小出裕章先生:それを知りながら、何の抵抗もしないまま生きることは、私には出来ません | 私にとって人間的なもので無縁なものはない

小出裕章先生:それを知りながら、何の抵抗もしないまま生きることは、私には出来ません



◆【小出裕章ジャーナル~第66回】
米国がウランとプルトニウムを返せと言った理由 2014/04/12

http://youtu.be/pn96F8EBGEU
アメリカが日本にウランとプルトニウムを返せと言ったわけは? 「高濃縮ウランやプルトニウムという物質を海外に出してしまうと、それがいつか原爆になってしまう危険性があるからです」~第66回小出裕章ジャーナル
http://www.rafjp.org/koidejournal/no66/
石丸次郎:
今日のテーマなんですが、「アメリカが日本にウランとプルトニウムを返せと言ったわけは」 ということでお送りしたいと思うんですが。

3月24日25日にオランダハーグで開かれた核セキュリティサミットで、 日本は米国に高濃縮ウランと分離プルトニウム331キロを返還するということが 発表されましたけれども。

よく分からないんですけども、このアメリカに借りていた 高濃縮ウランプルトニウムを返すというのは、 これどういう事なんでしょうか?

小出さん:
はい。 基本的に、高濃縮ウランとかプルトニウムという物質は原爆材料なのです。 例えば、私のところ京都大学原子炉実験所にも原子炉はありまして、 1964年に臨界という状態に達しました。 つまり、ウランの核分裂の連鎖反応が始められる状態になったのです。 その原子炉を作って京都大学に提供してくれたのは米国です。

そして、原子炉を提供する時に、その原子炉が動くように 高濃縮ウランも一緒に提供してくれました。 ですから、京都大学原子炉実験所でも高濃縮の原爆材料である 高濃縮のウランを使ってずーっと運転をしてきたのですが、 米国がある時に気が付きました。
原子力発電と原子爆弾の違い
こうやって高濃縮ウランやプルトニウムという物質を海外に出してしまうと、 それがいつか原爆になってしまう危険性があるという事になりまして、 京都大学原子炉実験所の場合は、確か1980年代の初めだったと思いますが、 米国がこれ以降はもう高濃縮ウランをやらないということになりました。

石丸次郎:
アメリカはもう提供しないという。

小出さん:
そうです。はい。 それで、それまでに米国から提供受けていた高濃縮ウランが ちょっと様々な経緯があって、京都大学原子炉実験所にありまして、 それをとにかく使うということで 京都大学原子炉実験所の原子炉もずーっと動いてきたのですが、 今から何年だろう、10年にはなりませんが、10年近く前に とうとう燃料が尽きてしまったのです。 京都大学原子炉実験所の場合には。

それで、どうするかという事になりまして、ちょっとした改造をしまして、 今は中濃縮ウランというものを使ってようやく原子炉を動かしている。 原爆にはならないというウランでやっているのです。

ですから、米国としては海外に高濃縮ウラン、 プルトニウムというものを渡したくないし、 一度渡してしまったものも何とかして取り返そうとしてきたわけです。

日本の場合には、私は、日本は米国の属国だと思っているのですが、 日本が米国の属国である限りはまあいいだろうと言って、 お目こぼしをしてきてくれたのだと思いますが、 最近の国際情勢の動き、特に、安倍さんの動きを見ていて、 米国が少し牽制をしなければいけないと気が付いたのだろうと私は思います。

66koide

石丸次郎:
なるほど。 日本には国内に10トン。 それから、海外の物も含めると44トンのプルトニウムを保有してると。 ということは、331キロというのは1パーセントですよね。

小出さん:
はい。
日本のプルトニウム保有量推移

※我が国のプルトニウム管理状況 (内閣府)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2006/siryo35/siryo12.pdf
我が国のプルトニウム管理状況

石丸次郎:
これは、そうすると、これだけアメリカが返すということを求めてるということは、 他の物は日本で作られたということですか?

小出さん:
はい。 44トンと今石丸さんがおっしゃって下さったのは、 日本の原子力発電所を運転して日本で作り出した物なのです。

ですから、基本的には米国の物では元々はなかったのですが、 日本の場合には日米原子力協定というのがありまして、 全ての核燃料物質は米国の規制の下にありますので、 場合によってはそれも米国に渡せというような話になるかもしれませんが、

※原子力の平和的利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定
http://www.nsr.go.jp/activity/hoshousochi/kankeihourei/data/1320751_006.pdf

今、日本が保有してる44トンのプルトニウムは、 核分裂性のプルトニウムが約70パーセントしか入っていないという、 そういうプルトニウムで、原爆の材料にはなりますけども、 高性能な原爆は作れないという、そういうプルトニウムなのです。

ただ一方、今米国が返せと言ってきた300キログラムの物は、 高性能な原爆が作れるプルトニウムなのです。 ですから、米国としては日本に渡しておくよりは、 もう使い道がないなら返させた方がいいと判断したのだと思います。

石丸次郎:
なるほど。 これは、日本がこのまま独自に核開発に進むかもしれない。 あるいは、日本からこの核物質が漏れ出してしまうかもしれないということを 憂慮してるということなのでしょうか?

小出さん:
はい。 今、石丸さんが的確にご指摘くださったように、 米国は2つの点を危惧してると思います。 1つは安倍政権がこのまま放っておくと、 核武装の方に行ってしまいかねないという危惧と、 もう1つは日本にプルトニウムを置いておくと、 他の誰かに盗み出される危険が大きいという、その判断です。

例えば、米国の場合には原子力発電所も含めて、 プルトニウム等の核物質は厳重に軍が管理しています。 原子力発電所への外部からのテロ、サボタージュということに関しても 軍がキチッと管理をしているわけですけれども。 日本の場合には軍がないわけで、米国から見ると、 日本に置いておくと危ないという判断はずーっと昔からありました。

石丸次郎:
なるほど。 もう一方で、先ほどお尋ねしたように、 日本にはアメリカに返した331キロのプルトニウム以外のプルトニウムがあると。 ただ、質の高い爆弾を作れるものではないということなんですけども。

この残りの99パーセントですね、44トン。 日本国内に10トンあるというもの。 これに対しては、アメリカは放っておいてもいいという判断なんですかね?

小出さん:
これまでは日本は米国の属国だからまあいいだろうというふうに 判断していたのだと私は思います

ただし、あまりにも大量ですので、これから米国に引き渡せという話が 出てくるかもしれないと思いますし、 今現在イギリスにある分もあるのですが、それはイギリスが引き取ってもいい というようなことをつい先日も言い出しましたし、

日本は使い道のないプルトニウムは持たないという 国際公約をさせられていますので、実質的に使い道がありませんから、 場合によってはイギリスに渡す、あるいは、米国に渡す、 ということも起こりうるかもしれません。

石丸次郎:
なるほど。どうもありがとうございました。 小出さん、また宜しくお願い致します。

小出さん:
こちらこそ、宜しくお願いします。

核兵器に転用可能なプルトニウム所有量、世界一覧
核兵器に転用可能なプルトニウム所有量、世界一覧

英、プルトニウム長期保管も視野に日本と交渉

英MOX加工工場「新設」暫定方針

http://dai.ly/xmqc0f
イギリス政府は1日、原発の使用済み核燃料から取り出したプルトニウムをMOX燃料に加工する新工場を建設するという暫定方針を発表しました。イギリスで保管され、行き場がなくなっていた日本のプルトニウムを引き取る可能性にも触れています。
 イギリスのエネルギー・気候変動省は1日、イギリス国内に大量に備蓄されているプルトニウムの処分方法について検討した結果、MOX加工工場を新設して燃料に加工し、国内の原発で再利用することが「好ましい」との結論に達したと発表しました。
 MOX加工工場はすでに中西部のセラフィールドにありますが、不具合が相次いだうえに、福島第一原発の事故の影響で主要な取引先である日本の需要が不透明になったことから、今年8月、閉鎖が決まっていました。
 日本の各電力会社は、この工場向けに使用済み核燃料を輸出してきたため、イギリス国内にプルトニウムの在庫を抱えていますが、イギリス政府はこうした日本のプルトニウムについても、利益が出るようならば引き取る用意があるとしています。
 新工場の建設地としてはセラフィールドが有力ですが、工場の新設はあくまで暫定方針で、イギリス政府は安全性や採算に確信が持てるまでは実行には移さないとしています。
(2011年12月3日 09:25)


【IWJブログ】
核安全保障サミット、日米がプルトニウム返還で合意 その政治的意味とは

http://iwj.co.jp/wj/open/archives/131920
★会員無料メルマガ「IWJウィークリー43号」より転載しました。毎週IWJの取材をダイジェストでまとめ、読み物を加えた大ボリュームでお届けしています。ぜひIWJ会員に登録し、ご覧ください。会員登録はこちら

 3月24日、核安全保障サミットに参加するため、オランダのハーグを訪れていた安倍総理は、日本政府が米国から提供されていた高濃縮ウランとプルトニウムを米国に返還すると発表した。24日、ホワイトハウスが、オバマ大統領と安倍総理の共同声明というかたちで発表した。

日本、高濃縮ウランとプルトニウム返還で米と合意(ロイター、3月24日)

日米、核不拡散協力で合意 プルトニウムの一部返還(日本経済新聞、3月24日)

 返還が決まったのは、茨城県東海村の日本原子力研究開発機構が、高速炉臨界実験装置(FCA)用に保管していた、すべての高濃縮ウランと331キロのプルトニウムである。

 安倍総理は核安全保障サミットで演説し、2011年3月11日の東京電力福島第一原発事故の経験を踏まえるとしたうえで、高濃縮ウランとプルトニウムの返還について、「日本には核セキュリティー強化を主導する責任がある。私自身が先頭に立って進める。日米協力の下、代替燃料を用いて最先端研究を行い、核テロ対策と研究開発を両立する」と、その意義について語った。米国にプルトニウムを返還することは、核によるテロを想定し、日米が協力して対応するための措置だ、というのである。

 しかし、今回のプルトニウム返還決定の持つ意味は、はたしてそれだけだろうか。米国からのプルトニウム返還要求について、IWJは、東京都知事選が告示された直後の1月下旬から、その政治的意味を考えるため、精力的に取材を重ねてきた。

◆プルトニウム返還、その政治的意味とは◆

 1月27日、共同通信が、「オバマ米政権が日本政府に対し、冷戦時代に米国などが研究用として日本に提供した核物質プルトニウムの返還を求めていることが26日、分かった」と、第一報を報道。この報道についてIWJが外務省に取材すると、対応した軍縮不拡散・科学部、不拡散・科学原子力課の首席事務官は、「核セキュリティー強化の中で、アメリカだけではなく、世界的に核テロの脅威となる物質をどんどん減らしていこうという大きな方向性があり、そのような中で出てきた話であると承知しておりまして、具体的な中身についてはコメントを差し控えたいと思います」と回答。はぐらかすような言い方であるが、共同通信の報道を否定はしなかった。

【米、プルトニウム返還を要求】オバマ政権が日本に  300キロ、核兵器50発分/背景に核テロ阻止戦略(共同通信、1月27日)

【IWJブログ】米国から日本政府への研究用プルトニウム「返還」要求について、外務省「ノーコメント」

 今回、日本が返還に合意したのは、茨城県東海村に保管されている331キロのプルトニウムだが、日本には、全体で44トンのプルトニウムが既に蓄積されている。これは、長崎型原爆であれば、じつに4000発分に相当する量である。

 日本がこれほどまでのプルトニウムを蓄積することになったのは、日本政府がこれまで、原発で出た使用済み核燃料を「再処理」してプルトニウムを抽出し、それを再び原発で燃料として使用する「核燃料サイクル」をエネルギー政策の柱として採用してきたからである。この「核燃料サイクル」は、原子力に関する技術を日本側が包括的に運用することを認めた、1988年の日米原子力協定によって可能となったものだ。

 現在、高速増殖炉「もんじゅ」の運転停止により、この「核燃料サイクル」の実現見通しは立っていないが、プルトニウムを生み出す「核燃料サイクル」の技術を維持することは、「兵器級プルトニウム」を蓄積し、核兵器を潜在的に保有することに、ほぼ等しいと言うことができる。

 私が、2月4日にインタビューした、文芸評論家で早稲田大学教授の加藤典洋氏は、米国からのプルトニウム返還要求の政治的意味について、「日本から中庸が消える」と指摘した。

 日本は戦後、「原子力の平和利用」の名の下、原発を導入した。しかしそれは、「平和利用」という大義名分を盾に、原発から出るプルトニウムによって核技術抑止能力を持つための手段であった、というのである。加藤氏は、戦後の日本は、「原子力の平和利用」「非核三原則」という側面、核技術抑止という側面、そのどちらが日本の本音なのかを明らかにはしないという「あいまい路線」、すなわち「中庸」を取ってきた、と指摘。しかし、その「中庸」が今、消えつつあると言うのである。


http://youtu.be/WoE0B8zf06I

2014/02/04 日本から「中庸」は消えるのか 米国からのプルトニウム返還要求について考える ~岩上安身による文芸評論家・加藤典洋氏インタビュー

 私が2月3日にインタビューした、京都大学原子炉実験所の小出裕章氏も、米国からのプルトニウム返還要求を、「明らかな政治的メッセージだ」と断言した。

 小出氏は、靖国神社への参拝や集団的自衛権の行使容認といった、安倍政権の暴走に眉をひそめる米国は、日本に対して、従来の「中庸」路線をそう易々とは認めないのではないか、と指摘し、米国からのプルトニウム返還要求は、中国との間で政治的緊張を高める日本に対して、強い警告を発する米国からの政治的メッセージと受け取れる、と語った。


http://youtu.be/R5Ni4n13zP4

2014/02/03 米国からのプルトニウム返還要求「明らかな政治的メッセージ」~岩上安身による京都大学原子炉実験所助教・小出裕章氏インタビュー

【IWJ特報!127+128号】原発と核兵器技術の保有はコインの裏表~京都大学原子炉実験所助教・小出裕章氏インタビュー

◆日本政府は「核燃料サイクル」を諦めていない◆

 今回、日本が米国による331キロのプルトニウム返還要求に応じたからといって、「核燃料サイクル」と、そのコインの裏表の関係にある潜在的核保有を諦めたと言うことはできない。事実、日米がプルトニウムの返還に合意し、共同声明を発表したのと同じ24日、自民党と公明党は、近く閣議決定される見通しのエネルギー基本計画案に関するワーキングチームで、「核燃料サイクル」の柱である「もんじゅ」を存続させる方向で合意した。「もんじゅ」は、いまだ稼働の見通しが立っていないが、にも関わらず、政府は、「核燃料サイクル」を諦めていないのである。

もんじゅ:自公が存続を条件付き容認で一致(毎日新聞、3月24日)

 安倍総理は、核安全保障サミット後の記者会見で、海外の記者から、「なぜ日本は大量の核物質を保有し続けるのか? 危険ではないか?」と問われ、「我が国の取り組みは、核セキュリティサミットの目的と完全に合致している」と、答えにもなっていない答えを披露した。安倍総理のこのはぐらかすような答弁からは、日本におけるプルトニウムの蓄積が、本心では、潜在的核保有のためであるということがうかがわれる。

安倍総理 プルトニウム大量保有に関し弁明(テレビ朝日、3月26日)

 私は2月12日、この「核燃料サイクル」を可能とするべく1988年に締結された日米原子力協定(包括協定)で、交渉の実務を外務省で担当した、遠藤哲也氏にインタビューを行った。遠藤氏の口からは、実務担当者にしか知り得ない交渉の生々しい舞台裏から、「核燃料サイクル」の今後の展望、そして日本の核武装の可能性まで、貴重な証言が次々と飛び出した。


http://youtu.be/_1VpdJPsMTA

2014/02/12 核燃料サイクルと「核技術抑止」政策のこれから 日米原子力協定の交渉担当者・遠藤哲也氏に岩上安身が聞く

 このインタビューは、詳細な注を付し、さらに遠藤氏が2012年10月4日に行った日本記者クラブでの講演の文字おこしと、遠藤氏が2007年発表した論文「日本核武装論の問題点~日本にとって現実的な政策オプションたりうるのか」を付録として添付し、メルマガ「IWJ特報!」でお届けする予定である。この機会にぜひ、ご購読いただきたい。



核兵器と原発は一卵性双生児
戦後の極秘文書が語る「原発推進のウラ事情」【1】
(PRESIDENT Online)2011年12月26日
http://president.jp/articles/-/5210
核兵器の英訳は“nuclearweapons”で、原子力の英訳は“nuclearpower”――まったく同根のはずのこの両者を、いつの間にか日本人は別物と思い込んでいた。

20世紀最大の事件は、米国による日本への2つの原子爆弾投下である。広島にはウラン型、長崎にはプルトニウム型の核爆弾がそれぞれ落とされた。コードネームはおのおの「リトルボーイ」と「ファットマン」。未曾有の破壊力とそれによる惨劇のありさまは、世界中に核兵器の強大な威力を思い知らせた。人類が目撃したその恐怖は戦後、世界の政治と経済に2つの効果をもたらす。一つは「核均衡による緊張と平和」、もう一つは「新エネルギーとしての原子力発電」である。

日米安保条約に基づく米軍駐留の対価として米国の「核の傘」で経済復興に邁進した日本は、原発事故を予測して警鐘を鳴らし続けた学者や情報を知りえた国民の反対を押し切り、政府が原発を導入する。「核の平和利用」という御旗を立て国策として進められた原発は、“絶対に安全な夢のエネルギー”として「世界有数の地震列島日本」に次々と林立した。自民党政権が54基にまで増やし続けた原発を、民主党政権でさらに14基増設しようとしていた矢先の11年3月11日、福島第一原発事故が勃発する。

原発推進を強行するため、経産省と電力会社が巨費を投じて宣伝してきた「安全、低コスト、必須エネルギー」という神話がすべて偽りであったこと、電力会社が原発に固執する理由が巨大な利潤にあったことは、これまで数回にわたり論証してきた。また、原発には巨大事故リスクとは別に「使用済み核燃料」という廃棄物の危険性もある。使用済み核燃料とは、長崎型原発で使用されたプルトニウムを含む高レベルの放射性核廃棄物だ。スリーマイル島とチェルノブイリの事故を通じて、今回のフクシマで起きた原発事故が世界中に放射性物質を撒き散らしていることも、人類はすでに知っている。

そもそも、発電から廃炉に至るすべての工程に危険を孕み、しかも、その安全確保を論理的に完結できない原発は、とても実用化できる“科学技術”とは呼べない。それが巨大技術ともなればなおさらだ。そのため、今回のフクシマ事故を機に国内でも多くの国民があらためて政府に脱原発を求めている。

ところが、国民と国体をここまで危機に至らしめた原発事故の収束も覚束ない中で、政府はなおその再開に拘泥し続け、電力会社は国民の注視をものともせず平然と「黒塗り報告書」を提出する。

スリーマイル島事故が起きる前から原発事故の危険性に警鐘を鳴らし続けた物理学者の故・武谷三男は、その著『フェイルセイフ神話の崩壊』(技術と人間、1989年)でこう話している。

「(ウランの)濃縮度を少なくしておくのは何が目的かというと、プルトニウムをとり出すためです」「割合早く燃料棒を交換しながらプルトニウムを精錬してゆく。そのプルトニウムは何の目的であるかなんていうことをいろいろ議論して、一つは高速増殖炉のためであるとか、もう一つは原爆用であるとか」「原爆の方が手っとり早い話でしょうね」「核兵器と原発は一卵性双生児だということ。原発というのは、原水爆保有国が付随的なものとしてつくりだしたものなんです」。

核兵器から生まれた原発がプルトニウムを生み、それを精錬して核兵器を拡大再生産するということだ。いうまでもなく、鍵は使用済み核燃料にある。

11年10月29日、民主党政権は福島第一原発事故の汚染廃棄物に関する中間貯蔵施設の工程表を公表した。「2012年度中に中間貯蔵施設の建設地を決め、2014年度に県内で発生した土壌などの廃棄物の搬入を開始。中間貯蔵は30年以内で終了させ、その後、県外で最終処分する」という。

しかし、安心して封印できる放射性核廃棄物の「最終処理場」は現在、世界中のどこにもない。人類の科学は、半世紀にわたる核技術研究を経た今も、その危険性をなくす技術どころか、封印する場所さえ見出せないのだ。ガラス固化体技術で固めても、地層最終処分の技術がなければ結局、問題は解決しない。にもかかわらず、最終処分する「県外」とはどこか? 汚染された瓦礫の“中間貯蔵地”が結局は最終処理地になるかもしれないことを、もはや誰もが予測している。

一方、使用済み核燃料をリサイクルする目的で建設されたのが、青森県でいまだ試運転中の「六ヶ所村再処理工場」や、相次ぐ事故で停止中の高速増殖炉「もんじゅ」と「常陽」だ。再処理工場は原発の使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出して再び核燃料へと加工し、高速増殖炉はプルトニウム239を作り出して核燃料サイクルを実現するという構想である。前者は、もし再び巨大地震に見舞われて福島第一原発と同じ事故がそこで起きれば世界中の人々が被曝するほどの核廃棄物を抱え、今現在も放射性核廃棄物を撒き散らしている。後者は、事故後に停止したまま「夢のサイクル」だけが唱えられ続けている。いずれも政府と電力会社が説明してきた役割を果たさないまま、貪るように莫大な税金や電気料金を喰らい続けている。

六ヶ所村再処理工場は、使用済み核燃料プールの最大貯蔵量3000トン、年間処理能力800トンとされている。根強い反対運動でまだ工場は本稼働していないが、燃料プールはすでに満杯だ。国内の原発から吐き出される使用済み核燃料は年間1千数百トン。処理施設が足りないのである。これまで再処理を依頼してきた英仏からは、固形化された核物質が送り返されてくる。しかも、福島第一原発のプールにも3000体以上の核燃料が保管されている。最終処分場もなければ再処理工場も稼働できず、高速増殖炉のサイクルも機能しないということだ。

高速増殖炉が生む軍用プルトニウム

そうなると、政府が計画する中間貯蔵施設は、福島を「東北」というくくりで六ヶ所村と一体的に“接続”しようとする計画ではないかとの疑いが生じる。なぜなら、原発を再開したい国と電力会社にとって、暗礁に乗り上げた処理問題が付け焼き刃とはいえ“解決”するからだ。


10月31日、来日したベトナムのグエン・タン・ズン首相(写真左)と官邸で会談した野田首相。すでに2010年10月、日本企業が原子炉2基の建設を受注済みで、今後も主に新興国など海外向けの原発の輸出を本格化させる。(PANA=写真)

核廃棄物の中間貯蔵は米国の路線でもある。米国はブッシュ政権以来この10年間、「先進的燃料サイクルイニシアチブ」(AFCI)で核廃棄物の最終処分法を模索してきた。しかし、オバマ政権は11年7月29日、中間報告で大きく方針を変える。AFCIによる最終処分模索から「中間貯蔵路線」への方向転換だ。一国では処理できない大量の放射性核廃棄物を多国間連携で“処理”しようというものだ。米国追従の日本政府にとって、福島と六ヶ所村との接続は、新たな“指令”に応えるものとして、米国への次なる“貢献”ともなる。

だが、いずれにしろ当面の再処理は壁にぶつかっている。中間貯蔵施設の工程表を公表した同日、玄葉光一郎外相はインドのクリシュナ外相と会談し、「原子力協定の締結に向けた交渉を進める方針で一致した」と報じられた。原子力協定は原発関係の輸出入に必要とされる事前協定であるため、この方針決定で日本が原発関連事業を「国策」として続けることが国内外にあらためて明示されたことになる。当面の再処理はインドも担ってくれる。これも「多国間連携」か。

実は、06年3月の米印原子力協定合意時、インドの高速増殖炉は高純度プルトニウムを抽出できることが判明している。冒頭の「長崎原爆」に使用された核物質も、44年に米ハンフォード核施設が作り出した高純度のプルトニウム239。核兵器に使う「軍用プルトニウム」は、低濃縮ウランへの中性子照射で生じる一連の核分裂反応でプルトニウムを抽出し、さらに再処理技術でその純度を高めて抽出される。20数年前に武谷が示唆した「核兵器と原発は一卵性双生児」との指摘はこのことだ。従って、「核兵器廃絶」という呼びかけとは裏腹に、真意は核兵器を保有し続けたい国家にとって、原発は「軍用プルトニウム」入手に必要不可欠な「燃料製造装置」ということになる。

第489回外交政策企画委員会記録

事実、国内外に向けて核開発を否定してきた日本の中枢でさえ、実は核兵器開発構想を秘めていたらしいことを94年に毎日新聞が報じ、続いて10年秋にはNHKが報じた。その後、10年10月に秘密解除された外務省の極秘文書では、それが事実であることが明らかになった。開示された文書「わが国の外交政策大綱」には次のような文言が謳われている。

核兵器については、NPTに参加すると否とにかかわらず、当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘を受けないよう配慮する」(「大綱」67ページ)

「1969年9月25日」の日付があるこの「大綱」は、同年7~9月に当時の外務省外交政策企画委員会でなされた議論を103ページにまとめたものだ。

同じく秘密解除された極秘文書で、実はいまだ、どのメディアにも報じられていない同委員会の興味深い議論がある。

まず、66年2月16日付「第360回外交政策企画委員会」議事録の13ページ。

「沖縄にある核兵器も同様問題となろう」

「日米間のごとく同盟関係にあれば、常に保有国と見做され、核攻撃の対象とされることになろう」

「日本はいつも保有国とされうるわけだ」

「従来のソ連の解釈によると、『核兵器』の範囲は極めて広いようだ。弾頭に限らず、運搬手段はもとより、その発射施設もこれに含まれている。このような解釈であれば、日本にある米軍の施設も、核兵器とみなされうる」

「原子力空母、原子力潜水艦はこのよい例である」


次は、68年11月20日付「第480回外交政策企画委員会」議事録の46~47ページ。

「もう一つ聞きたいのは、高速増殖炉だが、それをずっと使っていくと、だんだんプルトニウムがたまって、それが原子爆弾になるから、それ以上核燃料に頼らなくても自然に爆弾は出来上って行くのだという説をなす人があるが」

「……今の型の炉で動かして行くとどんどんプルトニウムが溜って行く。そして高速増殖炉が出来るような時点になれば、今度はそのプルトニウムを高速増殖炉の燃料に使うことができるわけである。今は、プルトニウム燃料というのは補完的な燃料にしかならないが、高速増殖炉が出来るまでの間、プルトニウムは使い道がなくて溜って行く。ほとんど実験用の用途しかないわけである」

「それはすぐ爆弾にはならないのか」

「いや、なる」

「そうすると次の問題は、いかにしてその爆弾を運ぶかということだろうが」


未曾有の危機に瀕して国の針路を問われている平成の今、その判断を選挙権行使で間接行使するしかない国民が知るべき事柄は、国家中枢官僚による「核兵器保有構想」が単に過去の構想で終わった話にすぎないのか、それとも現在も受け継がれている計画なのかという問いへの答えである。傍点個所をつないで読み、併せて、現在進行中の政府と電力会社の「不可解な政策や挙動・言動」を傍証として見据えれば、もはや説明の必要はあるまい。これらが物語る隠された事実は、原発が間違いなく核兵器の開発を準備するものであり、その急所は「今停止中の高速増殖炉が高度に純化された軍用プルトニウムを生む」ということだ。政府は、少なくとも高速増殖炉が軌道に乗るまでは原発を国策からはずしてはならないと考えているということだ。それを承知で天下りの席まで用意しているからこそ、電力会社上層部には鉄面皮の対応が許されているのではないか。

※すべて雑誌掲載当時



小出裕章 原発と憲法9条
(遊絲社)
http://www.yuubook.com/center/hanbai/syoseki_syousai/syousai_genken9.html
小出裕章 原発と憲法9条未来は、私たちの手の中にある

「原子力の問題というのは、単なるテクニカルな問題ではないのです。憲法9条の理念や、私たちがどうやって生きていく、どうやってこの国を作っていくかという、非常に根本的な問題ともリンクいている。」
この国が原子力をすすめる意図はどこにあるのか。要するに核兵器を持ちたい、こういうことなんだと私は思っています。そう思いながら・・・・・・・・・・いや、それを知りながら、何の抵抗もしないまま生きることは、私には出来ません。
歴史を見つめ、事実と向き合い、未来につなげる。
一貫して原子力に反対してきた小出裕章(京都大学原子炉実験所助教)の、渾身のメッセージ!

目次より
●「原爆・原発と憲法9条」
●「私が原子力に反対をする根本的な理由」(4月13日『FMわぃわぃ』インタビューより)
●「どんなに苦しい事実であっても」(10月31日『FMわぃわぃ』インタビューより)


小出裕章氏 講演 「原爆・原発と憲法9条」

http://www.ustream.tv/recorded/16262497
2011/07/27 堅田9条の会例会