小宮泰造(こみや たいぞう)
背番号16
登録ポジションは外野。
リトルリーグの経験はなく、中学の部活で野球をはじめる。
グランド整備や球拾いなど、雑用を嫌がらずに率先してやる姿ばかりが印象に残ってた。
しかも僕と秋成がレギュラーに抜擢されると、不満を抱えた二年の控え組が雑用をせずに小宮くんに押し付けることもしばしばだった。
それでも彼は自主練習を怠ることはなかった。
外野手の練習の後は、彼が独自に磨き続けた
アンダースローが、この局面を託された何よりの証だった。
速球とチェンジアップで押す真山先輩の後に、小宮くんの極端なサブマリン投法はかなり有効なんじゃないかな?
でも、三振を取るタイプじゃなくて、内野ゴロで打ち取るタイプだから、僕はしっかり捕球しないと…。
****
七球の投球練習を終えた小宮くんは、僕たちの方に振り向き…。
「た、玉野君!エラーなんかするなよ!
エラーした時点で僕の勝ちだからな!」
小宮くんがわざと自分を鼓舞する為に言ってるのはわかってる。
辛い練習の中で彼は心の中の女子に何度も救われたことだろう。
僕だって東瀬が居たから頑張ってこれたし、秋成に追い付け追い越せでやってこれたけど…。
「ぼ、僕が誰を想ってるかは、多分もう気付いてるだろうが…とりあえずこのバッターを打ち取るからな!」
「わかった、わかった。
さっさと処理してやるから早く投げな。」
この時、僕は秋成の「処理」って言葉を「打球を」だと勝手に思い込んでいた。
僕たちと同じ一年生として、マネージャーの東瀬に憧れる気持ちがあり、東瀬が暫く休んでたことで秋成を恨む気持ちもわかる。
藤田さんとどこかで繋がりがあり、グランドでいきなりキスした秋成に怒りがあるのもわかる。
誰を好きかわからないけど、今は打者に集中してよ…。
山大付属は全員が小宮くんの投球練習を凝視していた。
球筋をしっかり見極めるつもりだろう。
深く沈み込む独特のフォームから繰り出される第一球。
相手打者はアンダースローに特に動揺するでもなく、一球目から振ってきた。
「アンダー特有のナチュラルシュート武器だろうが、俺達は都倉のツーシームに慣れてんだよ!」
自信満々に初球をフルスイングしたが、
「曲がりながら落ちるシンカーか?」
当たり損ねショートゴロ
秋成が処理してチェンジ。続