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なつをの夏の物語(24)|恋愛ドクターの遺産第10話

「おめでとう!!!きゃー、なんか私までドキドキして来ちゃった。」湯水ちゃんがかなり興奮している様子で言った。
セッションの時なら「落ち着いて下さい」とドクターにたしなめられるところだが、今日は仕事ではない。ドクターもニコニコして湯水ちゃんを見ている。とは言え、ドクターは冷静だ。「ということは、合計で大体10回ぐらいのチャレンジの後、手を握ることができた、ということだったわけですね。」話を興味本位で聞いていた割には、ちゃんと計算している。
「あ、そうですね。こうしてまとめてみると、確かに、『手を握ってみる』という課題だから10回もできたのかもしれません。『手を握る』だったら10回ほど失敗して・・・いや、そこまで行く前に既に気持ちが重たくなって、折れてしまったかもしれません。」
「そういうことです。『手を握れた』のは今回の立派な成果ですが、ある意味1回限りのことです。一方、『手を握る』という行動課題と『手を握ろうとする』という行動課題の違いを理解したことは、今後、心理的抵抗があったり、必ずしも成功するとは限らない課題にチャレンジし続けるような、難しい局面で踏ん張る必要があったりするときに、ずっと使える経験知です。こちらを得たことも、なつをさんの立派な成果、成長の結果と言えると思います。」
ドクターにほめられ、なつをは少し頬が赤くなった。「先生、ありがとうございます。なんかとても嬉しいし、誇らしい気持ちです。」
「それで、なつをちゃんさぁ、彼とは結局つき合ってるの?」湯水ちゃんはそっちの結果が気になっているらしい。
「はい。」恥ずかしそうに小声でなつをが言った。「手を握った、その日のデートの最後に、彼が告白してくれて、そこから、お付き合いすることになりました。」
「やったじゃん!え?てことは今日は先生のおごりですよね?」湯水ちゃんはどうやら、先生と賭けをしていたらしい。詳細は不明だが、とにかく、なつをが彼と交際に至っていたら、全員の分のカフェ代が先生のおごり、ということだったらしい。カフェだが三人ともケーキのドリンクの、と結構食べていたので軽い夕食ぐらいにはなっている。
「はいはい、分かってますよ。とにかく、なつをさん、おめでとう。」ドクターが愛情深い目でなつをを見ながらそう言った。

・・・
ノートはここで終わっている。ゆり子はノートを閉じた。閉じてみて改めて眺めていると、この、一番古ぼけたノートは、なつをさんの大切な思い出が詰まっているように感じて、とても愛おしくなった。他のノートにもなつをは独特の存在感で登場しているが、このノートはなつをがまだ助手ではなく、クライアントとしてドクターに相談に行ったときのもので、それ故に、他のノートとは違った、特別な雰囲気、特別な空気感を感じるのだ。
「そっか。何か、1回では難しいテーマに取り組むときは、『やる』という決意ではなく『やってみようとする』という決意が大事なんだ・・・そうすれば何度も試みて・・・試みた時点で『成功』なのだから気持ちが重くならない。だから心が折れない。だから継続できて、結果的には実際に行動を起こせる。そんな考え方、誰も教えてくれなかったなぁ・・・やっぱりおじいちゃんすごい・・・」ゆり子はこのノートから学んだ一番大事なことを、自分の心に染みこませるようにつぶやきながら振り返った。そして、ゆり子はこの大切なノートを、かつて赤ん坊だった娘のさくらを抱いたときと同じくらい愛おしい気持ちを感じながら、両手で胸に抱いたのだった。

(つづく)

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なつをの夏の物語(23)|恋愛ドクターの遺産第10話

ノートにはまだ続きがあって、まだ丁寧な字でびっしりと何かが書かれている。ここまで心に響く内容だったので、ゆり子はこのノートを最後まで読むことにした。

・・・

「先生、実際にやってみて、できました!」なつをが嬉しそうに報告した。
今日はカウンセリングではないが、なつをは先生に、特別に会う機会をもらって、報告している。場所もドクターのいつものオフィスではなくて、落ち着いたカフェだ。湯水ちゃんもいる。ただ、仕事ではないのでとてもリラックスした表情だ。
「そう、それは良かった。1回目からできたのですか?」ドクターは、仕事ではないときも、論理的だ。
「いえ・・・1回目はダメでした。なんか、恥ずかしくなってしまって。」なつをはそう言いながら恥ずかしそうにしている。
「そう・・・じゃあ、何回目までチャレンジしてみたんですか?」ドクターは、ニコニコしながら聞いている。そもそも、できた、という報告なのだから、何回目であってもいいのだ。最終的には「できた」という報告になることが、もう分かっているのだから。
「3回目です。」なつをが、まだ少し恥ずかしそうに答えている。
「そう、じゃあ、3回目まで頑張ったんですね。」
「・・・そうですね。」
実はドクターとなつをは、前回のセッションの最後に出された行動課題をやってみた結果について話しているのだ。その時に設定した行動課題は、「彼の手を握ろうとする」というものだった。既にお互いに、人間的にはある程度信頼し合っているところまで関係ができていて、ただ、二人とも遠慮がちで、そこから「恋愛」という意味での進展がない。そういう状況であったので、ドクターが提案したのが「機を見て彼の手を握る」というものだったのだ。
但し、「手を握る」という課題だと、不成功に終わる可能性がそれなりにある。タイミングが悪い、踏ん切りがつかない、などなど、様々な要因によって。そうすると、何度か試みる際に「ああダメだった」という失敗体験を繰り返してしまうことになる。人は失敗体験を繰り返し、ネガティブな感情が積もった出来事を無意識に避けるようになる。手を握ろうとする→できなかった→少し重い気持ちで手を握ろうとする→できなかった→もう少し重い気持ちで、頑張って手を握ろうとする→できなかった→そろそろ、挑戦するのが嫌になったり怖くなったりする→やめてしまう、まあこんな風にマイナス感情は徐々に人の行動力を奪っていくものだ。そこで、ドクターが提案していたのは「手を握る」ではなく「手を握ろうとする」という行動課題だ。心理学をよく知らない人にとっては、どっちでも同じように感じるかも知れない。しかし、ドクターによればこの両社は「大きく違う」のだ。
頭の中で起きている事まで含めて、先ほどの感情の降り積もりを表現すると、こんな感じだ。手を握ろうと考える→この時点で課題成功→ただ、やっぱり実際に握って恋愛を進展させたいので行動を起こそうとする→(たとえば)恥ずかしくてできなかった→前回課題は成功しているので、次も軽い気持ちで手を握ろうと考える→この時点で課題成功→実際に握ってみようとする→タイミングが合わなくてできなかった・・・以下繰り返しになるが、ネガティブな感情の蓄積が少ないので、心が折れにくく、継続して取り組みやすいのだ。
「本当に、たったの3回で手を握れたんですか?」今度は、ドクターは、オフィスにいるときと口調が違った。なんだか、興味本位に訊いているような雰囲気だ。「ひょっとして、デートの3回目、とかそういう感じ?」
「えと・・・あ、はい。そうですね。」なつをは修正した。
「ああなるほどね・・・でも、1回のデートの中で、何回かタイミングを図ったりしたでしょ?」
なつをは「はっ」とした表情になり、しばらく目線を上の方に泳がせていたが、やがて答えた。「えと、あの、あ、はい。そうですね。あのあと、初めてのデートの時には、そういえば4、5回、手を握ろうと頑張ってみました。1回もできなかったんですけど。」
「まあ、課題は『握ってみようとする』でしたから、あのあと最初のデートから4、5回も課題に成功した、てことになるわけですね。」ドクターはニコニコしながらコメントした。
「はい。そうなんです!」なつをはここで一段と声が大きくなった。「これが『手を握る』という課題だったら、初回で4、5回失敗して、次の回に、彼とデートに出かけること自体が、怖くなっていたかも知れません。でも、課題は成功したんだ、と思うと、彼に会いたかったこともあって、次回会う約束を自然にしていました。」
「いいですね。大事なポイントをよく理解されています。4、5回の小さな成功体験を積み重ねたか、4、5回の小さな失敗体験を積み重ねたかは、そのあと、自発的に行動できるかどうか、ということに対して、バカにできないほどの差を生み出します。なつをさんは、このことを実体験から学んだわけですね。」ドクターは、今日は仕事ではないのだが、説明となると、オンの時も、オフの時も調子が変わらない。

(つづく)

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なつをの夏の物語(22)|恋愛ドクターの遺産第10話

あのときゆり子が感じた息苦しさは、いま、ドクターの、上質な質問を体験したあとだからよく分かる。幸雄の質問はなぜ苦しかったのか。それは、答えてよい答えの幅が狭いのだ。「幸雄が気に入る答え」という、きわめて狭い選択肢の中から、ゆり子が自分の答えを見つけなければならないのだ。当然、ゆり子にとって適切な選択肢がない場合も多い。だから、とても答えにくく、答える場合にもひどく神経を使う。
ふとゆり子は思った。自分も、つい感情的になったときは相手に選択肢を与えないような質問をしているかもしれない、あるいは、そこまでじゃなくても、答えてよい選択肢がきわめて狭い質問をしているかもしれない、と。おじいちゃんの、あの、相手に全幅の信頼を置き、相手が本当はどんな想いを持っているのか、純粋で誠実な関心を寄せる、あのような素晴らしく上質な質問は、多分できていないだろうと思った。
さらに一方、幸雄についてもこう思った。分かっていてやっているのか、無自覚にやっているのかは知らないけれど、とにかく質問を使って相手を自分に都合の良い方向に操作しようとしている。そのような意図、方向を持った質問を繰り出してくることがこれまで多かった、と。仕事をする上ではそのようなコミュニケーションの傾向は、トラブルを生む原因ともなるが、一方、成果を挙げたり、さまざまな意向を持っている人をひとつの方向に束ねていくときにはプラスに働くことも、きっと多いだろう。ただ、夫婦関係がこじれかけたときには、あんな質問しかできないのでは、あとは破たんへの道を歩むしかない。

「質問する、って、自分の『あり方』がすべからく反映されてしまうものなのだなぁ・・・」ゆり子はつぶやいた。
この日はもう夜も遅くなっていたので、ノートの続きを読むことも、ノートから学んだことについて考えることもおしまいにして、ゆり子は眠りに就いた。

・・・

翌日、ゆり子はまた、ひとりの時間に、「恋愛ドクターの遺産」ノートの昨日開いた部分を読み返していた。
そして、ひとり考えていた。「やっぱり、恋愛ドクターに質問されたいなぁ。おじいちゃん、まだ生きていてくれていたらよかったのに。あと、なつをさんにも会えたらいいのに・・・」
そして、父親に電話をした。「お父さん。あのね、あのノート、とても役に立ってるよ。でも、ノートを読むだけではなくて、実際におじいちゃんのカウンセリングを受けてみたくなったの。でももう亡くなってるし・・・あの・・・もし、なつをさんがまだお仕事をなさっているなら、一度お会いしたいなぁ。」
「ああ、なつをさんね。数年前まで現役でカウンセラーをされていたと聞いていますよ。でも最近引退されたようです。ただ、なつをさんの専門分野は恋愛や夫婦関係ではなかったように記憶していたけどなぁ・・・」父親は答えた。結構よく知っているようで、続いてこう言った。「なつをさんが主催しているカウンセリングオフィスは今も継続していて、あとを継いだカウンセラーたちが、今も相談を受けているはずだから・・・ちょっと連絡を取ってみるよ。」
「お父さん、ありがとう。」

その後、ゆり子は父親に、ドクター(つまり祖父)の質問がとても素晴らしいと思ったこと、それを理解したら、夫である幸雄の質問が途端に「詰問」に感じられて、とても狭い範囲でしか答えられない息苦しさを、ようやく自覚したことなどを話した。
ゆり子が「残念だけれど、離婚の方向で進むことになるのかなぁ。」と、ぼそっとつぶやいたら、
父が言った。「ゆり子はここまで一生懸命考えたのだから、どんな結論を出したとしても、お父さんはゆり子の決めたことを応援するよ。」
「ありがとう。お父さん。」

ノートにはまだ続きがあって、まだ丁寧な字でびっしりと何かが書かれている。ここまで心に響く内容だったので、ゆり子はこのノートを最後まで読むことにした。

(つづく)

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