勲章と指環 8 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

「あぁ、ジオン、私のジオン…。
何処にも行かないで!私から離れないで…。」

「姫…。私も同じ気持ちです。」

「ミネルバと呼んでくれないと嫌です。
ジオン、貴方だけが私を王女扱いしないことは、私に取って至福の悦びであることはご存知でしょう?
さぁ、早くこんな重苦しい装備は私が脱がせて差し上げます。」

「ミネルバ…。君はいつの間に…?」

「乳母のライラと近衛兵のヨーゼフ夫妻は、ジオンと同じく私個人の幸せを想う、私が信頼を寄せる者です。
私の気持ちを汲み、殿方を喜ばせる…いえ、ジオンを悦ばせる作法の手解きを受けましたわ。
自分で服も着たこともない私が、貴方の服の脱がせ方を学ぶなんておかしいですわね…。」

ジオンはわかっていた。
歯に衣着せぬ「外国人」の自分だけがミネルバ王女の「世間」であることを。

出会いは偶然だった。
僅かな警護を連れてお忍びで花見に出かけた時、野盗が王女の馬車を狙い、それを助けたのがジオンだった。
風来坊のジオンとその子分は
「先を越された」腹いせに野盗を蹴散らせただけだった。
礼金を貰うか、礼金が少なければ自分達で王女を襲うつもりだった。
だが…疑うことを知らないミネルバ王女の瞳にジオンも惹かれていた。
世界中を放浪したジオンの語りはミネルバ王女を虜にした。特に自分が一度も見たことない『海』での冒険劇は、どんな家庭教師の授業より魅力的だった。
やがて自分が姫として生まれた運命を呪うようになった。

「ジオン、今日貴方がここに来たということは首尾は上々でしたか?」

「はい、確かにハイネ殿下はスールシャール王国国内の女性に求婚しました。」

「まぁ、喜ばしい!リュングベリが邪魔しなければ晩餐会、いえ、舞踏会を開きたいぐらいですわ!」

「ミネルバ、焦りは禁物です。計画は着実に進んでますが、ジョン=カイザー大臣と行き違いになったのは誤算だった…。」

「よいではありませんか。
口うるさいジョンがいないから、こうやって日の高いうちから図書館の司書控室で、お互いに生まれたままの姿を…。」

「いえ、私の勘ではカイザー殿は既に殿下の求婚の情報を掴んでいる!
だから急いでスールシャール王国に抗議へ向かわれたのでしょう。あいつは…そういう奴だ。だから国王陛下も…。」

「そんなのどうでもよいではありませんか。
ジオン、私は貴方と一緒に『海』を一目見れるなら、王宮も王位も何も要りませんわ。」


続く