そう、私達が魔界で出会った男女の悪魔は快く?私達を宮殿に案内してくれた。
私もミカエル様も、傷の癒えてないルシファーちゃんが宮殿の主に囚われていると思っていた…。
そして謁見の間で私達が目にしたのは…。
「余が大魔王サタンである。
アビス(奈落)の宮殿までようこそ、ミカエル殿。
そして…ウリエル…殿…。」
端正な顔立ちの青年。漆黒のマントも冠も、誠実な瞳を隠すことは出来なかった。
ルシファーちゃんの姉である私はすぐに全てを飲み込んだ。
ルシファーちゃんの恋人であるミカエル様も気付いたが、動揺を隠し切れなかった。
隣では私達の護衛のインドラさんが今にもサタンに切りかかろうとし、護衛悪魔と目で牽制していた。
能天使は好戦的だ。
悪魔との戦いを仕事としているから仕方ないのだろうが。
インドラさんを止めたのはミカエル様の言葉だった。
「ルシファー…なのか…?」
目を逸らすことなく大魔王サタンを見つめ、絞り出すように言った。
意外だったのはサタンの反応だった。
怒るでもなく、嘲るでもなく、ルシファーと同じ寂しく憂えた瞳でミカエル様に言った。
「その答えはイエスでありノーだ。
余とルシファーは同じ肉体を共有しているが、その魂は別だ。
余はルシファーの悲しみと嘆きと絶望から生まれた男性人格。
『憤怒の魔王サタン』だ。」
ミカエル様に切られた右腕は再生していた。
でも妹の心の傷は深く、自我を封印し、男性人格と交代した。
私にはルシファーちゃんの悲しみよりも、目の前のサタンの悲しみの方が心配で…
「貴方は貴方だと言うなら、エデンの記憶はあるの?」
「ウリエル…様。勿論…です。
ウリエル…様、ラファエル…様、ガブリエル…様、そして私を創造してくれた父様達と母様達は、ルシファーの目を通して、ずっと見てきました。
だからこそ、余は諦められないのです。
まずは魔界を掌握し、再度天界に乗り込める軍勢が整うまで!」
「貴様!やはりそれが目的か!ならば今すぐ私の手で…。」
「インドラさんやめて!
彼を切れば妹のルシファーも消えるわ!
それに…。」
「それに?」
「姿形は悪魔でも、彼は私の大切な弟だわ!」
「ウリエル…様?」
「サタンくん、貴方まで苦しまないで。君さえ良ければ、『姉さん』て呼んでいいよ。」
ヤハウェを憎み、ミカエル様を恨んでない彼はまさに弟だった。
だって私はミカエル様が好きだったのだから。