きょうの特集③震災から3年③風評と闘う「福島産」野菜 | pooh-blog

pooh-blog

日々の出来事等を書いていきたいと思います。

東日本大震災から3年

風評と闘う「福島産」野菜

 東京電力福島第1原発事故後、国の基準値を超える放射性物質の検出が相次ぎ、東北や関東の一部の農産物に対する消費者離れが進みました。中でも、福島産を取り巻く環境は厳しく、産地にとっては今も試練の日々が続く。事故から3年。数値の上では安全を確保しながら、「風評」という見えない敵と闘う現場では、店頭から業務用への販売の転換も始まっています。
野菜 市場で地位低下
 農産物は原発事故以降、出荷前に福島県による放射性物質のモニタリング検査が続けられている。事故直後は野菜などから当時の国の暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)を超える放射性セシウムの検出が相次いだ。だがその後、畑の表土を削り取ったり、表層と下層の土を反転させたりして農地の除染を行い、基準値を超える比率は下がった。
 野菜と果物では、2012年春からの新基準値(同100ベクレル)超えは12年度が全7271件中7件、13年度(2月末現在)は全5734件中ゼロだ。しかも12年度以降はほとんどが検出限界値(同約5ベクレル)未満だった。各農協などでも自主検査を実施するなど、産地では徹底した安全管理も行っている。シイタケやナメコなど原木や菌床を用いた栽培キノコ類では、原木や菌床を管理した結果、12年度以降は検査対象が全て基準値以下。現在、基準値超えが出ているのは、山菜や野生のキノコといった除染できない山林で育ったものに限られている。
 しかしこれにより、福島産の野菜などの価格が震災前に戻ったかと言えば、そうはなっていない。JA全農福島が扱った野菜のキロ単価は11年度の312円から、12年度は豊作で流通量が増えたこともあって244円へ大幅に低下。13年度(2月末現在)は324円と今度は大幅に上昇し、震災前の10年度の340円にも近づいている。だが13年度の価格の回復について、全農福島の担当者は「夏場の高温など栽培に不利な気象が重なり、全国的に野菜の生産量が少なかったことが大きく影響している」と説明。福島の販売数量も前年度の95%と減っており、14年度が豊作になれば福島産は途端に価格が下がる恐れがあるという。
 東京都内の市場関係者も「小売業者でも業務用を扱う業者でも、福島産を扱わないところはいまだにある。検査による安全確認の情報が末端まで行き届いておらず、受け入れは簡単にいかないだろう」と話す。
 福島産が劣勢なのは全国平均と比較すると顕著だ。東京都中央卸売市場で震災前も今も4割のシェアを占める主力のキュウリ。震災前は市場で最高値がつくプライスリーダーだったが、12年度には全国平均も下回った。13年度で持ち直した形となっているが、市場関係者の見方では、東北産が出荷ピークを迎える夏場の悪天候でライバルの岩手や秋田の出荷量が福島以上に減少し、比較的安定供給できた福島産の需要が増したことなどが原因という。「風評被害は完全には抜けていないですよ」。春からの出荷に向け、育苗ハウスで種をまいていた伊達市のキュウリ農家、橘一郎さん(65)は厳しい口調で言った。JA伊達みらいでは毎年、特産のキュウリが旬となる6~9月、首都圏のスーパーに女性生産者を派遣して消費者にPRしているが、
「福島産はまだ買えない」という声が少なくないという。橘さんは「生活するために頑張るしかない」と声を絞り出した。主力のキュウリ以外の品種はさらに厳しい。震災前は全国平均をやや下回る程度だったシュンギクは、震災後一気に低迷し、13年度も平均の約1割安。かつては全国を上回っていたシイタケは、平均の1~2割安にとどまっている。
コメは業務用にシフト
 主食として消費者の関心が高い米。福島では全量全袋検査という徹底した流通管理が定着しているが、消費者の拒否反応は依然根強い。店頭での売り場を失った福島産は、一般家庭以外の飲食店やコンビニなどに販売先をシフトし、産地の見えない業務用として生き残りをかける。だが、ブランドを守り育ててきた生産者の思いは複雑だ。福島では原発事故があった2011年、暫定規制値超えが出たが、その後、作物のセシウム吸収を抑えるカリウムを土壌に入れるなどの対策を徹底。12年から実施している放射性セシウムの全袋検査で、12年産は約1034万袋の99.8%、13年産(3月1日現在)は約1092万袋の99.9%が検出限界値(1キロ当たり25ベクレル)未満だった。基準値(同100ベクレル)超えも12年産で71袋、13年産では28袋と減少。基準値を超えたものは検査段階ではじかれ、市場には流通していない。
 それでも、販売では苦戦を強いられている。震災後の業者間の取引価格では、食味が良く業界でも評価が高かった「会津コシヒカリ」さえ、かつては同レベルだった北陸産に60キロ1000~1500円の差(約1割安)をつけられている。JA全農福島によると、原発事故後、福島産の扱いをやめた小売店が県内外で相次ぎ、単価が安く産地表示がない業務用米に充てる比率が増大。猪股孝二・米穀部長は「震災前は店頭と業務筋が半々くらいだったのが、震災後は業務筋が8割近くに増えた」と変化を説明する。
 ライフスタイルの変化で、外食やコンビニ弁当などの中食に使う業務用米の需要は高まっている。猪股部長は「業務用だからマイナスというわけではない。外食・中食の需要は今や家庭消費量に迫る成長産業で、業務用へのシフトは全国的な流れでもある」と強調する。販売価格の下落は現在のところ、原発事故賠償の対象にもなっている。
 それでも、産地への誇りを胸に米作りに汗を流してきた農家は悔しさを隠さない。米どころ・JA会津みどりの長谷川正市組合長(64)は「長い時間をかけて築いたブランド米を、我々は自信を持って出してきた。スーパーの棚に並べることもできないのは、本当に悔しい」と話す。