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2016-12-09 15:48:56

恋愛ドクターの遺産(6)変化−1

テーマ:日記・雑記
「最近いかがですか?」
先生が尋ねた。今日はこばやんがまた来ている。

「そうですね。相変わらず苦しいときはあります。」
「まだ、一番の問題が未解決ですからね?」
「そうですね。そのことを思うと、やっぱり気持ちが重くなります。」
「そうですよね・・・こういう状況の時は、どうしても心に負担がかかります。」

「はい・・・あ、でも、例のごほうび付きのウォーキング、最近はよくやるようにしています。歩いているときは結構忘れていられるというか、むしろ元気に歩けますね。」
(その言葉、さては気に入ったな)なつをは思った。
こばやんは今日は「ごほうび付きのウォーキング」という言葉をすらすらと言った。おそらく前回のセッションで気に入って、自分の中でも、この言葉を何度も使っていたのだろう。

「そうですか。それは何よりです。一番しんどかった時を0点、何もかも良くなった時を100点としたら、今は大体何点ぐらいですか?」

「そうですね・・・40点ぐらいじゃないでしょうか。」
「なるほど。40点。それって何の40点分なんでしょうね。何があるから、40点なのですか?」

出た!スケーリングクエスチョン。なつをは思った。
先生はこの質問を使うことが結構多い。今何点ですか、と状況を聞きながら、同時にポジティブなことに目を向けさせるという、カウンセリングの高等テクニックだ。

以前、なつをは初めてこの質問を教わったとき、ドクターに「その質問、私もよく使います」と生意気な発言をして・・・例によってダメ出しをもらったことがある。なつをが言及したのは、例えばフィギュアスケートの演技を終えた選手に「今日の出来は何点ですか?」と訊くような、あの質問だった。点数を数字で表すなんて、よくあること、と、知ったかぶりをしたのだった。今でもそのときの、ドクターのがっかりした顔が忘れられない。「その質問とは似ているが本質的なことが違う。たとえば90点と答えたら、なぜ100点じゃないのか、減点したのは何なのかを訊くことが一般には多い。減点法だ。でも、カウンセリングでは絶対にそれをしてはいけない。完璧主義で自分を苦しめているクライアントも多いが、その質問をすればますますその傾向を強めてしまう。そうじゃあなくて、『何があるから○点なんですか?』と、あるものに意識を向ける、加点法の質問をすることが大事なんだ。」
そう、加点法で「何があるから・・・」とあるものに意識を向けさせるような質問をするのが、このスケーリングクエスチョンのコツなのだ。ドクターは質問の達人だ。さりげないが、大事なポイントは絶対に間違えない。
「えぇと・・・最近は、美味しくご飯が食べられることが多くなりました。」
「それは何よりです。」
「それから、例のウォーキング。歩いているときは、わりと清々しい気持ちになっている気がします。」
「そうですか・・・そんなところですか?」

「あと、意外と職場の人・・・あ、実は、離婚の危機かもしれない、ということを同僚に話したのですが、男性の同僚はもちろん、女性も結構味方になってくれて、親身に話を聞いてくれたりして、ここのあたりが固くギューっとなっていたのがほぐれたというか、温かくなったというか・・・」

こばやんは胸のあたりを手のひらで示した。そして続けた。

「とにかく、味方が結構多いと感じたことは大きかったですね。人って優しいな、というか。」

「それはきっと、こばやんのお人柄ですね。今までの仕事や人付き合いで、良い関係を築いていらっしゃったんですね。」

「あぁ・・・ありがたいことです。」

こばやんは、はっとした様子で顔を上げて、ドクターを見て言った。
「あ、なんか、65点ぐらいな気がしてきました。」

「ほう、65点! 結構いい線行ってますね!」
「そうですね。なんか、結婚の問題は、まだ解決していないですけど、支えてくれる人もたくさんいるし・・・と思ったら元気が出てきました。」

何も基礎知識がない人がふたりの会話を見たら、何気ない会話、何気ない質問と回答を繰り返しているように見えるかもしれない。でも、こんな短時間で、明らかにこばやんは気持ちが明るく変わっている。やっぱり先生はスゴい、なつをは思った。

「なつを君。椅子を用意してください。」
「え・・・あ、はい。」
突然こちらに話しかけられて咄嗟に返事が出なかった。なつをはいつもドクターのセッションを観客みたいな気持ちで聞いてしまうのだ。

なつをが椅子をもうひとつ持ってくると、ドクターは立ち上がり、その椅子を自ら持って、こばやんの横に、こばやんの方を向けて置いた。
「こばやん、こちらの椅子の方を向いていただけますか? 椅子ごとお願いします。」

こばやんが椅子の向きを変えると、ちょうど、こばやんが座っている椅子と、新たな椅子とが向かい合った状態になった。なつをは知っていた。これはエンプティーチェアという、カウンセリングの技法だ。ドクターはこれからそれを実施するのだろう。

しかし、それから10分間ぐらいの先生の質問、そしてこばやんとのやりとりは、なつをにはよく理解できなかった。先生は色々ホワイトボードに絵を描いて質問したり、こばやんに何かを言わせたりしていたが、それが何を探るためのもので、結局何を探し当てたのか、よく分からなかった。

しばらくして、空の椅子を手のひらで指し示しながらドクターが言った。
「ここに、そうですね。仕事のストレス・・・そうですね。会社がもしかして立ちゆかなくなるかもしれない、というストレスが最大だった頃のあなたがいるとイメージしてみてください。」
「はい。」

なつをは、こばやんの表情がみるみるこわばってきたことに気づいた。心理セラピーにおけるワークは、想像の世界で、ある意味、虚構の世界ではあるが、それが本人にとっては、相当のリアリティーのあるものだったりする。この場合も、すでに過去の出来事なのに、その当時のような緊張感がよみがえってきている。

(つづく)




引用元:恋愛ドクターの遺産(6)変化−1
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2016-12-08 17:07:16

恋愛ドクターの遺産(5)セッション−3

テーマ:日記・雑記
「ところで、こばやん、もし、タイムマシンに乗って当時・・・つまりストレス度がマックスだった頃に戻ってやり直せるとしたら、元気補給や、健康維持のための、どんなことをしたいですか?」

「そうですね・・・食べ歩きですかね。」
「食べ歩き!?」

こばやんは、絵に描いたような中年太りのおじさんだ。決して不健康そうではないが、少し小太りだし、あごもうっすら二重あごだ。そのこばやんから、健康のために食べ歩きをする、と聞いて、なつをは心の中で「おいおい」とツッコミを入れた。

先生も同感らしく、ちょっと驚いている様子だった。

「いや、そうですよね。ウォーキングの方がいいですよね。でも、ただ歩くだけ、と思うとモチベーションが続かないので、しっかり歩いたら、美味しい物を、食べ過ぎないようにしながらですけど、食べる。それを『食べ歩き』と称して、彼女とつき合っていた頃・・・あ、彼女というのは今のカミサンですけど・・・よくやっていたんですよ。」

「ああ、なるほど。終わったあとに美味しい食事のごほうび付きの、ウォーキングね。」

「そういう言い方をすると、心身に良さそうに聞こえますね。」
ふたりは楽しそうに笑った。

「いいと思いますよ。あ、でも、奥さまと一緒にされていたんですよね? 新婚当初とか?」

「はい。でも、カミサンと険悪になってからは、次第にやらなくなりましたね。たべある・・・いや、ごほうび付きのウォーキングは。」

「今からまた、美味しいごほうび付きのウォーキングを再開することは出来ますか? 奥さまを誘うのは今すぐだとハードルが高ければ、お一人でも、お友達を誘ってもいいと思うので。」

「はい。結婚後もそうやってひとりで歩いたりしたこともありました。本当は気持ちよかったんですが、いつの間にか忘れていました。ええ、またやってみます。」

「では、今回はこんなところで・・・ご相談ありがとうございました。」

「こちらこそ、ありがとうございました。」

 

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引用元:恋愛ドクターの遺産(5)セッション−3
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2016-12-07 17:06:02

恋愛ドクターの遺産(5)セッション−2

テーマ:日記・雑記
今日のクライアントは、なつをが前回のセッションの時に「愛情飢餓」ではないのか、と先生と議論になった、その、こばやんだ。でも先生は愛情飢餓説には全く興味を示さない。そして、初めて積極的に質問をしたのが・・・つまり先生が「食いついた」ということなのだが・・・会社の危機からくる仕事ストレスの話だった。

「いえ、特に何も・・・仕事でいっぱいいっぱいで、気晴らしや運動など、本当にする時間も余裕も無かったですから。」

「そうですか。こばやんは、会社で、次第に、些細なことに過敏になったり、あるいは、周りの人から『最近扱いづらくなった』みたいに言われる事はありませんでしたか?」

「えっ!? どうして分かるんですか? 確かに、会社の危機が続いて、仕事に没頭して・・・とやっている頃、だんだん、周りの人がデスクで立てる音が気になって注意したり、それでも気になって、耳栓をしたり・・・周りの人から『最近変だよ』とは時々言われてました。」

「そうですか。なるほどね・・・やはり、仕事上のプレッシャーというか、会社がどうなるか分からない、どうにかしなくてはいけない、という危機感、責任感、重圧、そして、焦りみたいな物も感じていらっしゃったかもしれませんね。」

「いや、その通りです。焦りです。重圧もありましたが、自分がこの状況を打開できるだろうかという不安と、打開できなかったら会社はどうなってしまうのだろうという焦り・・・今思い出しても気分が悪くなります。」

「本当に大変でしたね。家族を守るためのお仕事で、神経をすり減らすことに・・・そして会社まで守らなければならないという重圧・・・お察しいたします。」

なつをの目から見ても、この瞬間、クライアントがふっと肩の力が抜けていくのが分かった。表情が急にゆるんで、目にうっすら涙が浮かんだ。こんな変化があったときは、クライアントの問題は一気に進展していくことが多い。今日も先生のセッションはスゴいのひと言だ。やはり核心は幼少期の愛情飢餓問題ではなかったのだ。仕事からのストレスにパッと光を当てて、簡単な質問で、クライアントの「分かってもらいたい」ポイントにたどり着く。




引用元:恋愛ドクターの遺産(5)セッション−2
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