そのときは彼によろしく | *アンチハリウッド的* 映画論

そのときは彼によろしく

そのときは彼によろしく

【発行年】 2004
【発行】  小学館
【著者】  市川拓司
【あらすじ】
小さなアクアショップを営む智史は、水草と常連の客たちに
囲まれて変化のない生活を静かに生きていた。
ある日、ひとりの美しい女性がアルバイト募集の張り紙を
見てやってくるのだが・・・。

【ひと言】
優しい文章と素直な登場人物たち。
心穏やかになれる作品です。

【読んだ時期】2005年初夏
------------------------------------------------

「いま会いにいきます」が映画化され人気作家となった
市川拓司の著。
ひねくれ者の私は、「泣いた」とか「よかった」って言われると
かえって興味がうせてしまうので、「セカチュー」同様、敬遠
してる部類の作家さんのひとりでした。
(セカチューは2006年2月現在も未読w)

ある日、本屋でみかけた「本屋大賞」のポップ。
そこで紹介されていたのがこの本でした。
余談ですが、私は本屋大賞の評価は、本を選ぶとき、けっこう
参考にしている気がします。
芥川賞とか直木賞などの賞は、文字を書くプロの人にとっては
素晴らしいものなのかもしれないけれど、それがそのまま素人で
ある私の「おもしろい」っていう評価につながるかといえば、
そうでもない気がして・・・
(私の勝手な思い込みかもしれませんが)


本屋大賞は本屋で働く「本に携わる、本好きの人たち」が選んだ
作品で、少なくともプロの作家や評論家といった人よりはずっと
私に近い感覚や価値観を持ってる人たちの評価だと思うから
素直に読んでみようという気持ちになるのです。

ほかにも恩田陸の「夜のピクニック」や角田光代の「対岸の彼女」
などが並んでいましたが、手に取ったのはこの作品。

「そのときは彼によろしく」っていうタイトルに惹かれました。
そして「彼って誰のことなんだろう」「どんな場面でこの言葉が
出てくるのだろう」っていう興味がわいてきました。


------------------------


読後の感想。
初恋と友情をテーマにした話なのですが、途中からの展開には
驚きました。いい意味で予想もしなかったおもしろさでした。

市川拓司ってこういう作風が多いのかな。


「名は体をあらわす」じゃないですが、「文は人をあらわす」ものだ

と思いました。

どこって言われると、具体的にいえないのですが、全体を通して

流れる空気がとても柔らかく、市川拓司という人は、主人公智史

のような穏やかで純粋な人なのだろうと思いました。

読後、何とはいえぬ大きなものに包まれたような気がしました。


今思えば、思い出っていうのは「長さ」ではなく、「濃さ」で決まる

ような気がします。

中学時代を思うと、3年間同じクラスで過ごした友達よりも、中学

1年で引っ越してしまった友達の方がよりはっきりと強烈な印象を

持って私の中にあったりします。

この作品の場合、智史も裕二も花梨の3人が、同じくらいの強さで

同じ気持ちを持ち続けたってところが美しいと感じました。


3人でいた時代のことが、3人それぞれの現在にも影響している。

例えば智史は自分の店に、3人で飼っていた犬の名前をつけたり。

遠く離れて暮らしていても、心はずっとそばにあるのでしょうね。


気になっていた「そのときは彼によろしく」っていう言葉も、私の

予想とは全然違っていました。でもとてもステキな言葉でした。

とても好きな話でした。