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たった二人でトロルの城に乗り込んだトール神と従神ロキ。
トール神は花嫁フレイアに化け、ロキは介添え乙女に化けていた。
城の中のトロル達は早速婚礼の儀式に取りかかった。
花嫁になりすましたトール神は、雄牛を丸ごと一頭、鮭を八匹平らげてしまった。
その上ビールを三樽飲んだので、トロル王スリュムは、これは怪しい、と思った。
対テロリスト特殊部隊は正体を見破られるのか?
危機一髪、ロキが言い繕った。
「フレイア様はこの一週間何も食べていないのです。
なにしろユートゥンハイメンの地に来るのが楽しみで…。」
スリュム王が花嫁にキスしようと、ヴェールを上げると、トール神の恐ろしい眼差しを見て飛び退いた。
今度もロキがフォローする。
「花嫁は輿入れが嬉しくて、この一週間、一睡もしていないのです!」
スリュムは槌を持ってこさせ、式のあいだ、花嫁の膝にのせておくよう命令した。
槌を膝にのせられた時、トール神は思い切り高笑いした!
遂に槌が我が手元に戻ったのだから!
トール神は槌を一振りすれば、雷は正確にスリュム王に直撃し、二振りすれば後続のトロルを簡単に絶滅させた。
(参考資料 『ソフィーの世界』)
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カイザー丞相は見事な怪演だった。
祭りの部隊では、予め調理された鮭を、花嫁衣装の屈強な男が雄々しく平らげる所が一番の盛り上がる。
そしてトリックスターの様に立ち回る従神ロキが見え見えの弁明をし、それを信じるトロルの愚鈍さに観衆は笑の渦に包まれる。
だが、舞台上のカイザー丞相は、あくまで「大食漢の女性」として、優雅さを維持して鮭を食べ、ビールを飲み干した。
カイザー丞相は従神ロキの配役も抜かりはなかった。
本来なら面白おかしい小男が、見え見えの女装をするのだが、ロキ役の役者は本物の女性を抜擢していた!
介添え乙女に扮することで本来の女性に戻ることで、今までが男装だったのか、とまた驚く。
つくづくカイザー丞相を恐ろしく感じる。
多分、舞台上の女は丞相の影の護衛兼愛人と言ったところか?
いや、問題はそこではない。
もうすぐロイとの観劇が終わってしまうではないか!
婚前交渉が厳禁のヤハウェ教信者において、未婚の男女は観劇だけが交際のきっかけとなる。暗黙の慣習では劇が終わるまでに男から女の手を優しく握り、払いのけなければ承諾の意だ。
女からは許されない。
ロイ、早くしてくれ、握り返す準備は出来てるぞ。
続