

西谷:
1300万人って東京都ひとつ?

小出さん:
を超えてしまうかもしれません。それで、先日の東京電力の発表だと、ストロンチウム90が1兆4600億ベクレル、セシウム137の方が6100億ベクレルという発表の数字になっていまして、2倍ストロンチウム90の方が約多かったということになっています。それで、もしストロンチウム90が本当に1兆4600億ベクレルだとすれば、それは4100万人分の年摂取限度に相当します

西谷:
ほぼ日本の人口の半分近く?

小出さん:
半分近くですね。それからセシウムの方は約800万人分です。

西谷:
大阪府の人口ぐらいですね。

小出さん:
いずれにしても両方出ているわけですから、日本人の約半分が1年間に許される限度の量ということになるだろうと思います

90-koide

西谷文和: ちなみに、ストロンチウム90というのは骨に溜まりやすくて、セシウム137は筋肉に溜まりやすいと。

小出さん:
おっしゃる通りです。
ストロンチウム90

西谷:
だから、ストロンチウムの場合は白血病とかそういうものの可能性が高くなって、セシウムの場合は肺がんとか胃がんとか、そういうもの。

小出さん:
そうです。全身に危険が及ぶと思います。
放射能は微量でも危険です!!ポスター

西谷:
極めて危険な物質が大量に海に放出されてしまったんですけど、ここまで出たのは、もしかしたら建屋のトレンチから直接漏れてる可能性があると言われているのですが。

小出さん:
私は当然だと思います。2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震が起きて散々な被害にそこら中があっているわけですね。福島第一原子力発電所の敷地の中でも沢山の機器が壊れたと思いますし、コンクリート構造物というのはもともと割れてますし、その上巨大な地震に襲われれば。

西谷:
マグニチュード9ですもんね?

小出さん:
そうです。そこら中でひび割れているのです。ですから、事故直後にトレンチがむき出しになっている岸壁の部分から水がジャージャーと流れていたのも確認されました。何か所もそういう所があったわけですけれども、それは、目で見えている所で割れていたから見えただけであって。
福島第一原子力発電所2号機取水口脇ピット2

福島第一原発3号機取水口付近のピット内の流入状況

西谷:
地下になったら見えませんもんね。

小出さん:
地下は見えないままどんどん漏れていたのです、当時から。

西谷:
これ、今からでも先生がおっしゃるように、タンカーか何かに積みかえてというふうにした方がいいですかね?

小出さん:
私は必ずやるべきだと思います。

西谷:
これ、このまま放っといたら外洋に出ていくだけですもんね。

小出さん:
はい。このままではもう手の打ちようがありませんので、私はタンカーに移すべきだというのは、2011年3月の段階から発言をしてきました。もう既に3年半も過ぎてしまいましたけれども、あまりに遅いとは言え、やっぱりやるべきだと思います
緊急事態宣言を汚染水33万トンで2京7000兆ベクレル

西谷:
今からでも遅くないということですね。

小出さん:
遅いのですけれども、やった方がいい。

西谷:
とりあえず遅いのだけれど、やった方がいいと。大変な事態だということが分かりました。小出先生、今日はどうもありがとうございました。

小出さん:
ありがとうございました。


201110813
「放射能と子どもたち」in 沖縄 小出裕章先生
https://www.youtube.com/watch?v=OURFwaFOcUo


世界は恐怖する死の灰の正体(亀井文夫監督)

http://youtu.be/yCk2Qf6RA_s
1957年制作原水爆実験後の日本の実態

単位換算
1キュリー(Ci)=約370億ベクレル(Bq)、
1マイクロキュリー(µCi)=約37,000ベクレル(Bq)
1マイクロマイクロキュリー(µµCi)=約0.037ベクレル(Bq)
1レントゲン=約10ミリシーベルト


小渕経産相「廃炉や汚染水対策 必ずやり抜く」と出来ない約束を明言(9/7 NHK)
(東京江戸川放射線)
http://radiation7.blog.fc2.com/blog-entry-4462.html



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廃炉をやりきる規制は十分に準備されていない=原子力規制委員長
(ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0H50JG20140910?feedType=RSS&feedName=topNews&utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+reuters%2FJPTopNews+%28News+%2F+JP+%2F+Top+News%29
[東京 10日 ロイター] - 原子力規制委員会の田中俊一委員長は10日の定例会見で、今後の廃炉問題について、「解体するといろいろな廃棄物が出てくる。廃炉をやりきる規制は十分に準備されていない」と述べた。

  規制委はこの日、九州電力川内原発について、新規制基準に適合していると判断した審査書を決定。川内原発の再稼働については田中委員長は「再稼働の是非については原子力規制委員会の判断の外にある」と従来通りの見解を繰り返した。田中氏は、「規制基準に合致しないで稼働できない原子炉も出てくると思う」と語った。


議論進まぬ原発廃炉 解体コスト不透明
(東京新聞【こちら特報部】)2014年9月17日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014091702000195.html
 関西電力大飯原発4号機が停止し、原発稼働ゼロとなって15日で丸1年がすぎた。九州電力川内原発の再稼働に向けた動きの一方、老朽原発を廃炉にする話がようやく出始めた。ただ、解体した原子炉など汚染ごみの受け入れ先がないほか、立地自治体の税収減といった不都合があり、議論は進まない。廃炉は、もはや避けて通れない問題なのだが-。
(上田千秋、篠ケ瀬祐司、社説<5>面

議論進まぬ原発廃炉 解体コスト不透明_1

解体費 数百億~数千億円

 「廃炉を検討するなら、使用済み核燃料の中間貯蔵、放射性廃棄物の埋設、地域経済への影響とセットで議論しないと話し合いにならない」
 福井県の杉本達治副知事は8日、関西電力の岩根茂樹副社長に対し、こう述べて警戒感を示した。運転開始から40年を超す美浜原発1、2号機(美浜町)の廃炉を関電が検討していると報道されたことを受けての面談だった。
 同県は高速増殖原型炉「もんじゅ」を含め、全国最多の14基の原発を抱えるが、うち8基の運転期間は30年を超す。廃炉は、経済面でも、放射性廃棄物の処理の面でも、地元に大きな影響を与える。
 関電広報室は「今後どのように対応していくか検討しているところ」と廃炉について具体的なコメントはしていない。だが、老朽原発を廃炉にするかどうか決断しなければならない時期は近づいている。
 原子力規制委員会は昨年7月、原発の運転期間を原則40年とする新規制基準を決定した。この基準に当てはめれば、美浜原発1、2号機は廃炉だ。しかし、20年以内の延長が可能という規定もあり、経済産業省は延長申請の期限を来年7月に設定し、年内にも電力会社に移行を確認する方向で検討している。
 ただ、運転延長のハードルは高い。原子炉圧力容器に傷や割れがないか超音波などを使って調べる「特別点検」をした上で、川内原発で行われた適合審査に合格しなければならない。安全対策だけでも総費用は1000億円単位とみられる。
 その一方で、電力会社には簡単に廃炉に踏み切れない事情がある。会計上、廃炉を決めた後は、原子炉格納容器などは資産とみなされなくなる。昨年、当該年度の決算に一度に特別損失として計上するルールが分割処理できるよう改められたが、廃炉は財務状況を悪化させる。
 廃炉費用をどうするかという問題もある。経産省令で積み立てが義務付けられているものの、どの電力会社も十分な費用を準備できていないのが現状だ。

立地自治体、税収減を懸念

 電力会社だけでなく、原発立地自治体が受ける影響も計り知れない。まず、原発を中心とした関連産業による雇用が失われる。国からの電源三法交付金、電力会社の固定資産税などがなくなる。さらに、核燃料税も徴収できなくなる。
 同税は、原子炉に装填(そうてん)される核燃料の価格に応じて課税する仕組みで、1976年に福井県が初めて導入した。原発が立地する他の12道県も次々に導入した。福島の原発事故後、福島県は廃止したものの、他の道県の多くは運転停止中でも発電能力によって課税する「出力割」を併用するようになった。福井県は昨年度決算によると、出力割で61億円の収入があり、「決して小さな金額ではない。廃止になると困る」(税務課)。
 危機感を強める同県の西川一誠知事は9日、小渕優子経産相に会い、原発の撤去が終わるまで電源三法交付金を続けるなど、廃炉になった際の国からの支援を求めた。

議論進まぬ原発廃炉 解体コスト不透明_2

高濃度汚染ごみ どう処理 「まず責任の主体 明確に」

 ところで、原発の廃炉はどのように進められるのか。電力会社などは廃炉を「廃止措置」と呼び、おおむね4段階の作業がある。
 まず使用済み核燃料を原子炉から外に運び出す。次に原子炉冷却系や計測制御系統の施設の解体を行う。続いて原子炉本体の解体、そして建屋解体と進めていく。
 廃炉費用にはいくらかかるのか。80万キロワット級の中型炉で440億~620億円程度、110万キロワット級の大型炉の場合570億~770億円と経産省は見込んでいる。だが、試算額で収まるとは限らない。
 例えば、2003年に運転を終え、廃炉作業中の新型転換炉「ふげん」(福井県敦賀市)。解体費400億円、廃棄物処理費350億円を見込む。だが、日本原子力研究開発機構(原子力機構)の原子炉廃止措置研究開発センター管理課の担当者は「具体的な廃炉の実績がなく、民間の電力会社の計算式を参考にした。使用済み核燃料の輸送費用は含まれておらず、廃炉までの期間が延びれば維持費などがさらに必要になる」と費用が膨らむ可能性を示唆した。
 公益財団法人「自然エネルギー財団」は経産省試算の何倍も費用が必要だとみる。大林ミカ事務局長は「ドイツなどは原子炉1基の廃炉コストを、約2500億円から3500億円程度とみている。政府や電力会社の見積もりでは到底足りない」と話す。
 廃炉費用だけでなく、技術面の問題もある。1998年に営業運転を終え、商業用原発で国内初の廃炉作業に取り組んでいる東海原発(茨城県東海村)では、低レベル放射性廃棄物処理施設の屋上から出火したり、作業服などを洗って出た汚染水の流出事故が起きたりしている。他の原発を廃炉にする作業でも、不安がつきまとう。
 もっと深刻な問題がある。廃炉で出る廃棄物の処分場を受け入れる自治体がないことだ。
 東海原発の廃炉について、日本原子力発電(原電)は、原子炉周辺の解体に入る時期を今年4月から19年度へと5年間先送りした。原子炉解体によって出る、比較的汚染度の高い放射性廃棄物の行き先が決まらないことが主な理由だ。こうした放射性廃棄物は、地下50メートル以上の人工構築物の中で、300年間管理しなければならない。原電ではこうした廃棄物が東海原発から約1600トン出ると試算している。
 08年に廃炉を決め、中部電力が作業を進める浜岡原発1、2号機(静岡県御前崎市)は先月29日、解体作業で出た廃棄物の一部を初めて原発敷地外に搬出した。本年度中に約20回、計約50トン運び出される予定だが、これらは汚染の可能性が低い廃棄物だ。汚染度の高い廃棄物の処分方法は、「今後検討する」(浜岡地域事務所)。
 ともかく今後、多くの原発が運転開始から40年超の廃炉期間を迎えることは間違いない。前出の自然エネルギー財団の大林氏は「福島の原発事故で出た放射性廃棄物の処理について、東京電力は責任をあいまいにしようとした」と指摘し、電力会社の体質を改めるよう求める。
 「まず、どこまでが誰の責任かを明確にすべきだ。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す核燃料サイクルは機能していないのに、使用済み核燃料をごみと呼ばない。このように責任をはっきりしないまま、さらに廃炉費用を電気料金に上乗せするような施策をとるべきではない」

議論進まぬ原発廃炉 解体コスト不透明 デスクメモ




放射線影響、政府広報
1億円で「安全」強調 主張一方的

(東京新聞【こちら特報部】)2014年9月22日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014092202000137.html
 「放射線についての正しい知識を」。そんな大見出しの政府広報が先月中旬、全国紙に一斉に掲載された。福島原発事故の健康影響を正しく伝え、風評を打ち消す狙いだという。ただ「安心神話」に偏ったような内容になっており、登場する学者も放射線の影響を軽く見る人物だ。投じた費用は一億円超。被災者の怒りの声が聞こえてくる。
(榊原崇仁)

放射線影響政府広報1億円で安全強調主張一方的_1

リスク議論 本格化しないのに…

 15日に東京都内であった原発問題の市民集会。「政府広報の内容は問題がある。政府こそ正しい知識を持つべきだ」。原爆症認定訴訟で原告側の証人を務めるなど、放射線被ばくに精通する旭川北医院(北海道旭川市)の院長、松崎道幸医師はこう訴えた。
 やり玉に挙がったのは8月17日付朝刊に掲載された政府広報だ。朝日、毎日、読売、産経、日経の全国5紙と福島県の地元紙の福島民報、福島民友の2紙に掲載された。翌日は夕刊フジにも出た。
 1ページを全面使い、8月3日に都内で開かれた講演会の内容を伝える体裁をとっている。
 講師は国際原子力機関(IAEA)のレティ・キース・チェム保健部長(当時)と東京大病院放射線科の中川恵一准教授だ。
 チェム氏は「放射線は医療やエネルギーなどの分野で活用され、大きなメリットをもたらす」と語り、放射線の効用を強調する内容が目立つ。
 首をかしげたくなるのは中川氏の言葉だ。
 放射線の健康影響で特に強い関心が集まるのは小児甲状腺がん。その原因となるのが放射性ヨウ素の内部被ばくだ。福島原発事故によるこの被ばく線量について、中川氏は「最大でも約35ミリシーベルト未満」と語っている。しかし、測定できた子どもは1000人程度にすぎない。限られたデータで最大値を語るのは難しい。
 がんの発症についても、中川氏は「福島で増えないと考えられる」と語るが、うのみにはできない。
 被ばく線量に応じてどの病気がどう増えるかは不明な部分が少なくなく、特に100ミリシーベルト以下の影響は、専門家の間でも意見が分かれている。このことは、文部科学省が作成した放射線教育の副読本にさえ明記されている。
 しかし政府広報では「100ミリシーベルト以下でがんの増加は確認されていない」「福島では最大でも約35ミリシーベルト未満。甲状腺がんは増えない」という中川氏の持論だがけが載る。「放射線について慎重になりすぎることで、生活習慣を悪化させ、発がんリスクを高める」という同氏の発言も掲載されている。
 しかし「福島でがんは増えない」は、現段階で政府の正式見解にはなり得ない。国や福島県の専門家らの会合では、原発事故後の放射線の健康影響について議論がまだ本格化してないのだ。
 先の松崎医師も15日の集会で楽観論を戒めた。
 小児甲状腺がんについて「自然発生の場合、男女比は1対5前後だが、今の福島では年齢によって異なるが1対1.1~1.6となっている。これはチェルノブイリ原発事故のケースに近い」と指摘する。
 中川氏は遺伝的な健康影響は「広島や長崎でさえなかった」と語り、「福島も問題なし」と印象づけている。だが、原爆被害者の健康状況を調べる公益財団法人「放射線影響研究所」のホームページでは、原爆による遺伝的影響は「今後の追跡調査が必要」と記されている。

放射線影響政府広報1億円で安全強調主張一方的_2

健康被害 過小評価の恐れ

 中川氏は、避難指示が遅れた福島県飯舘村で放射線との向き合い方を話し合うリスクコミュニケーションに関わってきたが、自らの著書では健康影響について楽観論を展開する。
 例えば、近著「放射線医が語る福島で起こっている本当のこと」では、福島ではがんが増えない以上、県が子ども向けに行う甲状腺検査は、摘出の必要がないがんまで見つけるとして「即刻やめるべきだ」と説く。汚染水問題にも触れるが、可能な限り放射性物質を取り除いた上で薄めれば「過度な心配は不要」として「海に流すべきだ」と訴える。
 政府広報に登場するIAEAも放射線のリスクを楽観視しがちだ。チェルノブイリでは小児甲状腺がんが多発したが、1991年の事故報告書では「被ばくに直接起因する健康の変調はない」と判断している。
 ところで、今回の政府広報はどういう経緯で掲載されたのだろうか。
 政府広報に問い合わせ先として記されていた復興庁によると、中川氏らの講演会は、復興庁が外務省や環境省などの協力を得て準備したという。正式には「放射線についての理解促進のための勉強会」という名称で、8月3日の初開催と、同月17、18日の政府広報の掲載、そして講演の動画配信がワンセットになっている。
 講師の人選について、復興庁の担当者は「放射線の健康影響に非常に詳しい方にお願いした。政府広報に掲載した内容は(原発事故による健康管理を担当する)環境省のチェックを受けており、間違いはないはずだ」と語る。
 これに対し、放射線研究が専門で広島の被爆者でもある名古屋大の沢田昭二名誉教授は「政府の思い通りに話す人間だけを選んだように思えてならない」と人選の偏りを批判する。
 経緯をめぐっては不自然に思える点がある。
 講演会は非公開で、報道機関の取材も不可だった。復興庁は「参加者のプライバシーを守るため」などと釈明するが、いまだに会場名すら明らかにされていないのだ。
 「福島の風評被害を抑えるために正しい情報を全国に発信する」ことが趣旨というが、長い時間をかけて念入りに準備したのではなく、夏前になって急に実施が決まったという。漫画「美味しんぼ」の騒動があった少し後のようだ。
 さらにこの企画自体、復興庁の内部的な議論だけで実施が決まったわけではないらしい。

被災者ら憤り「政府の本音出た」

 復興庁のある関係者は「こちら特報部」の取材に対し、「上の方の意向もあった」と明かす。「上」というのが誰なのかという点も尋ねたが、明確な答えは返ってこなかった。
 この企画には1億円超の税金が投じられた。福島市の主婦(53)は「一方的な意見ばかり強調しているのは誰の目からも明らか。そんなに『事故の影響は大したことがない』と言いたいなら、政治家なり、官僚なりが自腹を切って広報すればいいことだ」と憤る。
 市民団体「内部被ばくを考える市民研究会」(埼玉県川口市)の川根真也代表(52)は、政府広報に込められた位置をこうみる。
 「政府は『国民は権威に弱いはず』という見立てで、東大やIAEAといった肩書を持つ専門家、さらには全国紙までも使い始めたのだろう。政府の本音がにじみ出ている。ただ事故の影響を過小評価すれば、しわ寄せが及ぶのは住民たちだ。今のやり方を許していいはずがない

放射線影響政府広報1億円で安全強調 デスクメモ


20121128【必見】《索引付》松崎道幸講演 第6回 女たちの『一票一揆』 dkworks

http://youtu.be/npO4w6d7vzA