ここのところ、しつこいくらい続いている素人のど自慢番組の話題です。ネタの古さもしつこいくらいで、この人がアメリカン・アイドルで準優勝したのは2010年のことでした。

同年中に、自作の曲11曲とカバー曲1曲のフルアルバムをリリースしていることからもわかるように、素人のど自慢番組の定番であった、歌は上手いが詩を書けるとは限らない人達とは、異種の人でした。

番組放映中も、インディー系実力派シンガー・ソングライターが初めてアメリカン・アイドルに応募してくれて番組の質が上がったと、審査員から感謝されるほど、既に完成されたアーティストでした。その完成ぶりは、Tracy ChapmanのGive Me One Reasonをカバーしたこのパフォーマンスでも明らか。可愛らしい童顔から意表を突く余裕の声量は、圧巻です。


番組放映中に私が一番好きだったパフォーマンスは、これ。The Impressionsの1965年のシングルPeople Get Ready のカバーですが、詩の内容は、ゴスペルです。簡単にまとめると、「備えよ、列車が来る。ただ飛び乗るだけでいい。切符は要らない。主に感謝して乗るだけで良い。」という詩です。

主に感謝(Thank the Lord)というキリスト教用語が出てくるので、キリスト教になじみのない方には、ちんぷんかんぷんだと思いますが、私が当ブログで常に言いたいと思っている「宇宙に感謝していれば幸福であることができる、能力も何も要らない、感謝さえあれば」ということと、同じ事を言っているのです。(と私は思います。)

クリスタルは、こののど自慢番組に出てきた時点で24歳、子持ちのシングルマザーで、貧乏な家庭に育った自分が決して持てなかったものを生まれてきた赤ん坊に与えたいというのが、応募の動機でした。両親が2歳の時に離婚し、実父、実母、継母の間の争いが絶えず、家庭内暴力で父親が刑務所に行ったこともあるという家庭環境でした。そういう過去を背負って、道端やバーで歌って小銭を稼ぐという大道芸人の貧困生活を抜け出すために、アメリカン・アイドルに応募したところ、予想外に実力を認められて快進撃し、この歌を歌った日、この歌の意味が初めて実感できる状況にあったというようなことを言っていました。だから、最後の方で、感極まって泣いてしまいます。



幸福は、臨時列車のようなものだ、感謝して飛び乗るだけでよい、切符は要らない、というこの詩の意味を感じ取れるほどの痛みと、そこから感謝によって不意に救われる喜びを、24歳という若さで悟っていたんだなあ、と感心しました。

準優勝後に発売されたアルバムのタイトルはFarmer's Daughter(農家の娘)。家庭内暴力の中で育った娘が、母と決別し故郷を捨てる宣言をする詩です。胸が潰れそうに悲しい詩なのですが、クリスタルの声と故郷を捨てる決意宣言がパワフルで、希望を感じられる詩になっています。



なぜ、今日、この歌手の記事を書くかと言いますと、今年、自分用のクリスマスプレゼントに買ったアルバムが昨日届いたからなのでした。YouTubeで観るだけではなく、正規ルートで正規アルバムを買いましたから、歌詞カードも付いていて、この歌手が考えていることがよくわかります。悲しかったこと、辛かったことの痛みを忘れたわけではないけれど、うまく行かない時には、居場所を代える、移動することによって、前へ前へと進もうとする、そういう勇気と気概を感じられるアルバムです。

最後に余程お暇な方向けのおまけ。
アルバムに収録されている唯一のカバー曲は、Buffalo Springfield のFor What It's Worthで,
アルバムの3曲目に入っています。オリジナルの曲は今日まで知らなかったのですが、聞き覚えのある曲でした。私がこの曲を最初に聞いたのは、デイブ・マシューズ・バンドのニューヨーク・セントラルパーク・コンサートでのカバーでした。このパフォーマンスの質の高さは、私がどうのこうの言う必要のないレベルなので、とにかくそのままお楽しみください。



因みに、このコンサートは収録されアルバムになって発売されています。http://www.amazon.co.jp/Central-Park-Concert-Dave-Matthews/dp/B0000UJLMS
2500円くらいしますが、その10倍以上の価値はあるので、お金の余裕のある方は、ぜひお買い求めください。

このビデオの最後の2分くらいに歌っている歌が、For What It's Worth のサビの部分です。オリジナルはどんな曲だったかというと、ベトナム戦争反戦運動時代に、若者達に、世の中の動きに注意を払え、恐れずに何かしろ、と呼びかけた反戦歌だったのですね。



で、クリスタル・バウワーソックスはこんな風にカバーしたのでした。さすが、パワフルです。



とこのように、歌の話になると芋蔓式に、延々続いてしまうので、この辺で打ち切り。

最後に、この記事を書くことが可能になるために貢献してくださった総ての赤の他人の皆様(YouTube開発者・管理者の皆様、YouTubeにアップロードしてくれる皆様、ギターその他の楽器の発明者・製造元・販売者の皆様、音楽家の皆様、音楽収録に関与される皆様…等々考えれば切りが無い何百万人という赤の他人の皆様)に大感謝して、終わります。

本日もお立ち寄りいただきありがとうございました。