小出裕章先生:東電=「汚い会社だな」
内田樹が語る、政治が教育に介入してはならない理由
(ラジオフォーラム#81)
http://youtu.be/hfDlN3F9tI0?t=16m26s
16分26秒~第81回小出裕章ジャーナル
脱原発の株主提案拒否、膨らむ原発安全対策費 「いくらお金を使おうと、電力会社は必ず電気代で回収できるという仕組みになっていますので、悠々やれてしまうのです」
http://www.rafjp.org/koidejournal/no81/
景山佳代子:
今日のテーマなんですが、「脱原発の株主提案拒否 膨らむ原発安全対策費」ということでお話伺っていこうと思うんですが。2014年6月26日に、沖縄を除く9つの電力会社が株主総会を開催しました。この中で、脱原発の株主提案というのが全て否決されたんですね。
2014年7月上旬には、原発の再稼働に向けて「原発安全対策費」というのを電力会社10社が計上してたんですが、こちらの費用の総額が2.2兆円で、前年に比べ1.5倍にも膨れ上がっているということが報道されていました。
ここでちょっと伺っていきたいんですが、株主総会での反対を否決して再稼働を電力会社進めていくんですが、ここで計上されている原発の安全対策費というもの、やはり私達の電気料金から出されていくものなんですか?
小出さん:
もちろんです。全てです。電力会社の安全対策費はもちろんそうですし、高給取りの役員の給料もそうですし、一般社員も高給取りだと思いますが、全てそれに含まれていますし、テレビやマスコミを自由に扱うためのその費用もそうですし、地元にばらまくお金も全部が電気代です。
景山:
じゃあ、この1.5倍に膨れ上がったという、この原発安全対策費っていうのも反対している声があるにも関わらず、やっぱり電気料金から出ていくという、こんなかたちになるんですね。
小出さん:
そうです。でも、ほんとならもう止めてしまえば安全対策費も何もいらないんですけれども、とにかく巨大株主というのは巨大銀行だったりするわけで、とにかく今まで通り儲けを得たいと思ってるわけですし、安全対策費だろうと何だろうと、とにかくいくらお金を使おうと、電力会社は必ず電気代で回収できるという仕組みになっていますので、悠々やれてしまうのです。
景山:
いい商売と言ったらアレですけど本当に。
小出さん:
いいと言うか、酷すぎるなと私は思います。
景山佳代子:
そうですね。はい。一般の人達には想像できない。この報道の中に、例えば浜岡原発4号機のお話があったんですが、南海トラフ巨大大地震、これに向けた対策工事というものの中に、高さ22メートルの防波壁、これの建設予定費というのもやはり安全対策費の中に入っているようなんですね。
小出さん:
当然です。
景山:
はい。この南海トラフ大地震のような巨大大地震に対して、一体こんな安全対策工事っていうのが、どの程度の実効性っていうのが予想できるものなのでしょうか?
小出さん:
防潮堤は、津波に対する安全対策だということになってるんですね。でも、しかし問題なのは浜岡原子力発電所の場合には、東海地震の予想震源域のど真ん中にあるということで、地震そのものなのです。マグニチュード8の地震というものが起きた時に、放出されるエネルギーというのは広島原爆の1000発分に当たります。
景山:
そんなにですか?
小出さん:
はい。その予想震源域のど真ん中に原子力発電所が建っているわけで、ほんとに安全かどうか。要するに津波どころか地震に対して安全かどうかすらが分からないという、そういうことになってしまっています。
景山:
今これだけの巨額を投じて、原発の再稼働というのをどんどん進めていこうとしているわけなんですけれど、
決算を見てみると、電力会社のうち黒字だったのが結局、原発のない沖縄電力、それから原発比率の低い北陸電力、それと今回は東京電力というのが3年ぶりに黒字であって、それ以外の電力会社というのは全て赤字だったわけなんですね。小出さんが、以前から電力会社というのは赤字にならないというふうなお話だったんですが、なぜ、今回こういった赤字というのがなっているのかっていうところが。
小出さん:
それはですね、その安全対策費というのがこれまでキチッと計上されないまま、急に多額の安全対策費等が必要になったために、たまたま赤字になったということだと思いますし、原子力発電所が停止しているために、火力発電所の燃料費等が予想以上に必要になってしまったということだと私は思います。
景山:
逆に、この中で東電だけが黒字という、一番なにか賠償だったり、いろいろとお金がかかっている東電だけが黒字で、これ見ていくと、結局賠償費として使われるはずのお金が、利益として計上されていたっていうようなことがあったんですが。
この東電のこれから、こういった体制ですね。賠償のこととかが、いろいろとやっぱり一律低く抑えられているっていう問題が出ているんですけれど、東電のこうした賠償、避難している人達に対する対応とか、これからの原発の稼働の進め方とか、小出さんの方は、一体どんなふうにこういった東電の動きというのご覧になっているのかというのをお聞きしたいかなと思うんですけど。
小出さん:
一言で言えば、「汚い会社だな」と思います。自分が「絶対起きない」と言っていた事故が起きてしまって、膨大な数の人達を苦難のどん底に落としたわけですね。それなのに、キチッとした賠償もしない。
そして、廃炉のカンパニーを別会社にしてしまって、東電本体は生き延びるということにやってるわけですし、その賠償金というか、事故の対策費用もほとんどを国に支払わせていくということをやっているわけですね。
その賠償金というのを算定するのも原発ADRという組織があるのですけれども、そこも、もともとは文部科学省の組織なんですね。文部科学省なんて、これまで原子力発電所は安全だ安全だと言ってきた張本人なんであって、私としては、犯罪者だと呼びたいくらいなのですけれども、犯罪者の筆頭である東京電力と、肩を並べる犯罪者である日本の国というのが、賠償金をどんどん値切って、住民を苦難から一向に救わないという、そういう事になってしまっているんだと思います。
景山:
今日は本当にどうもありがとうございました。
小出さん:
こちらこそ、ありがとうございました。
福島原発事故コスト 少なくとも11兆円
(東京新聞【こちら特報部】ニュースの追跡)2014年7月23日
福島原発事故の対応コストは11兆円以上─。立命館大の大島堅一教授(環境経済学)と大阪市立大の除本(よけもと)理史教授(環境政策論)が、そんな試算をはじき出した。目を向けるべきはその額だけではない。国民に負担をつけ回す仕組みが着々と構築されているというのだ。
(榊原崇仁)
国民に負担押し付け
今回の試算は、安倍政権が昨年末に決めた復興指針や東京電力の財務諸表など公開されているデータを積算する形で行った。損害賠償○原状回復費用○事故収束・廃炉費用○その他──の4つの項目別に示した。近く学術雑誌で発表する。
賠償の見込みは4兆9000億円あまりで、主な内訳は個人向けの精神的賠償、財物価値の低減の対応、出荷制限による損害などの手当てが各1兆円、営業損害の賠償の4600億円など。原状回復費用は除染費が2兆5000億円、中間貯蔵施設の設置・運営費が1兆1000億円。事故収束と廃炉の費用は合わせて2兆2000億円となっている。
その他も含めて計11兆円という計算になるが、あくまで「少なくとも」という断り書きが付く。
大島教授は「賠償額の算出基準は加害者側の東京電力が作成しており、賠償額を過小評価している可能性がある。それに原発事故による被害は現在も収拾しておらず、賠償額は今の見込み額より増えるはずだ」と指摘する。
原状回復費用のうち「除染費は2兆5000億円」という試算は政府による見込み額を使ったが、「環境放射能除染学界の研究グループは『10兆円に近づく』と推計している」。さらに言えば、原状回復費用には、全くめどが立っていない最終処分場の分は含めていない。
加えて、事故収束や廃炉の費用は「新たな技術開発が必要で、想定をはるかに超える多額の支出を強いられる公算が大きい」。
何はともあれ、少なくとも「11兆円の請求書」が出てくるのだが、全て東電が支払うわけではない。むしろ、国民に負担を強いる仕組みができあがっているのだという。
そもそも東電は被災者らに賠償金を払ううえで、原子力損害賠償支援機構を頼りにしている。
機構は2011年9月に政府や電力会社などの出資で設立された法人で、政府から「交付国債」という小切手のような国債を受け取り、必要に応じて現金化して東電に渡す。返済金の原資の大部分は、電気代に転嫁して集めることができる仕組みになっている。
原状回復費用の確保にも問題がある。政府が昨年末に示した復興指針では、除染費は支援機構が1兆円で購入した東電株の売却益を充てることになったが、大島教授は「本来は国庫に戻し、国民の財産にすべきお金。使い道を誤っている」と追及する。
「ひどいのは中間貯蔵施設の分も同じ。返納を強いない特例資金として、東電に交付することになった。つまりは税金による補助金と何ら変わらない」
さらに廃炉費用の一部も、昨年10月の電気事業会計規則の変更などで、電気料金に転嫁することができるようになったという。
東電に責任を取らせるため「破綻処理すべきだ」という主張は、これまでも国会論戦で出たほか、新潟県の泉田裕彦知事たちも求めた。しかし実現は程遠く、むしろ逆行している。
大島教授は「民主党政権下にできた東電の負担軽減の枠組みが安倍政権によって強化された。国民に十分な説明があったとは言いがたい」と憤りを隠さない。「今からでも遅くない。誰が事故の責任を負う必要があるか考え直すべきだ」
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川内原発:「合格」判断に「福島も安全と言われていた…」
毎日新聞 2014年07月16日 21時25分(最終更新 07月17日 01時23分)
http://mainichi.jp/select/news/20140717k0000m040103000c.html
東京電力福島第1原発事故で、いまだに12万人以上が避難生活を続ける中、九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)が再稼働に向けて動き出す。原子力規制委員会は16日、安全対策について「合格」との判断を示したが、避難中に父を失った福島県川俣町の大内秀一(ひでかつ)さん(65)は納得できない。「福島も安全と言われていたのを忘れたのか」。多くの県民が抱く共通の思いだ。
父の遺影を持って実家の庭を見つめる秀一さん。芝生だった庭は除染で土がむき出しになった=福島県川俣町山木屋で2014年7月6日、中里顕撮影
川俣町山木屋地区。夜間の滞在がいまだにできない避難指示解除準備区域内の自宅で、秀一さんは今年5月に死亡した父佐市(さいち)さん(当時84歳)の遺影を手に、これまでの避難生活を振り返った。
亡くなった父は1945年、原爆投下直後の広島市に、けが人を手当てする衛生兵として入った被爆者の一人。戦後は古里の川俣町に戻り農業を営んだ。2008年に脳梗塞(こうそく)で倒れ、ほぼ寝たきりになり、会話ができなくなった。そして、福島第1原発事故で放射能汚染に再度さらされた。
福島県川俣町山木屋地区と福島第1原発
秀一さんは放射線量が比較的低い町内の借り上げ住宅に避難し、父は特別養護老人ホームに入所。「生きているうちにせめて墓参りをさせてあげたい」と、築43年の自宅に初めて父を連れて一時帰宅したのは原発事故から2年たった13年春だった。「父ちゃん、家に着いたぞ」。そう語りかけると、父は大きくうなずいたという。今年5月、体調が急変して福島市内の病院に入院。秀一さんが「家は守り続けるから」と約束すると、父は目を細めてうなずき、数日後に心不全で息を引き取った。
自宅の周囲は田んぼや山林が広がる緑豊かな土地だった。現在は黒い化学繊維の袋が山積みされ、中には除染で生じた汚染土などが詰まっている。通夜までの3日間、秀一さんは父の遺体と自宅に戻り、一緒に時を過ごした。
「父の最後をこんな風景で迎えさせたことが残念だ。原発の安全性をいくら強調しても、自然はその上をいくということを東日本大震災で学んだはずではなかったのか」
原発再稼働に向けた手続きが進む中、秀一さんは、放射能に翻弄(ほんろう)され続けた父の思いを代弁した。【中里顕】
原発事故後の健康支援で逆走 環境省の専門家会議
(東京新聞【こちら特報部】)2014年7月22日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014072202000168.html
福島原発事故後の健康支援を議論する環境省の専門家会議が、あらぬ方向に走り始めている。今月十六日の会合でも、外部から招いた研究者が健康診断の拡充を求めると、座長は「議論したくない」とそっぽを向いた。健診拡充は子ども・被災者支援法も求めているが、座長自ら「成立時と現在は状況が違う」という声を上げている。被災者たちがこうした姿勢を到底、受け入れられるはずもない。
(榊原崇仁)
健診拡充に後ろ向き
「(福島原発事故で拡散している)放射性物質が福島県境でとどまるとは思わない。早く県外の住民の症例も把握すべきだ。放射線量の評価ばかりに、こだわるべきではない」
16日にあった環境省の専門家会議。ゲストで招かれた疫学者の津田敏秀・岡山大教授は、同県内外の住民がどれだけ被ばくしたかの議論に時間を費やす会議の現状に疑問を呈した。
しかし、座長の長滝重信・元放射線影響研究所理事長は「非常にユニークな方がおられる」と、津田教授の指摘を突き放した。
同県では事故直後から県民健康調査が実施され、事故当時18歳以下だった県民を対象に甲状腺検査などが進められている。ただ、現在は国費による健康調査は福島分のみ。このため、専門家会議では現在、他の地域でも健診などが必要か否かを議論している。
座長の長滝氏は、①同県内外の住民の被ばく線量を評価②線量に基づく健康影響を分析③必要な健康支援が何か考える─という方針を掲げており、6月26日の前回(第7回)会議で、ようやく線量評価の骨子がおおむねまとまった。
骨子には、独立行政法人・放射線医学総合研究所の推計や同県による住民の行動調査などから、甲状腺がんを引き起こす放射性ヨウ素の内部被ばくは「大半が50ミリシーベルト以下」、外部被ばくは「『福島県でも99.8%が5ミリシーベルト以下』という調査結果は全体の傾向を見る上で妥当」と記された。
だが、この評価結果は不確かな部分が大きい。
ヨウ素被ばくを分析しようにも、実測したのはわずか1000人程度。同県による甲状腺検査対象の0.3%だ。放射性ヨウ素は半減期が8日と短く、現在からは実測し難い。外部被ばくの行動調査も、回答率は25.9%と低迷している。
津田教授は会議の席上、「病気とその原因の因果関係を考える際、原因側のデータが少なくなりがちだ。病気の側から考えるのが、国際的な疫学分析の基本になっている。原因から考えるのは、実験室のやり方にすぎない」と主張した。
さらに「線量評価にこだわると対策を先送りし、被害を広げる」と続け、同県内外で甲状腺がんやその他の病気の症例把握のため、早急に健診し、事故を境に病気が増えたか、地域によって差があるかなどを分析すべきだと強調した。
会議に招いたにもかかわらず、座長の長滝氏はこの意見をほぼ無視した。
この対応に対し、津田教授は「私はオックスフォード大出版局の教科書に基づいて発言している。先生の方がユニークですね」と応酬したが、長滝氏は「先生と議論するつもりはありません。線量に基づいて議論する」と述べ、一方的に話を打ち切った。
住民の期待に応えず
国の放射線の健康影響に対する消極評価は、今に始まったことではない。
内閣府の有識者会議「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ(WG)」は2011年12月に報告書をまとめ、「発がんリスクの増加は100ミリシーベルト以下の被ばくでは他の要因の影響に隠れるほど小さく、明らかな増加の証明は難しい」と断じた。
内閣府のWGも、長滝氏が議長を務めた。環境省の専門家会議で委員を務める丹羽太貫・福島県立医科大特命教授や、遠藤啓吾・京都医療科大学長もメンバーだった。
専門家会議は現在のところ、同県内外の被ばく線量は100ミリシーベルトをかなり下回ると見込んでいるため、「放射線による健康影響は証明できない」「影響が証明できない以上、福島県内の健診すら不要」という方向に傾き始めている。
実際、専門家会議では、すでに健診拡充に後ろ向きな発言が出ている。
12年6月に成立した子ども・被災者支援法は健診拡充や医療費軽減などを求めているが、長滝氏は第7回会議で「法案ができた時と、今と非常に大きな違いがある」「線量の評価がどんどんでき、リスクについて科学的に物が言えるようになった」と、必要性に否定的になっている。
同様に専門家会議メンバーの祖父江友孝・大阪大教授は、同じ会議で「過剰診断」という言葉を使い、健診の不利益を説いた。
これは甲状腺がんのように進行が遅いがんでは、寿命まで発症せず、体に悪さをしない可能性がある。にもかかわらず、健診でがんを見つけることで、余計な不安を抱かせたり、手術による心身の負担を生じさせたりするという意味だ。
同じくメンバーの鈴木元・国際医療福祉大クリニック院長も「住民の健康不安に対し、健診をすることが本当にベストアンサーなのか、十分議論しないといけない」と主張する。
ただ、党の住民側からは逆に健診の拡充を求める声がわき上がっている。
今月13日には原発事故後の生活について、福島県内外の母親らが語り合う会合が東京都内であった。
参加した栃木、茨城、千葉、埼玉の4県で甲状腺検査をする市民団体「関東子ども健康調査支援基金」の稲垣芳さん(42)は「検査の募集では、すぐに申し込みが殺到する」と話した。
出席者の一人で、福島県大玉村から小学2年の娘と神奈川県内へ避難している鹿目久美さん(46)は「原発事故で子どもの病気の不安が増えた。それを調べてもらいたいと思うのは当たり前。福島県内であろうと県外であろうと、母親ならそう考える」と訴えた。
会合を主宰したNPO法人「子ども全国ネット」の伊藤恵美子代表(51)も「専門家会議は子ども・被災者支援法をないがしろにしている。住民の不安解消につながるわけがなく、不信感しか生まない」と語る。
専門家会議の委員でも、異論を抱く人がいる。その一人、日本医師会の石川広己常任理事は「現在の専門家会議は、住民の意見を反映していない。不安を抱く人に、一方的に『大丈夫』と言わんとする人の気がしれない」と批判する。
「低線量被ばくの影響は誰にも分からない」という立場から「放射線により、何らかの病気が生じていないか、生じた場合、どう対処するかを早く検討しなければならない。そうした備えがあって、初めて不安は解消できる」と語る。
「健診の利益や不利益は専門家を称する人たちが、一律に決められるものではない。健診の体制を整えたうえ、当事者である住民に判断を委ねるべきだ」
【Preview】井野博満氏:川内原発再稼働の前に知っておくべきこと
http://youtu.be/D1nk5FIrofg
マル激トーク・オン・ディマンド 第693回(2014年07月26日)
川内原発再稼働の前に知っておくべきこと
ゲスト:井野博満氏(東京大学名誉教授)
九州電力川内原発の再稼働に向けた動きが加速している。
原子力規制委員会は川内原発1号機、2号機の審査を終えて、7月16日に事実上の審査のパスを認める「審査書案」を公表した。8月15日までパブリックコメントを募った上で正式に審査書が確定し、地元の同意が得られれば再稼動が可能になるという流れだ。
電力各社は電力需給の逼迫と燃料費の高騰などを理由に原発の再稼働を目論んでいるが、審査書案の公表を受けて会見した原子力規制委員会の田中俊一委員長は、「原発再稼働の判断についてはコミットしない」と述べている。規制委はあくまで規制基準を満たしているかどうかを科学的な見地から判断するだけで、再稼働の判断は政府が行うものという立場だか、一方で安倍首相は規制委の決定を尊重して再稼働を行うとしており、再稼働の責任をお互いになすりつけているかのような印象は拭えない。
しかし、われわれにとっては何をおいてもまず、今回の規制委による審査で、原発の安全性は十分に確保されたかどうかを十二分に検証する必要がある。5人の委員からなる原子力規制委員会は当初から委員の中立性に疑問が呈されていたが、今年の9月にはさらに元原子力学会会長の田中知氏が委員に就くことが決まるなど、原子力関係業界との接点が指摘される。また、委員の下で実際の審査業務に携わる原子力規制庁の職員も、福島第一原発事故の元凶の一つとして厳しく指弾された旧原子力安全・保安院からの横滑り組がほとんどだ。
今回公表された審査書案は400ページ以上に及び、原発施設の設計の在り方から実際の施工上の対応、電源の安全確保対策、重大事故の想定や緊急時の要員確保まで記述されていて、一見するとあらゆる事態を想定しているかに見える。しかし、東京大学名誉教授で原子力施設に詳しいゲストの井野博満氏は 今回の審査書案では過酷事故への対策が不十分であると指摘する。 原発事故の対応で必要なことは、いかに原子炉を安全に「停める、冷やす、閉じ込める」かが鍵となるが、規制基準が想定している過酷事故のケースはいずれもひとつのトラブルが中心に考えられていて、それと並行して起きる可能性のあるトラブルが十分に考慮されていないと井野氏はいう。
例えば冷却機能を喪失したケースでは、確かにそれをカバーするための対応は何重にも用意されているが、そのどれもが電力が問題なく供給されていて、対応に要する人員は常に確保されていることが前提になっているという。地震や津波で施設が損傷を受けた上に、全電源喪失に見舞われた時、何が起きるかを思い知らされた福島の教訓はどこへ行ったのだろうか。また、電源に関しても規制基準ではさまざま定められてはいるが、これも主に単一のトラブル回避が想定されているため複合的な要因が同時発生した場合に機能するかどうか疑わしいと井野氏は言う。
さらに井野氏は今回の川内原発の場合、規制基準や審査書案を見るだけでは分からない問題もあるという。川内原発では、仮に冷却機能が失われて炉心損傷が起きても、その段階で事態の進行を押さえ込む防護機能が十分ではなく、次に生じるメルトスルーにどう対応するかという対策しか想定されていないという。つまり川内原発では重大事故の際には冷却機能を維持する対策が不十分なため、その時点での対応を諦め、その次の事態に対処することになっていて、その対応を原子力規制委員会も容認しているという。このような事実は専門家が読んで初めてわかることで、一般の人が規制基準や審査書案をいくら読んでも、知ることが出来ない。
安倍首相が誇る世界最高水準の規制基準に関しても井野氏は「従来の安全基準に地震や津波対策が加わったものに過ぎず、これでは再稼働を前提に基準が作られていると言わざるを得ない」と厳しい評価を下す。福島事故で安全神話が崩れ、重大事故や過酷事故が起こりうるとの前提に立った原子力行政が目指されたはずだった。事故後に策定された新しい規制基準は、各数値などはより厳格になっているものの、いずれも従来の安全基準の手直しに過ぎず、既存の原発でもクリアできることが前提になっているため、とても安倍首相が誇るような「世界最高水準」のレベルにはなっていないと井野氏は酷評する。
現在、日本の原発は全て停止している。しかし、そもそもその再稼働を誰がどういった権限で判断するのかという法的枠組みを日本は持っていない。そのため安全基準への適合の可否のみを審査しているはずの原子力規制委員会の判断が、事実上、再稼働にお墨付きを与える格好になっている。このままでは総無責任体制の下で原発だけが回り出すことになり、万が一の事故の際にもその対応が甚だ心配だ。少なくとも安倍首相は「規制委の意見を尊重して」などと逃げずに、「私の責任において再稼働します」と言えないのであれば、再稼働などすべきではないだろう。
既に多方面から指摘されているように、現行の安全基準は周辺住民にとっては最も重要と言っていい、事故の際の避難計画が評価の対象からすっぽり抜け落ちてしまっている。仮に立地自治体によって作成された避難計画が現実離れした代物であっても、現行の制度ではそれを評価して適正化する組織が存在しない。とりあえず防災避難計画の作成が義務づけられているだけで、その内容は問われていないというのが実情だ。これでは安全神話に寄りかかった再稼働と言わざるを得ない。
川内原発再稼働に向けた動きと今回公表された原子力規制委員会による審査書案を参照しながら、原発の規制の在り方、規制基準の問題点、原子力規制委員会や立地自治体の役割と責任などについて、ゲストの井野博満氏とともにジャーナリストの青木理と社会学者の宮台真司が議論した。
20140717 UPLAN 槌田敦「TMI原発事故と加圧水型原発の危機-加えて、美浜原発事故、福島原発事故を忘れて川内原発の再稼働はない-」
http://youtu.be/wFLh6itsyTI