小出裕章先生:学者・政治家、その他関係者がキチンと責任をとるという所から始めなければいけない | 私にとって人間的なもので無縁なものはない

小出裕章先生:学者・政治家、その他関係者がキチンと責任をとるという所から始めなければいけない



これからの学校教育のあり方とは(ラジオフォーラム#74)

http://youtu.be/K2lxTenKX2g?t=15m8s
15:08~第74回小出裕章ジャーナル
高速増殖炉もんじゅ存続の思惑とは?「原子力ムラはどんなに失敗してもやがて上手くいくと言い続けて自分達は責任逃れをしていくという、そういう組織なのです」

http://www.rafjp.org/koidejournal/no74/
湯浅誠:
今日は、もんじゅの存続がエネルギー基本計画で決まった。その思惑と言うか、「何でなの?」ということなんですけど。まず、簡単におさらいしておくと、福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」。初臨界から20年が過ぎても、稼働したのはわずかに250日ですと。
もんじゅ
「かなり税金の無駄使いじゃないか」という批判もあって、自民党の中にもそういう事も主張される方もおられていましたが、4月に閣議決定されたエネルギー基本計画ではその存続が決まったということなんですが。まず、もんじゅのおさらいをして頂くところから始めて頂いてよろしいでしょうか?
※エネルギー基本計画(経済産業省 資源エネルギー庁)
http://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/140411.pdf
電力需要に対応した電源構成


小出さん:
はい、私自身もそうでしたけれども、原子力というのは化石燃料が枯渇してしまった後の未来のエネルギー源だと信じました。多分、皆さんも今でもそう信じていらっしゃるんだろうと思います。でも、本当のことを言うと、地球上のウラン資源というのは大変貧弱で、これまでのような原子力発電を続けようとすると、ウランがすぐに無くなってしまうということが分かったのです
再生不能エネルギー資源の埋蔵量
そこで、普通の原子力発電所で燃やすことができないというウランがあるのですけれども、それを「プルトニウムという物質に変えて利用すれば、原子力が少し資源として意味があるものになる」と、原子力を推進する人達が言い続けてきたのです。
原子炉内でのウラン238からプルトニウムへの変化
それをやるために、本来は役に立たないはずのウランをプルトニウムに変えるための非常に特殊な原子炉が高速増殖炉というもので、世界中の核保有国は何とか高速増殖炉を動かそうとしてきたのですけれども、米国・ロシア・イギリス・フランスも含めて、全て出来ないまま計画から撤退してしまいました。
世界の高速増殖炉開発の実績は
高速炉開発の歴史
日本は「なんとかやるぞ、やるぞ」と言い続けて、もんじゅという原子炉を動かそうとしてきたのですけれども、20年経ってもほとんど動きもしなかったし、豆電球一つ点けることができないという、そういう欠陥装置だったのです

小出裕章ジャーナル

湯浅:
その欠陥装置、1日5500万円食ってるらしいですけども、やっぱりそれでも撤退できない。これは何でなんですかね?
「もんじゅ」維持費1日5500万円税金垂れ流し

小出さん:
これまで1967年という時の原子力開発利用長期計画というもので、「高速増殖炉を実用化する」と日本の原子力委員会が言ったのです。もう既に、ですから50年ほど前ですかね。すぐにでも実用化できるかのように言ったのですけれども、やればやるだけ困難が見えてきまして、結局今になってもできないという状態なのですね。

※原子力開発利用長期計画概要(科学技術庁原子力局)
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/shinsai/jurist/J0508049.pdf

そして、既にもんじゅの開発のために1兆円ものお金を捨ててしまったのですが、先程聞いて頂いたように、豆電球一つまだ点けていないという、そういう物なのです。ですから、本当であれば、こんな物ができると言った学者・政治家、あるいはその他の関係者という人達がキチンと責任をとるという所から始めなければいけないのですけれども、この原子力ムラ、私は最近原子力マフィアと呼んでいますけれども、そこの人達は決して自分で責任を取らないという人達なのです。

「どんなに失敗してもやがて上手くいく」と言い続けて、自分達は責任逃れをしていくという、そういう組織ですので、ここまで来てしまってもなおかつ、「これはダメだ」とは言えないのです。永遠に「やるやる」と言い続けると私は思います。
原子力村癒着相関図


湯浅:
そうすると、諸外国は撤退している。できる目途は立っていないというか、ずーっとできない。だけど、撤退もしない。やろうとする人達は、「そのうちできるんだ」とおっしゃるんでしょうけど。

小出さん:
そうです。ずーっと言い続けてきたのです。

湯浅:
でしょうね。そう言わなきゃ、それはねえ。こういう質問も何なんですが、出来るんですか?

小出さん:
もちろん出来ません。やればやるだけお金がかかりますし、これまでも大小様々な事故を起こしてきましたが、これからも大小様々な事故が起きてくると思います

湯浅:
これからも1日5500万円ずつ、パクパクパクパクと飲み込み続けていくんでしょうかね?

小出さん:
その1日5500万円と今、湯浅さんが言って下さったお金は、今もんじゅは止まっているんですね。事故を起こしたまま止まっているのですが、そのもんじゅという原子炉を冷やすためには、ナトリウムという物質を回してるのです。そのナトリウムという物質は、70度を超える辺りでようやく液体になるのですが、それより低い温度だと固まってしまうのです。
ナトリウムの物性
固まってしまうと機械が壊れてしまうので、とにかく温めて液体のまま保っておかなければいけないという、そういうもので、ひたすら電気を使ってナトリウムを温めているという、その電気代なのです

実に、馬鹿げたことをしているわけですけれども、もしまたそれを動かそうとするとですね、温めるための電気代どころか、その他また様々なポンプを回したりしなければいけないので、もっともっとまたお金がかかってしまうということになります。

湯浅:
そうすると、この原発が無くて電力が大変だと言ってる中で、もんじゅはナトリウムを温め続けるために電気を使い続けていると。

小出さん:
そうです。もんじゅなんか、さっさと諦めればですね電力需要は少しは緩和されるわけです

湯浅:
プラスどころかマイナスだという話ですね。

小出さん:
そうです、はい。

湯浅:
結局、勇気ある撤退だということを決めるためには、政府がそれを決定するしかないんですかね?

小出さん:
もちろんです。政府が決定しなければいけないし、関係してる学者達もいるわけですけれども、そういう人達が、まずは自分達の責任を明らかにして謝罪をして、「この計画は止めます」と本当は言うべきなのですけれども、そういうような人が全く原子力マフィアの中にはいないということなのです

湯浅:
困った事態ですね。

小出さん:
ほんとに困った事態だと思います。

湯浅:
今更っていう感じもするけども。

小出さん:
そう思います。

湯浅:
ほんとですね。どうもありがとうございました。

小出さん:
はい、ありがとうございました。


「もんじゅ」と人の叡知 (小出 裕章:京都大学原子炉実験所)
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Monju/souzou.htm
より

高速炉開発の歴史と「もんじゅ」

 昨年暮事故を起こした「もんじゅ」と呼ばれる原子炉はこの高速増殖炉と呼ばれる原子炉の一つである。この型の原子炉が危険なのは、次の三つの理由による。①「プルトニウム」を高濃度で取り扱うため、爆発しやすい。②物理学的な理由から、原子炉を冷やす材料として水を用いることができず、ナトリウムを用いる。そのナトリウムは空気に触れると発火し、水に触れると爆発する。その上、水と違って不透明、さらには簡単に放射性を帯びるというように、著しく扱いにくい。③ナトリウムは「熱しやすく冷めやすい」という性質を持ち、原子炉の運転状態の変化によって配管などに大きな熱応力がかかる。それを緩和するため、配管が薄く長大にならざるを得ない。結果的に、プラント全体が複雑きわまりないものとなり、地震などの外力に弱い他、機械的なトラブルを生じやすい。

 日本はもともと欧米各国に遅れて近代科学技術に触れた。そして欧米各国に追いつけ、追いこせと科学技術の発展に力を注いだ。しかし、第二次世界戦争で負けたことから、日本の科学技術はさらにまた何年も遅れを負わせれる。原子力はその筆頭であり、敗戦後一九五二年のサンフランシスコ講和条約締結まで日本は原子力開発を禁じられていた。そのため、日本の原子力開発は欧米各国に比べて一〇年から三〇年遅れて彼らの後を追うことになった。先を行っていた欧米各国も一度は高速増殖炉開発に向かったが、そのいずれもが高速増殖炉の危険性を乗り越えることができず、度重なる事故のあげくに開発を放棄するに至った。また米国の場合には、高速増殖炉の危険以上に、核拡散への懸念から「プルトニウム」利用そのものを放棄したのであった。日本は、「日本は核開発はしない」、「日本の技術は優秀だ」と主張しながら、遅れて高速増殖炉に取り組んだが、日本だけが例外であるはずもなく、当然のごとくに「もんじゅ」も事故に遭遇した。それも、未だに定格出力に達しない試運転の段階で、ごく初歩的な設計ミスからナトリウムを空気中に漏洩させ火災となった。この一事だけでも、日本の原子力技術の底の浅さを示すのに充分であった。しかし、「もんじゅ」の事故が示したものはそれだけではすまなかった。起こってしまった事故への対応を誤って事故の進展を拡大し、さらにその上、組織ぐるみで事故隠しまで行ったのであった。

以下略


原子力の「平和利用」は可能か?
京都大学・原子炉実験所 小出 裕章
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/genpatu/kub101008.pdf
より
Ⅳ.不公正な世界

未来への想像力

世界の状況は絶望的と呼べるほど悪いと思います。私が生きている原子力の世界は特に悪く見えます。
 プルトニウムを使う世界がどのような世界か、想像してください。プルトニウムはかつて人類が遭遇した毒物のうちでも最悪の部類に属します。人を肺がんで殺すためには 100 万分の 1グラムを吸入させれば済みます。もし、プルトニウムを未来の人類のエネルギー源にすると言うのであれば、それを 100万トンの単位で使うことになります。当然、厳重に閉じ込めなければなりませんし、そのためには特別に厳重に管理された施設が必要になります。また、厳重に管理するためには、建屋など施設自体の物理的な管理だけではなく、情報の管理も必要です。
 さらに、プルトニウムは数 kg あれば、原爆が作れます。国はそれがテロリストの手に渡らないように厳重に管理することになるでしょう。もちろんこの場合も物理的な手段とともに情報の管理も含まれます。今現在も、ウラン燃料の移動すら厳重な機密とされていますし、核物質を取り扱う施設への入域は人的な調査も含め厳重に規制されています。私は、原子力の場にいながら、原子力を進めようとする国に楯突いている者ですので、今現在も厳重に監視されているはずと思います。
しかし、プルトニウムを大量に循環させる社会になれば、国は、全ての人をテロリストかもしれないと疑わなければなりませえん。なぜなら、国がテロリストと呼ぶ人たちは、自分がテロリストだと名乗るはずがないからです。そうなれば、私のような特殊な人間だけでなく、すべての人々が、国家の厳重な監視下に置かれるでしょう。そうでない社会を想像できる方がいるでしょうか? かつて、ドイツの哲学者ロベルト・ユンクは未来のその社会を「原子力帝国」と呼びました。そんな社会にしてまでなお核=原子力が必要だと思える人がいるとすれば、やはり世界は絶望するしかないと、私は思います。


NPJ動画ニュース第3回
「動燃が隠そうとしたもんじゅナトリウム漏れ直後のビデオ」

http://youtu.be/Wm3yuygUXQ0


2014.6.5内閣委員会(もんじゅについて)

http://youtu.be/Sw0TSQgjFLo


小出裕章さんにきく。(4) - 「もんじゅ」と原子力研究の歴史について。- 2014.04.28

http://youtu.be/c9gjD3eZRW4






福島原発告訴団の原告らが「吉田調書」を情報公開請求

http://youtu.be/BRaPeUjMQHs
プレスクラブ (2014年06月05日)
福島原発告訴団の原告らが「吉田調書」を情報公開請求
 福島原発告訴団の原告ら9人が6月5日、東京電力福島第一原子力発電所事故の調査を行った政府事故調査委員会が作成した記録などの開示を求め、内閣官房に情報公開請求書を行った。開示が実現しない場合は提訴する意向だという。
 今回情報公開請求の対象となった文書は、政府事故調が事故発生時に福島第一原発の所長だった吉田昌郎氏に行った聞き取り結果のいわゆる「吉田調書」のほか、東電や政府関係者ら771名分の聞き取り記録など。
 請求者の一人で代理人を務める海渡雄一弁護士は、情報公開請求を出した理由について、「原発の再稼働を許すか、事故の収束をどのように図るかが議論されている今こそ読まれるべき文書だろうと考えた」と語り、不開示決定が出た場合は直ちに提訴すると同時に、情報公開審査会への申し立ても検討していく意向を明らかにした。

吉田調書公開請求の衝撃度



津波予見 認否のらりくらり 福島の原告「国も無責任」
東京新聞【こちら特報部・ニュースの追跡】2014年6月2日津波予見 認否のらりくらり 

 福島原発事故への国と東京電力の責任を追及する民事裁判が、福島地裁で続いている。先月20日の口頭弁論では、原告の福島県民の「事故の一因となった津波を予見していたのではないか」という主張に、国は「資料が見当たらない」と認否を避け、裁判所から根拠を求められても「示す必要性がない」と渋った。原告は「事故への責任を自覚していない」と憤っている。
(白名正和)

 「裁判所すら軽く見る」

 原告「資料がないとは信じがたい。どんな調査で結論づけたのか」。
国「答える必要性があるのか」。
原告「結論に至る過程を示して」。
国「結論は変わらないし、今の時点では必要ないと考える」。
5月20日、福島地裁の法廷で繰り返されたやりとりだ。
 福島県民ら約2600人による「生業を返せ、地域を返せ! 福島原発訴訟」の原告団は、国が2002年か、遅くとも06年には高さ10メートル超の津波による原発事故の危険性を認識していた、と主張して、昨年3月に提訴した。国は「事故は事前に予測できなかった」と反論している。
 今回、国が認否を避けたのは、原告の「国は事故前に、電力会社らに対して津波想定を2倍に厳しくするよう指示していた」という主張に対してだ。
 1993年の北海道南西沖地震を受け、建設省や運輸省(現国土交通省)などは97年、「過去に例がなくとも予想できる最大級の津波を想定すべきだ」との報告書をまとめた。
 同年、通商産業省(現経済産業省)は、東電などに想定する津波の高さを2倍に引き上げて、原発への影響を試算するよう指示した─。原告はこう訴える。
 一連の事実関係は、原発事故を検証した国会事故調査委員会の報告書にも残っている。参考資料として引用されている電気事業連合会(電事連)の議事録には、「MITI(通産省)は2倍で津波高さを評価した場合、原発がどうなるか、その対策として何が考えられるかを提示するよう電力(会社)に要請している」との記述がある。
 原告側の久保木亮介弁護士は「電事連は00年に試算し、10メートル超の津波が来る事態を想定し、原発に影響が出るとまとめた。国は指示した以上、試算の結果を報告されているはずだ。事故から10年以上も前に、約10メートル超の津波を想定していたという事実は裁判の根幹に関わる。だから認否をはぐらかすのでは」と話す。
 国の詳細な主張が出たのは、20日の口頭弁論が初めて。傍聴席からは「信じられない」「なんて不誠実」といった声が漏れた。
 潮見直之裁判長も「文書がないことの根拠は示す必要がある」と促したが、国側の弁護士は「必要性が分からない」と粘った。潮見裁判長の指揮で、6月下旬までに国が根拠を回答することで落ち着いたが、久保木弁護士は「イエスかノーかで済む話なのに…」と首をかしげる。
 一連の経緯について、訴訟を担当する法務省は「次回までに必要な主張をする」と説明。東電広報部は「係争中の案件のためコメントは差し控える」とした。
 原告側の馬奈木厳太郎(まなぎいずたろう)弁護士は話す。「国と東電はともに、裁判所すらも軽く見て裁判長の言葉に従おうとしない。事故への過失がないのであれば堂々と反論すれば良いのに国はせず、東電は今も『過失は争点にならない』と決め付け、裁判に臨んでいる。事故への責任をまったく自覚していない点が共通している」


脱原発へ「人格権」
東京新聞【こちら特報部】2014年6月3日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014060302000168.html
 関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転差し止めを命じた福井地裁の判決で根拠とされたのが、個人の生命や平穏な生活を保障する憲法上の人格権である。原告側は「画期的」と快哉(かいさい)を叫んだが、実は、北陸電力志賀原発2号機(石川県志賀町)の運転差し止めを認めた二〇〇六年の金沢地裁判決が最優先したのも人格権だった。脱原発を実現するためには、再稼働による人格権の侵害を堂々と訴えていく必要がある。
(出田阿生、上田千秋)

脱原発へ「人格権」 東京新聞【こちら特報部】

命を優先 司法の流れ
「最優位の権利」金沢判決が原点


「ひとことで言えば、司法の矜持(きょうじ)を示した判決だ。われわれに続く第二の判決が、3・11後にとうとう出てきた」
 06年の金沢地裁判決で裁判長を務めた井戸謙一弁護士は、大飯原発の運転差し止めを言い渡した樋口英明裁判長に賛辞を送る。
 今回の福井地裁判決までは、金沢地裁判決が原発の運転差し止めを認めた唯一のケースだった。福井地裁判決の原点である。原発が安全基準に適合するか否かではなく、人格権の侵害が起きる具体的危険の有無を判断する─。これが金沢地裁判決と福井地裁判決の大きな共通点となっている。
 井戸氏は金沢地裁判決で、人格権について「生命・身体・健康を中核とする権利」と定義。北陸電側が、住民側が示した疑問点にきちんと答えられるかどうかを検討した。
 その結果、「耐震指針の計算法が妥当ではない」「耐震設計は直下地震の想定が小規模」などと断じた。そして「北陸電の想定を超える地震で事故が起こり、原告らが被ばくする具体的可能性がある」と人格権侵害の危険性を認めたのだ。
 福井地裁判決も「人格権は法分野において最高の価値を持つ」と指摘した上で、「大飯原発から250キロ圏内の住民は、直接的に人格権が侵害される具体的な危険がある」と結論づけている。
 「われわれよりもさらに住民に寄り添い、表現を大胆にしている。行政の判断とは別に、司法は司法で判断するという姿勢を明確に打ち出した。今の憲法秩序からすれば、さまざまな権利の中でも人格権が最も優位というのは法律家の共通認識だが、ここまで判決で明言するのは珍しい」(井戸氏)
 では、なぜこうした考え方が、数ある他の原発訴訟で出てこなかったのか。井戸氏は「原発の設置許可取り消し訴訟の判例が影響していることが要因のひとつ」と分析する。
 設置許可取り消し訴訟では、もっぱら技術面が争点となる。具体的には「安全基準は合理的か」「安全基準に基づいて審査した原子力安全委員会(現在は原子力規制委員会)の判断は合理的か」の2点だ。基準そのものや、基準に基づく審査結果が妥当とされた場合、住民側がそれ以上の危険を立証できなければ敗訴する。
 原発訴訟の指導的な判例とされる伊方原発訴訟の最高裁判決(1992年)は、原発の設置許可取り消し訴訟では「現在の科学水準に照らして、行政庁の判断に不合理な点はないかをチェックする」という立場を示している。

命を優先 司法の流れ 東京新聞こちら特報部

「福島後」具体的な危険性明白

 人格権は、憲法の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(13条)、ならびに「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(25条)との規定によって保護される。
 広く国民の生活に根ざした権利のため、原発の運転差し止め訴訟に限らず、民事訴訟で争点になるケースは珍しくない。原発労働者の権利救済訴訟などを手がけている水口洋介弁護士は「名誉毀損(きそん)やプライバシー侵害などに関する裁判で特によく使われる論理」と解説する。
 実際に全国の裁判所では、人格権に基づいて原告の主張を認める判決が数多く出ている。仙台地裁は2012年3月、市民集会などを自衛隊が監視していたのは憲法違反に当たるとして住民が損害賠償を求めた訴訟の判決で「人格権が侵害された」と明言した。女性職員に対する上司の暴言がセクハラと認定されたり、暴力団事務所の存在が住民の平穏な生活を脅かしているとされたりするケースもあった。
 今回の福井地裁判決では、原発の運転が電力の安定供給やコスト低減につながるとの関電の主張について「多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いという問題を並べて論じるような議論に加わり、当否を判断すること自体、法的に許されない」と切り捨てた。
 福井地裁判決については、脱原発派などから「画期的」と評価する声が上がったが、推進派はおとしめることに懸命だ。
 全国原子力発電所所在市町村協議会会長の河瀬一治・福井県敦賀市長は「規制委員会の判断を待たず、司法が結論を出すことには疑問を感じる」とコメント。電力会社や原子炉メーカーの幹部、学者らでつくる日本原子力学会も「ゼロリスクを求める考え方は、科学技術に対する裁判所の判断として不適切」「対策を適切に行えば事故の再発防止は可能。原子力利用は人格権を侵すものではない」との見解を発表した。
 しかし、関西学院大法科大学院の神戸(かんべ)秀彦教授(民法)は「原発の稼働には危険があり、人格権が侵害されていることは明らかだ」と反論する。
 神戸氏が訴えるのは、福島事故の前と後とでは、裁判所の見方も変わっているという点だ。「抽象的な危険性だけだと人格権侵害ではないと言うかもしれないが、福島事故により、具体的な危険があることが分かった。その点を福井地裁も考慮したのだろう」
 原発の運転差し止め訴訟は全国各地で起きている。脱原発弁護団全国連絡会のまとめでは、使用済み核燃料再処理施設(青森県六ケ所村)などの関連施設を含めて現在、約25件もある。福井地裁判決は、原発訴訟の「標準」となるのか。
 水口氏は「福井地裁は、経済的な効率ではなく、守るべきものは何なのかをはっきりと打ち出した。今後の裁判でも人格権を認めることが基本になる可能性があり、影響は大きいだろう」と期待する。
 金沢地裁判決は、上級審で覆された。関電は22日、福井地裁判決を不服として名古屋高裁金沢支部に控訴した。
 前出の井戸氏は「私が判決を出した当時とは状況が違っている」と強調する。「司法判断は変わっていくのではないか。原発の停止で経済が大混乱しているわけではない。電気代の値上がりや貿易赤字の増加があったとしても、そうした経済の面よりも人格権が優先されるだろう」

脱原発へ「人格権」こちら特報部デスクメモ


規制委の「中立」基準 適用せず
東京新聞【こちら特報部・ニュースの追跡】2014年5月30日
規制委の「中立」基準 適用せず

原子力規制委員会の委員に田中知(さとる)東京大大学院教授を充てる政府の人事案に対し、2012年に定めた人選基準の「欠格要件」に当たるという批判が高まっている。政府は、基準から外れても違法ではないとするが、「中立公正」を目的とした人選基準をほごにしてよいのか。(出田阿生)

田中氏「アウト」なのに…
「民主党政権より後退」


 「独立性をもって、中立、公正な立場から職務を遂行できるベストの人事だ」。菅義偉官房長官は27日の記者会見で、人事案についてこう強調した。だが、「原発再稼働の布石」という見方は強まるばかりだ。
 東京電力福島第一原発事故をきっかけに、それまでの原子力行政に対する国民の不信感が急速に高まった。原子力規制委員会を発足させる際には、規制委の独立性や中立性、公正性などが国会などで大きな議論となった。政府は、「原子力ムラ」からの独立のため、規制委発足前の12年7月3日、法律とは別の厳しい人選基準を定めた。
 そこでは、委員長や委員になる資格のない「欠格要件」として2点を決めた。まず、就任直前の3年間に原子力事業者やその関連団体の役員・従業者だった人。もう一つは、同じく直前3年間に原子力事業者から個人として50万円以上の報酬を受け取っていた人。委員長や委員の「中立公正性と透明性の確保を徹底する」ことが目的とした。
 田中氏は、10~12年にかけて「日本原子力産業協会」(原産協会)の理事に就いていた。原産協会は、政府が関連団体として例示した「電力会社と強いつながりがある団体」の一つだ。また、東電の関連団体の「東電記念財団」から11年度に50万円以上の報酬を得ていた。これらは、人選基準を満たしているかを規制委が事前に把握するための自己申告書に本人が記入している。
 どうみても「欠格要件」に該当し、「アウト」だ。
 井上信治環境副大臣は28日の参院原子力問題時別委員会で、基準を適用せずに人選したことを認め、「基準は前政権が当時の内閣として作成し、活用したもの。今回は基準を適用するのではなく、法で定められた要件に照らして選定した」と、民主党政権時代の基準は踏襲しない考えを示した。
 東電記念財団は、電気やエネルギー分野の研究に助成などをしている。原子力規制庁の森本英香次長は「東京電力から運転資金の提供は得ていない」と強調した。だが、財団の理事長は東電元会長の田村滋美氏で、東電元幹部の役員がいることも考えれば、苦しい釈明だ。
 田中氏は、日本原子力学会の元会長で、これまで原発の利用に積極的な姿勢をみせていた。研究費として、直近原発メーカーの日立GEニュークリア・エナジーなどから計110万円の寄付を受け取っていた。
 田中氏の経歴が欠格要件に「抵触する」とブログで指摘した自民党の河野太郎衆院議員は「内閣が代わったから基準も変えるというのはおかしい。自民党はこれまで原発を推進してきた責任がある。だからこそ厳しい姿勢で人選に臨まなければならないのに、これでは民主党政権よりも後退したととられても仕方ない」と話している。


放射能汚染木くず 千葉で堆肥化
東京新聞【こちら特報部・ニュースの追跡】2014年6月1日
放射能汚染木くず 千葉で堆肥化

 滋賀県の琵琶湖畔に放射能汚染木くずが不法投棄された事件で、木くずの一部が千葉県市原市の造園会社で堆肥化され、放射能濃度を測定することなく外部に搬出されていたことが分かった。福島原発事故で汚染された木くずの処理は野放し状態だ。
(内田淳二、荒井六貴)

測定せず搬出 処理野放し
「不法投棄されない仕組みを」


 「汚染されているとは知らずに、場所を貸して堆肥にした。宮崎県などの木くずという話だった。迷惑している」
 市原市の造園会社の担当者は、困惑した表情でそう打ち明けた。
 問題の木くずは現在、どこにあるのか。この担当者は「木くずは昨年3月ごろ、千葉県木更津市の土木業者から運び込まれ、50トン近くを培養して堆肥にした。土木業者が数カ月後に搬出し、どこにあるか分からない」と説明する。
 だが、土木業者は「横浜市の団体役員から堆肥化を依頼された。搬出先は知らない」という。団体役員は、滋賀の不法投棄事件への関与が疑われている人物だ。団体役員は本紙の取材に「造園会社でほかの堆肥と混ぜられて使われたはずだ」と主張した。真相はやぶの中だ。
 確かなのは、汚染木くずからつくった堆肥の放射能濃度が全く分からないことだ。堆肥として使用できる国の基準は1キロ当たり400ベクレル以下。滋賀の汚染木くずから同最大3900ベクレルが検出されたことを考えれば、基準値を上回る堆肥がばらまかれた可能性は否定できない。
 農林水産省は遅ればせながら昨年12月、都道府県や業界団体に対し、放射能濃度が不明だったり、産地が不明確だったりする原料を堆肥づくりに使わないよう通知を出した。
 問題の木くずは、山梨県富士河口湖町内の民有地にも昨年4月ごろ、約40立方メートルが運び込まれていた。
ン地主の男性は、山梨県環境整備課の調べに「知人が堆肥のサンプルとして置いていった。引き取ってもらえなくなっている。汚染は知らなかった」と話している。
 木くずからは、1キロ当たり3000ベクレル前後の放射性セシウムが検出され、堆肥には使えない。放置場所は、公道から10メートルほどしか離れておらず、周辺住民からは、不安の声も寄せられている。
 放射能汚染廃棄物の処分は、放射性セシウムが1キロ当たり8000ベクレルを超えた場合は国が担う。しかし、今回の木くずのように8000ベクレル以下は、廃棄物処理法上の産業廃棄物として排出元が処分する。
 廃棄物の問題に詳しい熊本一規・明治学院大教授(環境政策)は「そもそも、放射能汚染廃棄物の処分を、ほかの産廃と同じにしたことが間違いだった。通常の産廃でも不法投棄が問題化しているのだから、汚染廃棄物で不法投棄が起きることは想定できた。汚染廃棄物が不法投棄されないような仕組みづくりが必要だ」と指摘する。

【滋賀の汚染木くず不法投棄事件】
滋賀県警は今年3月、廃棄物処理法違反などの疑いで、東京都千代田区のコンサルティング会社代表と、滋賀県近江八幡市の土木業者、横浜市の団体役員の計3人の関係先を家宅捜索した。3人は昨年3~4月、福島県本宮市の製材業者から排出された産業廃棄物の木くず310立方メートルを適正に処理しないまま、滋賀県高島市の琵琶湖近くに不法投棄した疑いがもたれている。滋賀県の測定では、木くずから1キロ当たり最大3900ベクレルの放射性セシウムが検出された。