いつか書いた会話集【ド長文警報(^_^;】 | るこノ巣

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隙間の創作集団、ルナティカ商會のブログでございます。

皆様こんばんは、流川のーら。でございます。

折角此方でブログを開設出来ましたので、普段書いている小説のようなものをお披露目するのもアリかなあ、と思いまして。

手始めに、過去にとある投稿サイトで書いた会話集を、恥ずかしながらお披露目致します。よくある恋愛ものだったり、幽霊が出てきたりしますので、苦手な方はご注意くださいませ。

【ないけど、いいの?】


「お前は一体、何の用なんだ?」

「あ、あの……えっと……」

「用があるからやっているのだろう? 違うのか?」

「い、いやその……てゆーか貴男、わ、私がその……見えてるの?」

「む? 質問に質問を返すなと言いたいところだが、確かに少し強引だったかも知れないな。答えよう、見えてるから言ってるし触れたから引っ張った。さあ、今度はお前の番だ。俺は答えたのだから、お前にも答えて貰わないと不公平だ」

「ううっ……えっと、用事、と言うか、その……」

「殆ど毎晩だろう。俺の部屋側の壁を叩いたり、そこのベランダの仕切りから覗き込んでみたり。よっぽどお前の部屋で問い糾してみようかと思ったけど、そんな理由で大家から鍵を借りてくるのは面倒だし仕切りの壁は乗り越えられないし。だからいつものように伸びてきた手を引っ張ったんだ。それとも、あれはお前じゃないというのか? 他に該当者が居るなら言ってくれ、その時はちゃんと謝るから」

「ああっ、ち、違います……じゃなくて、えっと……わ、私、が、やってます……」

「その理由は?」

「……あの、か、確認の為お聞きするんですが、私が生きてないってことは……」

「む? 死霊だろう」

「はい……」

「生きてるか死んでるかは、この際構わないんだ。数日前に越してきたばかりだからお前は知らないだろうが、俺は一応物書きを生業としている。だから睡眠は一般の人人に比べると安定していないが、それでもいざ寝ようとする時にどんどんと壁なんぞ叩かれては迷惑だし、覗かれてもあまり気分の良いものでもない。お前だって着替えを覗かれたりしたら嫌だろう? 飽くまで生前の話かも知れんが」

「はい、それはもう……じゃなくて。あの……って、すみません、長くなってしまうと思うんですが……」

「構わんよ。さっきも言った通り物書きだ、出勤の時間を気にしたりすることはない。疑問が解決するならいくらでも聞こう」

「分かりました……只、私にも最近のことは能く分からないんです」

「分からない?」

「はい。死んだのは……自殺、なんですけどね」

「そんな自嘲めいた顔をしなくても良い。自殺する者を責めるような趣味はない」

「すみません……それで、半年位前、だったかな……に、自殺したんです、その……隣の部屋で。二年付き合ってた彼に振られちゃって……その数日後に、元元契約してたのか私への嫌味なのか分からないんですけど、新しい彼女と隣の……今の貴男の部屋に、住むようになったんですね」

「この部屋か」

「はい。此方の部屋は角部屋だからお気づきでないかとも思うんですが、このアパートって、壁が結構薄くって、だから、毎日聞こえてくるんです会社から帰ってくる度に、彼と、新しい彼女の楽しそうな声が……それを聞いてるのが悲しくて苦しくて、振られただけでもご飯が喉通らないくらい落ち込んでたのに、そんな声を毎日聞いてたら、もう頭がおかしくなりそうで……おかしく、なっちゃったんでしょうね……気がついたら、死んでました」

「ああ、よく見れば手首、酷い傷があるな。切ったのか?」

「はい、とは言っても覚えてないんですけど。自棄のようにお酒飲んで、包丁なんか使ったみたいです。ベッドの脇に、血塗れの包丁と一升瓶が転がってたから。ふふっ、一升なんて……私、下戸なのに……」

「そうか、酒の勢いでそのまま自殺したのか。だから、記憶がないんだな」

「はい。ただ、死んじゃったことで、もう……絶対、どう頑張っても、彼が私に振り向いてくれることがなくなったんだって分かって、それでもう、悲しくて悲しくて、毎日部屋で泣いてました。死体が片付けられて、家具も何にもなくなっちゃったけど……何処かに行くのも、彼の声が聞こえなくなって悲しくて、聞いてるのが悲しくなったのに……」

「確かに、一度仕切りから頑張ってそっちの部屋を見たが何もなかったな」

「それで……浅ましいとは思うんですが、隣の部屋を覗くようになりました。覗いたって、余計悲しくなるだけなのに……本当に、悲しくて、いつの間にか、悔しくて、腹が立ってきて……おかしいですよね、私が勝手に死んだのに腹立たしいなんて……でも、本当に腹が立って……彼が私を捨てないで……いえ、せめてもう少し優しく振ってくれたら、彼等が隣にさえ来なけりゃ私は死なずに済んだのに、とか……今から考えたら、勝手な被害妄想です。でも、あの頃はもう私……訳が分からなくなってました……いつの間にか、彼、居なくなっちゃって……それで一層、悲しくて、悔しくて……」

「怒りに囚われて、それで壁を叩いたり?」

「多分……ごめんなさい、本当に能く分からないんです自分では。ただ、悔しい、悲しい、腹立たしい、そればっかりで……時時、ふっと我に返った時に手が痛いなあとか、思うことはあったんですが……それ以上は全然、覚えてないんです。でも、それも悲しくて……今日、貴男が私の手を引っ張って、あの部屋から引き剥がして、それでようやっと、これだけ思い出せたんです……え?」

「あ、すまん。俺自身は触れてもハンカチは触れないのか」

「あ、あの……」

「生きていようが死んでいようが、美人が泣いているのは見ていて心苦しい。拭えるなら拭おうと思ったのだが、無理だったようだ」

「び、美人って……」

「そう思ったから言っただけだ。なるほど、妙に家賃が安いから不動産屋に問い糾してみたんだが、前の住人が発狂して飛び出したと言っていたな。同棲相手の女性が錯乱した挙げ句に自殺して、男本人も逃げるように出ていったと。それが原因だったのか」

「そう……だったんですか……私の所為、ですよね……」

「それを言い出すとキリがなくなるぞ。お前の姿を仮に見たのだとしても、壁を叩く音を聞き続けたのだとしても、或いは他にもまだ何かあったとしても、嫌ならもっと早く出ていけば良かったのだ。そいつらはそいつらで、理由は知らんし興味もないが、その道を選んだ。それだけのことだ、お前が気に病む必要はない」

「は……はい……」

「ふむ……となると、今のお前は、どういう心境なのだ? 先程、俺がこっちに引っ張り込んで正気を取り戻せた、という旨のことを言っていたが」

「えっと……そうですね……矢っ張り、淋しい気持ちは、変わりません。今のこの部屋は、彼の居た部屋とは全然違ってて……でも、どうしても、彼を思い出しちゃうのは変わらなくて……まだ、上手く言えないんですが……」

「整理が着かんか。なら、どうだろう。俺も無茶な問い方をしたのを申し訳ないと思っているし、普通に遊びに来ては」

「えっ?」

「俺は大抵一人で居る。そりゃあ、時には出版社の人間も来るだろうし、俺も買い物に出ることもあるが、殆どの時間をこの部屋で過ごしている。自力では来られないなら、手を出してくれれば俺が引っ張る。気が済むまでで良い、淋しくなったら、遊びに来ると良い」

「あ、遊びに?」

「そうだ。自殺しているなら、自力では死んだ場所から動けないかも知れない。逆に言えば、動けるようになればお前の悲しみや苦しさが何とか解消されたという証になるかも知れんが。それまででも良いし、お前自身が飽きたならもっと早く止めても良い。一つだけ注文を付けさせてもらうなら、壁を叩くのは止めてくれ。どうだろう? 矢張り嫌だろうか、いきなり部屋に引き摺り込むような男と暇潰しなんぞは」

「い、いえっ……そんなこと、全然……でも、い、良いんですか? 私、生きてないですけど……」

「生きているか死んでいるかは構わない、と言っただろう? 只悲しい淋しいだけで過ごすよりは、マシだと思うから提案しているだけだ。まあ、俺も実のところ、全くの一人で作業しているから、時時淋しいと思うことはあるんだが。折角こうやって話が出来るのだ、もっと色色喋ってみるのも一興だと思うぞ。む? また泣かせてしまったか……」

「いえ、う、ううっ……嬉しくて……こんなことっ、は、初めて言われてっ……あ、ありがとうございますっ、よ、よろしく、お願いしますっ」

「ふむ、それなら良かった。此方こそ、宜しく頼む」

                             ないけど、いいの? 了


長えよ(`Δ´)
というご意見は、ごもっともです(;´▽`A``
でも、これっぱかしの文量を分けて書くと余計に読みにくいかなあと思いまして……
という訳で、本日は妄想会話劇のお披露目でした。ここまでお付き合い頂きまして、大変恐れ入ります。流川のーら。でした。