「あのカイザー丞相がトール神を演じて、女神フレイアの女装まで!?あ~観たかったな~。」
幼なじみのエマとの談笑は深夜にまで及んだ。
お互いに紅茶とお菓子と果物を持ち込み、明日の「首脳会議」に向けての事前対策を練った…つもりだったが、エマの話す内容はいつも通り脱線しまくり、両国の外交問題に発展しかねないこの問題を真面目に考える気は見られず、それぞれの噂話に終始した。
「う~ん、ロイと観劇が出来て嬉しいのはわかるけど、演者と演目がそれじゃあ喜びも半減よね~。
やっぱりオーケストラ(無料劇場)で恋愛歌劇でも観て来たら?
お互いの気持ちが盛り上がるはずだし、あの無神経なロイも、少しはリディアちゃんのデリケートな心情に気付いてくれるんじゃない?」
「れ、恋愛歌劇だと…?
ま、まだ早い!
あれは家庭を持つ夫婦が観賞するものだ!
未婚の男女で観賞するなど破廉恥な!
それにそもそも、ロイが恋愛歌劇に誘うわけなかろう!」
「やだ、遅れてるわね、リディアちゃん。
最近は女からオーケストラに誘うのは普通よ。
それに未婚の恋人同士でも恋愛歌劇くらい観るわよ!」
「そ、それが巷の作法なのか…?では、まさか…。」
「バカね、そこは女の方から手を握ったら負けよ!
自分を安売りした時点で男って生き物は調子に乗って、女をメイドか娼婦扱いするだけなんだから!」
(じゃあ肩を抱き寄せられた私はどうしたら良かったのでしょうか?エマ先生…。
お前絶対に複数の貴族や騎士から誘われては断り続けてるだろう…!
王子付きメイドはやはり人の目に止まるのだな、いいなあ…いや、エマは子供の頃からそんな性格か…。
ロイもやはり、私みたいな女より、エマみたいな女らしい女と結婚を望むのだろうか?)
「…でね、恋人同士でも恋愛歌劇を観る人達が増えたのは…。」
「あぁ、どういう理由だ?」
「表向きは学術劇や神学劇なのに、女優さんが肌も露な絡みを熱演する作品が増えたのよ!
じゃあ恋愛歌劇でも一緒じゃないって風潮みたいよ。」
「何と嘆かわしい…。
それこそ内務大臣のロイに風紀を取り締まってほしいな。」
「今、熱狂的な支持者を集める『アルフォンソ=パウエル』って劇作家の作品が凄い人気なの。会場に入れない人も居るくらいよ。」
「アルフォンソ=パウエル?」
「知ってるのリディアちゃん?」
「知ってるも何も彼はロイが尊敬する歴史学者だ!台本も書けるのか」
続